第二傷重症、重症からの新たな絆 第19話
沙々の言葉に観客席がざわつく。
太刀川という人はいないか、と人探しがはじまった。
それでも太刀川という人は見つからず、親御さんのリーダー的存在が利一たちに向かって、バツサインを送った。
「クソッ、おれは嘘だったのか……?」
利一の口調が荒くなる。
その様子を見て、沙々が再び口を開いた。
「……い、零、れ――――いっ」
沙々から聞いたことのない大声だった。
「誰?」その場が口々にささやく。
その中、
「はーい」
体育館の入り口に手を上げた女の子が現れた。
その子は沙々の下に駆け寄る。
「わたしが太刀川
空気を読まない明るい態度に、利一を囲む人は零と名乗る女の子に疑いの目を刺す。
「誰?」
後から来たきいろが皆の声を代弁する。
零は沙々と腕を組んだ。
「わたしは沙々くんの彼女でーす」
「何言ってんの?」
きいろが零に掴みかかる。
「いいの? 利一くんを治さなくて」
「そ、そうね」
きいろは何食わぬ顔で渋々身を引いた。
「じゃあ、治すけど、沙々くんと二人で力を合わせなくちゃいけないんだよね?」
零に強く腕を掴まれ、沙々は頷く。
「じゃあ、沙々くん。そのコートを利一くんの脚にかけて」
沙々は零の言うままに羽織っているコート脱ぎ、利一の脚に掛けた。
零はしゃがんでコートの中に手を忍ばせ、利一の両足に触れた。
「何だっ」
利一は唐突に脚を触られ、怪訝な視線を零に送る。
「だから、治すんだって。いくよ」
零は大きく息を吸った。
『痛いの、痛いのさようなら。痛いの、痛いのさようなら――』
そう謎の呪文をとなえながら、利一の脚を撫でる。
その場にいた人々は、はったりじゃないか、と目を瞬かせる。
おまじないと共に、零の瞳が赤く発光したのを利一は見た。
なんともいえない不思議な空気が流れ、一同が黙って見守る。
「はい、これで治ったよ」
零の赤く灯った瞳が元に戻り、両手をコートの中から出す。
途端、零は顎を竹刀で突き上げられたように、後ろにひっくり返った。
「太刀川さん?」
沙々が零の顔を覗き込む。
零は気絶しているようだ。
脈を急いで確認され、沙々は安堵した。
「すみません、気絶してます。
安静な場所に運んでください」
沙々の言葉に利一は立ち上がる。
「大丈夫か――あ」
「九十九、立って大丈夫か⁉ 座ってろ‼」
「…………脚が、脚が治ってます‼」
そう言って、興奮しながら利一が高いジャンプを数回繰り返す。
「脚が軽いっ。コーチ、俺、まだやれます‼」
利一が元気な姿を見て、観客席はまばらに拍手をする。
コーチは再び脚を触る。
「おおっ、治ってる‼ よくわからんが、それならいい。よし、この子を医務室へ運べ‼」
零は部員の手を借りて、医務室へ運ばれた。
「沙々どういうこと?」
きいろが沙々を停めて、険しい表情でそう問うた。
「ごめん、あとで説明するから、きいろは利一をお願い」
そう言って沙々はきいろの手を払い、零と共に医務室へ向かう。
「沙々……」
手を払われたきいろは、呆然と立ち尽くしていた。
「ほら、君コートから出て。試合再開するから」
肩を掴まれ、きいろはコートからつまみ出された。
観客席で見ていた人々は何があったのかわからないが、試合が続行となり、再熱。
ビーッと強く笛を吹かれ、試合は再開した。
利一は活力に満ち溢れ、ラケットを構えた。
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