第一傷初めて、初めての裏垢男子と鐘 第7話

 沙々は教室は席に着くと、マナーモードにしておらず、ライン通知音が教室中に響いた。

 画面を隠れて見ると、零からの通知だった。


「誰だー、授業中だぞー」


 担任の先生が犯人捜しをすることがなかったのが、唯一の救いだった。


 隣の席のきいろにノールックで付箋を渡された。


(どうしたの? しゃしゃのラインだよね)


と書かれていた。恒例の付箋トークが始まった。


――おせっかいだなあ。


なんて思いつつも、そのおせっかいに多々救われているので、文句を言えない。


 沙々は付箋の裏に、返事を書く。

 慎重に先生の目を見計らって、きいろの机の端に付箋を貼る。


(お母さんに体調悪くなったの相談してた)


(そっか、もう大丈夫なの?)


 会話が続いたので、面倒くさくなり、沙々はきいろと顔を合わせ、親指を立ててグットポーズをした。

 きいろの口が緩む。

 笑いそうになったきいろは口で手を押さえてから、口パクで返事をされた。


(よかった)


 沙々は、うん、とうなずいて会話を終わらせた。 

 途中から授業に入ったが、予習していたので沙々はすぐに授業に入っていけた。

 それよりも治してもらった腕がムズムズとうずいて仕方がなかった。


――不思議な子だったな、太刀川さん。


 一番後ろのドアの近くにある彼女の席に目をやると、まだ来ていなかったようだ。




 休み時間になり、次は移動教室だ。

 科学の教科書一式を持って、きいろと廊下を歩く。

 沙々ときいろの二人だけクラスから一目置かれ、物理的にも距離を置かれている。


「ねえ、きいろ」


 少しだけきいろ側に身を傾ける。


「何? まだ体調が悪いの?」


 沙々はかぶりを振った。


「ううん。あのさ、あんまり教室にいない廊下の一番端の席の子ってどんな子?」


 きいろが目を点にしたので、沙々はすぐに弁明する。


「ほら、高校はこうやって毎日通えてるから、みんなと仲良くなりたいなって」


「そう」


 きいろが納得していつもの目に戻ったので、沙々は胸を撫で下ろす。


太刀川零タチカワ レイって女子よ。でも、はっきり言って」


 きいろは辺りを見渡してから、沙々に距離をつめてから、コソコソ話をするように言った。


「うちのクラスにいる鬼塚還太朗オニツカ カンタロウっていうヤンキーがいるでしょ。その鬼塚ってのが、太刀川さんを無視しろって指示を回しているみたいで、誰も話かけちゃいけないってがあるの。だから、その子とだけは仲良くするのはよした方がいいよ。目を付けられちゃ面倒でしょ? それに沙々が話かけたら、あの子も変に注目されちゃって可哀想じゃない。


 入学して一か月しか経ってないが、きいろはクラスの子の名前と事情を把握しているあたり、尊敬で頭が上がらない。

 そして、零が行っていた決まりが何なのか分かり、腑に落ちた


 ――そっか、無視されるように決まってるんだ。太刀川さんも大変だな。学校って難しい。


「そっか、僕が話しかけると迷惑な場合もあるんだね。勉強になったよ、これから気を付ける」


「べ、別にそういうことを言いたいわけじゃないけど。まあ、沙々だとそういうことも無きしもあらずだから気を付けた方がいいねって話であって、あんまり気にしないで」


「大丈夫だよ。別にきいろが悪く言いたいんじゃないのは分かってるから。ごめんね、いつも嫌な役ばかりさせて」


 かーっと沸騰するきいろ。きいろは教科書で顔を隠し、窓側を見た。


「そ、そういえば小テスの答え合わせさ、隣の人と交換して丸付けするらしいよ。沙々が丸付けするでしょ、ちょっと緩くやってよ」


「…………」


 眉間にシワを寄せて悩む沙々を見て、きいろがツッコむ。


「いいよっ、駄目なら駄目っていいな‼ 沙々は意志が弱いんだよ‼ そのままだと変な女に捕まっちゃうよ⁉ ちゃんと駄目って言えるか心配」


――もう捕まってしまったけど、それは言わない約束だからな。


「言えるよ。ダメッ、でしょ?」


 小首を傾げる。


「うっ」


 きいろは、沙々の爆弾にダメージを受ける。


「どうしたの、きいろっ」


「いいのよ……早く行こっ」


 体裁を整え、きいろは沙々の手を引っぱって歩む。

 きいろと沙々だけ、感覚が小学生のままなのをツッコむ友人はおらず、二人は廊下を進む。こそこそと陰口をたたかれていたが、きいろは気に留めない。


――いつまできいろはこのままなんだろ。僕たち子どものままじゃないんだよ。彼女、いるんだよ。それに好きな人も……。


 沙々は霧掛かる思いにそっと蓋をした。

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