第一傷初めて、初めての裏垢男子と鐘 第二話

 一か月後、沙々が靴箱を開けると、そこには一通だけ手紙が入っていた。疑心を抱いた。

 「あれ、きいろのおかげで手紙は減ってきたのに」と。そして、沙々は目を瞠った。

 その手紙には沙々の身に覚えのある名前が書かれていたからだ。


――最悪だ。


「おはー、ほら靴箱には何も入ってなかったでしょ?」


 背後から元気に挨拶するきいろに隠れ、手紙をカバンに忍ばせた。


「うん、もう何も入ってなかった。きいろが何かしてくれたの?」


 沙々の言葉にきいろは胸を張って答える。


「そうだよ、わたしの友達総出でラブレターを送った人に熨斗ノシ付けて返してきたの。それと、各クラスラインにあのルールのことも説明したから、もう被害は出ないはずだよ」


「先輩たちにはどう説明したの? 痛っ」


 沙々が咄嗟に左腕を押さえた。


「どしたの⁉」慌ててきいろが沙々の顔をうかがう。


「大丈夫、点滴のかさぶたから血が出たみたい。ちょっと保健室に行ってくる」


「そう……先生にはわたしから伝えておくから、ゆっくり行ってきな」


「うん、ありがと」


そう言って沙々は保健室へと向かった。


 残されたきいろに通りがかった男子から野次が飛ぶ。


「ひゅーひゅーっ。栗栖は沙々様のことが好きなんだーっ」


「違うわ」


 きいろの友人がそれを否定する。


「わたしたちは沙々の守備同盟なのよ‼ そのリーダーが幼馴染のきいろってだけ。ね、きいろ」


「そ、そうよ」


 自分のいいように話を振られたきいろは腕を組んで自信満々に応える。

 守備同盟とは小学生の頃に結成した沙々を守る同盟で、女子だけでなく男子も混じって構成されている。


「じゃあ、栗栖は沙々の母ちゃんだな」


 にやにやと男子がきいろに突っ掛かる。


「……ま、そんな感じね」


 あっさり認められ、男子たちは歯切れ悪く毒づいて去っていった。


「気にしないで、きいろ」


 友人は去っていく男子たちを睨みながら、きいろを慰めた。


「いいよ、よくからかわれてきたのは慣れっこだし。あんな冷やかし屁でもないわ」


「そうじゃなくて、あの男子、見覚えない? きいろのこと好きなんだよ、わかんないの? 誰も言わないから、わたしが言うけどさ」


「え? うん……まあ、気が付いてはいたかな」

 

 明らかに目を泳がせてるきいろ。


「嘘、気付いてないじゃん」


 図星を衝かれ、白状するしか道はなくなった。


「も~、そういうことは疎いって知ってるでしょ‼」


 おちゃらけ交じりに友人を突っつく。


「だってーあんまりにもきいろが沙々のお世話しているのを見て、結構男子に好評らしいの気付かないからー」


「え⁉ そうだったの?」思わず声が上ずる。


「えっ、本当に気付いてなかったの⁉ あんた、モテてたんだよ? 傍から見たら、面倒見がいい人妻なんだから、男子の的にヒットしてるんだよ?」


「人妻って誰の妻よ」


「えっ、沙々の妻」


 真顔の友人に指さされ、きいろはみるみるうちに真っ赤になる。


「違うって‼ わたしは沙々のお母さん役なの‼ 決まってるの‼」


 きいろは羞恥心で胸がいっぱいになり、バシバシと友人を叩く。


「ほほぅ、流石きいろ様。鈍ちんですなぁ」


 含みのある笑みを浮かべられ、きいろは耐えられなくなり「もう行く‼」と話を畳んだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る