第24話 噂
蓮の職場は、9月の異動でとんでもないイケメンが来たと話題であった。捜査第一課長に就任した蓮の噂は瞬く間に広がり、女性職員たちが一斉に狙いを定めたものの、1ヶ月で結婚指輪をはめて来たものだからさらに大騒ぎになった。
さらに男性にも女性にも平等に接することでさらに評判だった。
蓮の結婚式に来た警視正の東堂美佐子は、蓮をよく知らないうちに、結婚式のムービーを見て、どんなチャラ男だろうと思っていたので、女性に声をかけられるのを見るたびに、少し嫌味を言っていた。
女性たちからは、「おばさんのくせに、何あれ嫉妬?」などと言われていたが、なりふり構わず上昇志向の強かった東堂はそのようなことを構ってはいなかった。嫉妬をしていた訳でもなく、妻がいるのに他の女性にもチャラチャラと愛想を振りまいているのかと不信感を抱いたのだった。
しかし、冷静で、寡黙、ぶれない男だと分かると自分の見立てが間違っていたのだと思い。ただ奥さんを溺愛しているだけなのだとわかると、むしろ可愛げがあると思うようになった。
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10月も終わりに迫る頃、毎年恒例の騒ぎで黎明は交通整理に駆り出されていた。ハロウィーンである。
ハロウィーンが近づくと、混雑回避のためのいろいろな呼びかけや、ゴミの注意、路上での飲酒の注意、公共トイレの占有の注意など、さまざまな仕事があった。また、職務質問の機会も増えた。子ども向けのハロウィーンのイベントが行われるような街ではなかったので、悪趣味な仮装も多く、見つけるたびに職務質問をした。
見回り中にナンパされた時に、
「仮装ではありません」と無表情で言うと、赤松に大笑いされた。
ハロウィーンは31日金曜夜に最も盛り上がりを見せた。道路は人でごった返し。交通整理にDJポリスが活躍した。
その中通報が入った。クラブで薬物を盛られたかもしれないと言うものだった。赤松と共にクラブに到着すると、ゾンビのような看護師の仮装をした女性が具合が悪くなり、同じくゾンビ仮装の女性に介抱されていた。
「大丈夫ですか?何があったか詳しく事情を伺えますか?」と、女性の黎明が先に声をかける。
「男の人がドリンクを奢ってくれたから、それを飲んだら急に気持ちが悪くなって」と、女性が泣きながら話す。ゾンビの化粧が濃すぎて顔色から体調が判断できない。
「どうしよう私大麻とか入ってたら、逮捕されちゃうんですか?」と涙ながらに女性が聞く。
「大丈夫です、大麻なら使用したところで逮捕されません」
「真木巡査、確かにそうだけど。大麻かどうか不明だし故意に使用したの出なければ逮捕されないと今は言うべきだと思うよ」と、赤松に突っ込まれる。
「誰に盛られたかははっきりわかる?」と赤松が聞く。
「私動画撮ってました」そう言って具合が悪くない方のゾンビが動画を見せた。
ゾンビ2人が自撮りで動画を撮っているだけのものだった。
しかし
「あ、ここ!」と、健康なゾンビが差したところにバーカウンターに座っている、海賊の格好をした若い男性が写りこんでいた。
「この人です、ドリンクを渡して来たのは」
赤松はすぐに辺りを見渡す。しかし、警察がきたことで警戒して逃げられたようだ。
「ドリンクのグラスは?」
「下げられてしまいました。でも、これ」
そう言う彼女のハンカチに包まれていたのはドリンクに浮かんでいたという花だった。
「ナイスプレイだよ。」と赤松がいい、ハンカチごと預かって袋に入れた。
「もう少しで救急車が来るはずだから待っていてね」そう言って黎明が励ます。
「赤松警部補、そのお花の匂いを嗅いでもいいですか?」
「は?」
「ちょっと気になることがあります」
「触らないでね」と言って袋を開けて黎明に向ける。
「何か変な匂いした?」そう言う赤松に
「薬物の匂いを知らなくて…」と黎明が言ったので赤松はやれやれと言う顔をする。
そのうち救急車が到着して所轄の警察官が引き継ぎをした。黎明達は、写真を他の警察官と共有して捜すことになった。
「待って!その男の人どこに座ってました?」と黎明が健康なゾンビを呼び止めると所轄の警察官が睨みつけた。しかし気付かぬふりをして、聞き出した。
「ありがとうございました!」と黎明は所轄の警察官に敬礼するとその椅子へと向かった。赤松は何をするのかと興味深く見ていると、椅子に何やら顔を近づけたり、テーブルに顔を近づけたりしていた。
「何か手がかりになりそうなものは見つけた?」と聞くと、
「この、白い粉なんですかね?」
「へえ?」と赤松が近づく。
「どこ?」
「ここです」
「え?よく見えないけど」と言っていると
所轄の警察官が
「何をしている!」とやってきた。
黎明が説明をすると、すぐに現場の保存にかかった。
聞き込みは所轄に任せ、黎明たちはクラブの外で男を探すことになった。
しかしこの人混みの中、1人の男を探すのは不可能に近かった。
「真木巡査、男の次の行動は想像できるかい?」
「薬を盛ってどうこうすることが目的だったら失敗したので次のターゲットを探すでしょうか?」
「でも、警察がたくさんいるからね、用心するかもしれない」
「それではもうこの辺りは離れてしまったのでしょうか」
「俺はそう思えない。彼の仮装は自分に自信があるタイプの仮装だった」
「確かに」
「それでこのハロウィーンの人混み、イベントで気が緩んだり、普段はクラブに出入りしないような慣れていない客も混ざっている。この機会をみすみす逃すだろうか。」
「カモだらけですね」
「ああそうだ」
「私がカモならとりあえず大きなハコに行ってみようと思うかもしれません、先ほどのクラブも人気のあるところのようでしたし」
「じゃあ行ってみようか」
黎明達は聞き込みをしつつも若者に人気の別のクラブへと向かった。
大音量で流れるハウスミュージックと下品なシンセサイザーで頭が痛い。露出の多い女性たちが踊っている。
「ハズレかな」そう言った赤松。
しかし黎明はさっきの白い粉の匂いが客からしていることが気になっていた。
しかし海賊がいないので、そのクラブを去る。
2件目のクラブ、そこは安価で入門編という感じのクラブだった。レーザーが光り、若い年齢層の仮装をした男女が踊っている。
早速黎明達は聞き込みをはじめる。バーテンダーに聞き込みをした時だった。
バーテンダーの目が少し動揺したのを赤松は見逃さなかった。
そしてバーテンダーの手がスマホに伸びる。
「ごめんね、忙しい中、ここにさっき座ってた女の子、知らないかなあ」
「ええと?どんな子ですか?」
「海賊の服きたイケメンと一緒だったんだけど」
「いや、知らないですね。この通りお客さんひっきりなしなんで」
今度は立板に水だ。
赤松は黎明に頷いた。
「この店、VIPルームとかあるかな。見せてもらえる?」今度は有無を言わせない感じで聞く。
「いえ、お客さんに迷惑になってしまいますから」と言う。
「君たちも飲み物持って行ったりするでしょう?ちょっとお巡りさんが一緒に行くくらい怒らないと思うよ〜」
「…」
「あれ?どうしたの?何か隠してたりする?」
「…」
「それ、お兄さん、共犯になっちゃうからまずいんだよ。今警察が大勢探し回ってるからね、ここにももう少しでいっぱいきちゃうよ」
「ここで協力してくれたらお兄さんの罪はちょっと軽くなるね」
そう赤松が説得する。
「わかりました」
そう言いながら、赤松は男が素早くスマホの画面の上で親指を動かしたのを見た。
「真木巡査!裏口だ!」赤松が叫ぶ。
「裏口!」ってどこだ?
とりあえずビルの外に出てぐるっと回ると、階段が見える。
VIPルームの方に向かう赤松。必要以上にもたもたするバーテンダー。
その時、奥から海賊の格好の男が走って出て行くのが見えた。赤松は追いかける。案の定男は裏口へ向かった。裏口を出ると階段を上がってきた黎明と鉢合わせする。そして後ろからきた赤松と挟み撃ちにされる。
赤松が無線で男を見つけたことを報告した。所持品をチェックすると粉の入った小さなビニール袋が見つかった。
その後、男が使ったのはコカインであることが判明した。
その話を後から聞いた黎明は青ざめた。別のクラブで聞き取りをしている時に同じ匂いを感じたからである。
海賊コスプレの男は、ドリンクなどに盛るなどして相手を薬漬けにして、コカインを転売して利益を得ている悪質な犯罪者であった。
コカインは中毒性の高い薬物である。加害者はもちろん、被害者であっても、見過ごせない。
赤松は黎明にも考えさせるように教育してくれていたので、黎明はクラブ周辺の巡回の際にコカインの匂いのする人に職質をかけることにした。
しかしどんなにコカインの匂いがしても、所持していない場合は何もできなかった。
そんな悩みの中、職質をしたら逃走した男がいた。赤松に追うようにとの指示をもらい、黎明は余裕で追いつくと、前に立ちはだかった。すると「どけえ!」と言って、体当たりしてこようとしたので、公務執行妨害で確保した。
所轄署まで同行させると、所持品から薬物のようなものが見つかった。
「君は研修中だそうじゃないか、お手柄だったな」と、所轄の巡査部長が声をかけた。
「赤松警部補のご指導のおかげです」と、黎明は言う。
「彼女はとっても勉強家なんだ」と言う赤松。
黎明は赤松が職質をかける人に、どうして職質をかけたのか一回一回聞いていた。
「君は刑事を目指しているのかい?」と、巡査部長が聞くと、
「生活安全課を志しておりましたが、現在は他の選択肢も考えています」と、黎明は答える。
「そうか、この前赤松警部補と売人の確保に貢献したそうだけれど、薬物の取り締まりに興味がでた?」
「はい、この間の犯人のやり口は許し難いと思いました。ですが薬物の実物を見ても初めはわからなかったので今後のためにも一度どのような薬物が存在しているのか実物を見てみたいと思いました。」
要するに一回嗅がせろ、と言うことだった。
「はは、熱心だね。薬物なら警察犬の訓練所で見るのが一番早いと思うけれど、研修に行ってみてはどうだ?」と巡査部長。
「見るだけなら私が紹介できるよ、同期が働いているから」と赤松。
「そうでしたか、それなら是非赤松警部補にお願いしてみてはどうだ」
「はい!ぜひお願いします!」
こうして黎明は警察犬の訓練所に行くことになった。
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「おかえり!」
蓮が家に帰ると玄関で黎明が待っている。飼い主の足音を聞いて玄関で待っている犬のようだった。表情が豊かではない黎明だが、尻尾を振っているように見えてしまうのが愛おしかった。
「ただいま」
ああ最高だな、と蓮は思う。
本当は毎日こうして迎えてほしいけれど、それは難しい。
蓮は黎明が家にいる日、特に明けの日は猛スピードで仕事を終わらせて、何がなんでも早く帰ると言う勢いで帰ってくる。
それを全く知らない巡査が夕方に面倒な案件を持ち込もうとしたところ、
恐ろしく冷たいトーン、しかし静かに
「なに?」とひと言言われただけで震え上がったと言う。
親切な警部が、奥さんが休みだからはやく帰りたいんだよ、と後で教えた。
それ以降どうしても声をかけなければいけない時は互いに押し付け合いが行われていた。
「今日は早かったね」と黎明が言う。
「黎明に早く会いたくて頑張った」
そう言うと後ろからぎゅっとハグをする。
「嬉しい」そう言って蓮に寄りかかる黎明。
たまらずちゅっとしてしまう。
「ご飯できてるよ」
「今日は何?」
「かぼちゃのニョッキだよ」
以前は和食を作ることが多かった黎明だったが、三木の母のレシピにハマったのと、結婚祝いに素敵な洋食器をいただいたことから、洋食が多くなっていた。
「美味しそう!ニョッキ自分で作ったの?」
「うん、また三木先輩のお母さんのレシピ」
「随分気に入ったんだね」
黎明が三木の母のレシピを気に入っているのは、蓮にも評判がいいからだ。もしかしたから小さい頃から三木の母の料理を食べていたからかもしれない。
「このニョッキ普通よりもちもちしてて美味しい。そしてこのホワイトソースも独特でよく合うね」
「ありがとう、ホワイトソースは酒粕を使ってるの」
「だからか、身体に良さそうだね」
蓮はいつも料理の感想を言ってくれるから作りがいがある。父と2人で家事を分担してきただけあって、作る側の気持ちがわかるのかもしれない。
「俺もおばさんに料理の基礎は習ったんだ」
と、蓮が言う。
「初めて親父にオムライスを作った時、あれは小3か4ぐらいだったかな、泣かれたよ」
「そうだったんだ、お父さん嬉しかったんだね」と黎明が微笑む。
「風音の味だって泣いていたよ」
風音は蓮の母の名前だ。
「お母さんと三木のお母さんは親友だったんだよね」と黎明は言う
「料理も習ったのかもな」と蓮は言った。
「そのオムライス私も食べてみたいな」
「いいけど、俺他にも色々つくれるよ?」
黎明は大学生になってからしっかり自炊していたし、作ってもらったことも多かったから蓮は黎明に自分の手料理を食べさせたことはなかった。しかし家事経験は蓮も長かった。
「蓮のお母さんの味食べてみたいの」
「そっか、いいよ今度作ってあげる」と、蓮は笑った。
蓮に警察犬の訓練所に行く流れになったことを話すと、
「黎明は警察官じゃなくて警察犬、いや警察猫になりたいの?」
と、大笑いされた。
「また猫扱いする」
「喧嘩しないようにね」
「何と」
「犬と」
「しないってば」
と黎明が拗ねる。
「そういえば警察猫ってなんでいないの?」と黎明が聞く
「さあ、しつけにくいからじゃない?」と蓮が言う。
「なんか、気に触るな」
「はははっ!やっぱり猫代表してるじゃん!」
「蓮のせいだよ〜」と言う黎明。
こんな他愛もない会話をできる今がとても幸せだ。
黎明は交番勤務で四交代制だったので、家に帰れない日もあるが、自分が家に帰れば必ず蓮も同じ家に帰ってくる。そして蓮を朝送り出すまでずっと一緒にいられる。
「ご馳走様、片付けは私がしておくから蓮は先にお風呂入っておいでよ」
真木家でご飯を作ったときは蓮はいつも片付けをしてくれていた。
「一緒にやった方が早く終わる。お風呂も一緒に入ろう」
片付けは、たしかに一緒の方が早そうだ。しかし、お風呂はどうだろう、と黎明は思ったが少しでも一緒に過ごす時間を取りたいので片付けは共同作業にした。
狭いキッチンではなかったが、蓮は身体が大きいので、2人が立つと互いに配慮が必要そうであったが、黎明は障害物を避ける猫のように滑らかに動くので、少しも狭さは感じさせなかった。
お風呂は1人で入ると黎明は主張したが、
「まだ恥ずかしがってるの?」と言いながら口付けてきた蓮にいつの間にか流されていた。
湯船は、190cm近い蓮でも脚を伸ばせる大きさだったのでそれほど窮屈でもなかった。海外の人も多く住む地域だからかもしれない。同じマンションで欧米人にすれ違うこともあった。
黎明は湯船の中で、蓮に後ろから抱き抱えられるようにして浸かっていた。
いつ見てもその精悍で整った顔はもちろん、鍛え抜かれて均整の取れた美しい筋肉美を黎明は直視することが今だにできない。
なのに蓮はくるっと黎明を向き合う形に座らせてしまう。
黎明は目を逸らしている。
「こっち向いてよ」
2人の視線が絡む。
その時一瞬黎明の瞳孔が縦になりそのあと丸く開くのを見た。結婚式の夜一瞬だけ見えた気がしたけれど気のせいではなかった。
黎明の細い指先が蓮の首筋に触れ、胸、そしてその下へ降りる。
そして口付けてくる黎明、少し挑発的な目。豹を彷彿とさせる。
これはやばい。
「持ってくればよかったな…」と蓮が言うと
ハッとして少し照れる黎明。
「その眼、すごくそそるんだけど、今一瞬だけ瞳孔縦になったよ」
「えええ⁉︎嘘⁉︎」
「結婚式の夜も一瞬あれ?と思ったけど気のせいかと思ってた」
「普段カラコンしてるんだから大丈夫じゃない?」と困り顔の黎明に蓮が言う。
「隠れるかな?」
「黒っぽいカラコンだから大丈夫じゃない?」
「俺しか見ないよ」とキスをする蓮。
「続きはベッドで」
あれがないのにこれ以上は我慢できそうにない。
「蓮…あっ、蓮っ…!」
「はぁっ…んっ…何?」
「今日はっ…これでっ最後だよっ!」
もう3回目である。
「さあっ…どうかな!」
ベッドの上で絡み合う2人は乱れた息で途切れ途切れに言葉を発する。
「んあっ…あっ」
「声…もっと聞かせてよ。防音性高い家だから大丈夫」
そう言いながら、一気に奥まで突きあげる。
「ああああっ!ぁあん!」
「あっ…あっ…あっ…イくっ…」
「俺も…イきそう…」
どくどくっとそれ越しでも温かいものを感じる。
「はぁ…」蓮の溜め息が漏れる、
「蓮が寝不足になっちゃうから、これで最後なんだからね」
「わかったよ、気遣ってくれてありがとう」
そう言って、お風呂に入ったのにぐっしょり濡れているそこを優しく拭いてくれる。
そして、2人は抱き合って眠る。
次の朝、早朝に蓮が目覚めるとトレーニングウェアを着込む。
「私も行く」
蓮は毎朝欠かさずランニングをしている。
黎明も一緒に走るためにウェアとシューズを買った。
初めは手探りだったランニングコースも最近定まりつつあった。少し電車に乗れば多摩川沿いを走ることもできたが、休日以外は近くの大きめの公園の周辺を走ることにしていた。
規則正しい生活をしている人も多いので、「あ、また会ったな」という人もちらほらいた。その中に、陸上部の高校生男子がいたのだが、凄いペースで走るカップルを見て、何者だろうと思っていた。体格が良い方の男はスポーツ選手の可能性があると思っていたが、それに苦もなく付いて行っている女性もスポーツ選手なのだろうか、それにしてもペースを上げすぎていないかと思った。
「早朝はまだ空気が少し綺麗だから気持ちいいね」
「ああそうだな、黎明もそう思っているならよかった」
2人が住む地域は、住宅地ではあるがやはり都市部なため空気は悪かった。
「帰ったらコーヒーを淹れよう。昨日帰り道に美味しいパン屋さんを見つけたから今日はパンだよ」
「おおそれは楽しみだな」
黎明と住むようになってからQOLの上昇が止まらない。
家に帰って軽くシャワーを浴びて、美味しい朝食をいただくと、仕事に出る。
少し歩くが最寄駅から蓮の職場までは電車で一本なので意外と朝は余裕があった。満員電車はきつかったが、頭一つ上に出る分まだマシだ。
「いってらっしゃい」
「いってきます」そう言って蓮は黎明にちゅっとする。
微笑む彼女の顔を見て、今日も頑張ろうと思えた。
蓮の職場では面倒な案件は奥さんが労休の日に相談するようにという暗黙の了解ができた。
労休の日は、朝黎明に送り出され、夜も迎えてもらえる。朝から夜までずっと空気が柔らかなのが表情が変わらなくても皆わかったからだ。
「奥さん一体どんな方なんでしょうね、やっぱりすごい美人でしょうか」
と、以前蓮に震え上がった巡査が巡査部長に聞くと、
「所轄で警察犬って呼ばれてるらしいぞ」
と巡査部長が言った。
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