第18話 卒業式 (第1章終わり)


3月、黎明と三木は卒業式を迎えた。暁は休学を挟んだので黎明と卒業時期がずれた。


黎明は、蓮の母親の振袖と袴を貸してもらうことになった。蓮の母方の祖父母がぜひ着てほしいと貸してくれたのだ。蓮の母親もスラリと背が高く綺麗めの顔立ちだったので、仕立てたように黎明によく似合っていた。


大学の卒業式は何百人も卒業生がいるので、学位記を一人一人手渡すようなことはできないが、黎明は成績優秀者であったので、学部の代表として、卒業式で学長から学位を授与された。


さらに、児童養護施設出身者の社会的課題をテーマに書いた論文も表彰され、メディアにもよく登場している教授のコメント共に大学のホームページのトップ画面に掲載された。


卒業式は、穂積はもちろんゼミの友人達なども一緒に写真を撮ったりして、学生生活の最後を学生らしく華やかに祝うことができた。高校までは周りと少し距離をとって過ごしていた黎明だったので、大学生活は思い切り学生を楽しんだ気がしてとても充実していたと感じた。


夜はフリースペースを貸し切って、バンド関係者のメンバーで盛大にお祝いをした。袴を着ていた者たちはドレスに着替え、黎明はベルベット黒のイブニングドレスに着替えた。三木、暁、黎明、穂積はもちろん、すでに就職していた保井や、アスミ、そして蓮も参加した。そのほかも裏方のメンバーや三木が今まで連れてきた色々な楽器の演奏者やラッパーなど、高校時代に関わった者達も含めて多種多様なメンバーが集まった。黎明の知らない顔もいくつかあった。

三木が以前突然連れてきて戸惑ったドレッドヘアーのヒッピー風黒人ラッパーは、他大学で音声学の教鞭をとる教授だったと判明して驚いた。彼は黎明がまだ高校生だった時に、ラスタファーライの何たるかについて3時間くらいかけて黎明に力説した上、レゲエを歌うときの声の出し方、英語の発音や、黒人英語の発音を散々練習させられた。そのせいなのかなんなのか黎明の英語は黒人英語の癖が付いている。人に教える仕事をしている人だとわかり、黎明は納得だった。


そして、最大のサプライズはすでに午後10時を回ったくらいに始まった。


保井がマイクを取ると、

「本日は、みなさんにお集まりいただきありがとうございます!今から卒業生のみなさんに僕達からサプライズのショーをお届けしたいと思います!今夜一夜限りのバンド!三木の愉快な仲間たちです!」


「適当かよー!」とバンド名を突っ込む三木の野次が飛んだ。

ガヤガヤと笑いが湧いた。


防音の部屋に楽器、誰が弾くんだろうと思っていたがこういうことだったのかと黎明は思った。


キーボードの位置につく暁、ドラムの位置にいつものように着く保井、そして出入りしている顔馴染みのメンバーの1人がベースそしてまた1人知らないメンバーがリードギター。彼は三木の高校時代の友人らしい。そして、最後にボーカルに立った人物に黎明は息を呑んだ。蓮だ!


「イケメンすぎて出禁になった伝説のメンバー!蓮さんの登場でーす!」と、保井が叫ぶ。会場が盛大に湧いた。やめてくれよと言う目で蓮が天井を仰ぐ。


「一曲目、テイラー・スウィフト!」


「えーーーーーーー!!!!」会場が驚きに満ちる


「えへへ冗談!」

笑いがどっと湧く


「えー改めまして、一曲目、テイラー・スウィフト!22!」


「えーーーーーーー!!!!」と会場が湧く中イントロが始まる。


本当に蓮がテイラー・スウィフトを歌っている。流石にキーは落として…いなかった。この曲ってこんなにセクシーな曲だったっけと誰もが思った。

これは永久保存版だと黎明は思った。

最高に盛り上がって大歓声が沸き起こった。


「めちゃくちゃ盛り上がってますねーー!!!そのまま二曲目!!!行っちゃいまーす!!!これこそ出禁ナンバー!!!コールドプレイ!Viva la Vida!!!!!」


暁がキーボードで前奏を始めると、また大歓声が上がる。


♪ I used to rule the world 〜


と始まると女性陣の「キャー」という声が上がる。


これは間違いなく出禁曲だ。そして間奏の部分リードギター、やたら上手い。編曲は暁だろうか。暁もループを使いながら器用にストリングスなども入れて複数の楽器の音を作り出している。


そしてサビの盛り上がりの部分で、激しく手作り感が溢れるくす玉が割られて、「卒業おめでとう」の文字が表れた。


歌っている蓮は生き生きとして初めて見る顔だった。


ラストのサビでは

会場のみんなで

♪oh oh oh〜oh oh〜と歌ってライブの一体感が出てきていて、最高潮の盛り上がりを見せた。


「次の曲でラストだよ!!!」


「えーーーー」と残念そうな声が上がる


「ラスト!クイーン!Don’t stop me now!!!」


「イエーーーーイ!!!!!」

大歓声が上がった、すると観客側から何人か立ち上がってステージに立った。豪華にバッグコーラスも参加だ。


会場が静まると

暁と蓮が息を合わせて曲を始めた。


この曲は暁がピアノをとても楽しそうに弾いた。恐らく激しくインプロバイズしながら弾いていた。


蓮もノリノリでマイクスタンドを持って歌っている。全員立ち上がって盛り上がっていた。


曲が終わっても熱がおさまらない。


そこで保井は


「すごい盛り上がってるね!どうする?暴動が起きかけた究極の出禁曲聴きたい人!」


「聴きたーい!」と声が上がる。


「俺が聴きたいんだーーー!!!」と保井が叫ぶ。


「リーダー三木と蓮さんが高校時代2人でステージに立ってはいけないという原則を生むきっかけとなった曲、リーダー!行ける?」と三木に聞く。


「マジで!?あれ歌うの?行けっかな、歌詞見ながらならたぶん大丈夫!」と三木が答える


「今夜限り!たぶんもう見れないかも!耳と目をかっぴらいて聴いてくれーーーい!!!Travie MacCoy featuring Bruno Maaaaaaars!!!!!!! Billionaire!!!!!!!!!」


リードギターの彼がアコースティックに持ち替えた。


カッカッカッカとアコースティックギターを叩く音が鳴る


♪ I wanna be a billionaire 〜


と蓮のコーラスが始まる、精悍な顔つきからどうしてこんなスイートな声が出てくると想像できよう。


三木のラップパートが始まると歓声がさらに上がった。これを高校生で歌ったとは恐るべし三木。


2回目のサビ

♪oh every time I close my eyes 〜

ここで大歓声が上がった。三木がサビにハモり始めたのだ。

これは最高にカッコいい。ビジュアルからしてもとても絵になる。


本日1番の盛り上がりを見せた。


「ありがとー!!!リーダーーーー!!!遂に遂に!卒業おめでとーーー!!!!!」


「おめでとーーーー!!!!!!!」と大合唱が湧いた。


「そして、こんなに皆が集まることもないからせっかくなので発表しちゃおうね!蓮さん!」


「なになに〜!!!」と会場が盛り上がる。

蓮は曲の合間合間にグリーンの瓶の酒を水代わりに飲んでいる。


「実はみんなお馴染みの、バンドのボーカルを1番長く勤めてくれていた我らがミューズ、黎明ちゃんが蓮さんと婚約しましたーーーー!!!!!」


「おめでとーーーー!!!!!」と大歓声が湧く。


「そこで蓮さん!あれ歌ってくれますよね!?」


「もちろん」と蓮が言う。

普段と違ってノリノリの蓮に


「お〜〜〜〜〜〜!!!!」と声が上がった。


すっかりハイになっている様子だった。


「暁!準備はいいか!」保井が聞く。


曲名は言わないようだ。


会場が静かになる。


そして、皆が知っているおなじみの前奏がキーボードで流れ始める。


「ヒューーー!!!」という声が聞こえた。


何を歌うかが分かると黎明は口元を覆った。


♪ It’s a beautiful night


We’re looking for something dumb to do


Hey, baby


I think I wanna marry you 〜


「きゃーーーー!!!!」と声が上がる


会場のみんなもボランティアでバックコーラスをしてくれて盛り上がっている。蓮もマイクスタンドを持ったり、クラップをして、スターのように盛り上げている。観客も踊り出していた。こんな弾けている蓮を見るのは初めてだった。


ラストのコーラスに近づくと観客が黎明を押してステージに上げた。すると蓮が黎明の肩を抱いて歌い出した。そして最後の最後のコーラスで黎明を見つめて、


I think I wanna marry you 〜


歌ったので黎明は顔を覆ってしまった。


すると蓮が急にお姫様抱っこをしたので驚いて蓮に掴まるとそのままキスをされた。


「キャーー!!!!」「ヒューー!!!」

と言う声が上がったが、普段の蓮を知る近しい友人たちは呆気に取られていた。


「なんとなんとなんと!情熱的なんでしょうか!!!こんな蓮さん見たことありません!!!皆さんもう一度2人に祝福の拍手を!!!!!」


結婚式といい、今回といい、なんという男なんだと三木は思った。


蓮はいつもは控えめにしており、シャイに見えるが、一度前に出てしまうとスター性を発揮してしまうタイプだったのだ。


「みんな今日はありがとう!!!!楽しい時間ももうそろそろ終わりに近づいてまいりました!最後はみんな知っているこの曲で締めとしましょう!!!これから新たな一歩を踏み出す一人一人へ!祝福あれ!!!Stand By me!!!」


黎明もマイクを渡された。


最後はみんなで大合唱になった。それぞれ個性的なメンバーの歌声は味が出て、音楽関係者が多いだけあって、バックコーラスが入ったりして、海外のゴスペルのようだった。黎明はCDにして記念にしたいと思った。


肩を組んで歌ったり、最後は涙を流している人もたくさんいた。三木を中心として繋がったこの大勢のメンバーは、一人一人かけがえのない思い出を作っていた。黎明の目からも涙がたくさん溢れた。その黎明を蓮が後ろから抱きしめた。


「みんなーーー!!!今まで本当にありがとう!!!」三木がボロボロ涙を流しながら叫んだ。


三木が学生でなくなることで、今までのように気ままなライブはできなくなるかもしれない。


それでも帰り際、ほとんど全員が


「また呼んでくれよ」


「また誘ってくれよ」と三木に声をかけて帰った。


三木は泣きすぎてアスミに笑われていたが、アスミも目が真っ赤だった。


三木のバンドが演奏してきたライブ音源がBGMとして流れていた。

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