第4話 瞳
4.瞳
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電話があった時、私は孤児院で夕食を取っていた。孤児院の養母の節子さんが焦った私に、ヒロトが連れ去られたと伝えてきた。黒豹が来れば解放すると電話がきたそうだ。警察に連絡すればヒロトの命はないと言っていると真っ青になって伝えてきた声は震えていた。
「節子さん、大丈夫。私が行くから。」
「でも、流石に荒川組が相手じゃ、、、真木さんに連絡した方がいいんじゃないかしら。」真木誠一郎は蓮の父親だ。
「でも、それじゃあヒロトがどうなるかわからない。大丈夫。」
そういうと心配そうな顔の節子さんを残して私は真っ黒な服を身に纏って出て行った。
指定された場所は使われていない倉庫だった。裏口に立っていた男2人を隣の建物の屋根から飛び降りて気絶させると、中に入り、全ての電気系統を壊して真っ暗にすると。男たちの怒号が聞こえた。
「おい!なんだ!誰だ!」
「早く電気をつけろ!!!」
「何してる!!!」
ドスッ「ぐぁっ!」
ガンガン「あーーーー!腕が!腕が!」
「おい!なんだ!誰か!」
「ぐはっ」
バタンッバタンッ
ゴンッゴンッ
ヒロトを縛っていた男の背後に立つと、男の全身から冷や汗が吹き出した。真っ暗闇で何も見えない状況で人がバタバタと倒れていく。倉庫の中の男たちには、暗闇の中敵が何人いるのか何が起こっているのか分からずパニックになっていた。叫び声や怒号が飛び交ったがそれが全て静まった時、男はこの倉庫に立っている仲間は自分一人であることに気付いた。
手足はブルブルと震えて
「お願いだ!助けてくれ!言われた通りにしただけなんだ!」
と、叫び出した。首筋にさっき入り口にいた男から奪ったナイフをスッと当てるとそのまま男は気絶した。
「ヒロト!」
「黎明!ごめんなさい!こんなことになって!」
「あんたのせいじゃないわ。私が撒いた種よ。ごめんね。怪我してない?歩ける?」
電話をしてきたのは荒川組ではなかったようだ。彼らの名前で威張り散らしている若者たちがヒロトの学校で上納金を集めさせていたのだ。孤児院暮らしでお金を集められるわけもないヒロトは目の敵にされた。そこらの中学生の悪どもを懲らしめるのはなんでもなかったが、黒豹がやったと告げたやつがいたらしい。半グレなのかなんなのか知らないが少し面倒な奴らが出てきてしまったのだ。
「ヒロト、帰ろう。」
「うん」
怪我をしてはいるが歩けるヒロトと一緒に倉庫を出た。
「お前、何者だ。」倉庫の外に立っていたのは荒川組の人間だった。
「お前が俺たちのシマを荒らしてるってので、来たが全部やっちまったのか。」
「私は何もしてない。中学生からカツアゲするチンピラどもをちょっと懲らしめただけ。」
「おいおい、女かよ。あいつら中坊から金取ってやがったのかよ。そりゃあ悪かったよ。だが、ボスがお前に用があるんだ。ちょっと面貸せ。」
「ヒロト、先帰ってな。」私は小声でヒロトに行った。
「でも、、、」
「大丈夫、私強いの知ってるでしょ。」
「わかった。すぐ帰ってきてね。」
「わかった。」黎明は車に乗り込んだ。
荒川組の事務所は、小さなビルのような場所だった。案内された部屋には、10人くらいの男とその真ん中に30代くらいの男が座っていた。ボスというからもっと年齢が上だと思っていたが、運転手の彼の上役ということだろう。
「帽子を取って顔を見せろ」
「私は、誤解を解きにきただけだ。あなたたちのシマを荒らした事実はない。あなたの部下かなにかが上納金を納められなくて中学生からお金を巻き上げてた。だから、それをやめるように言っただけ。」
「ほう、本当に女だね」
男は舐めるように私を見ると部下に私の帽子を奪わせた。
「なかなかの上玉じゃないかい?どう思うかい?伊勢崎君?」
伊勢崎と呼ばれる男は私を見て、ニヤリと笑い、「なかなか高く売れそうですよ。藤村さん。」と言った。伊勢崎は弁護士であったが、女性の弱みに漬け込み、女性が荒川組の店で働くように仕向けてそのマージンを受け取っていた。そのほかにも法律の知識を必要とする犯罪や、政治家の汚職の手助けなどほとんどカタギとは言えない男だった。
「誤解は解けましたか?」もう一度私は藤村と呼ばれたその男に聞いた。
「ああ、そのことは心配しないでいい。もう君の周りに手出しはしないよ。でも残念だなあ。君は放っておくにはあまりにもったいないね。」
男たちが一斉に近づいてきた。
その時、バン!!!後ろのドアが空いて1人の男が入ってきた。
「おい!どういうことだ!仲間を呼んでいたのか!」
男は黎明の両脇の男を捻りあげると
バキッと音がした。
一斉にかかってくる男たちに彼は銃を向ける。
「おい!銃を持ってるぞ!」
すると残りの者たちが一斉に銃を取り出そうとしたが、その腕を瞬く間に銃で撃ち抜いたと思うと、弁護士の伊勢崎以外の男は何が起こったか理解する間も無く床に倒れていた。
男は私を見ると、少し目を細めながら頭をポンと叩いた。
腰を抜かしている伊勢崎に向くと「俺はこいつに用がある。」というと、そのままこめかみに銃を突きつけて連れ去って行ってしまった。私は放心状態でその場に立ち尽くしていた。
鳴り響くサイレンの音にも反応できず、正気に戻ったのは「黎明!」と呼ぶ蓮の声が聞こえた時だった。
「黎明!何があった!…これは…全部お前が?」
「違うわ。突然男の人が入ってきてみんな倒しちゃったの。」
「どんなやつだったか覚えてるか?」
「わからない。真っ黒で顔を隠してたから。」
黎明は、嘘をついた。助けられたから、それだけではない。自分と目があった時に驚いた。彼の眼が金色だったのだ。自分と同じだった。
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その弁護士は何度かマダムに近づいてきていた。マダムの夫の死についてマダムがどれほどのことを知っているか探っていたのだ。マダムは隙のない人だった。
伊勢崎が「旦那さんの死には不審な点があります。私はあなたの助けになりたいのです。」
と言ってきた時も、夫を失って悲しみに暮れるただのか弱い未亡人という姿を崩さなかった。
「夫は交通事故で死んだのよ。あなたの気持ちは嬉しいけれど、何をしても亡くなった人はもう戻ってこないの。」と儚げに答えるだけだった。
弁護士が荒川組に入っていくのを見た時、僕は1人になるまで様子を伺うだけのつもりだった。しかし、そのあと彼女が入るのを見てしまった。なぜここに彼女が?と思ったが、仕掛けた盗聴器で中の会話を聞いていた僕は、苛立ちと憎悪が抑えきれなくなり、少し目立ちすぎてしまった。
彼女は戸惑いを隠せない眼でこちらを見ていた。彼女の目はブラウンだった。カラーコンタクトをしているのか。
ずっと遠くから見ていただけの彼女が今目の前にいると思うと湧き上がるものがあったが、抑え込んでその場を離れた。
僕が彼女を見つけたのは偶然だった。彼女はその時複数の追っ手から逃げていた。路地裏に入った彼女はそのまま壁や民家のベランダに飛び移り屋根をつた飛び越えて行った。僕はそんな動きができる人間が自分以外にいるなんて思ってなかったから、そのまま気付かれないように後を追った。十分遠くまで逃げると、彼女は、姿を隠していたマスクとフードのついたパーカーを取った。綺麗な真っ黒な黒髪のとても綺麗な女の子だった。彼女は僕の住んでいる場所からあまり離れていない孤児院に帰って行った。
彼女を見かけてから時々夢を見るようになった。炎。風鈴の音。赤ちゃんの鳴き声。悲しみ。断片的であったが、彼女の様子を伺いに孤児院に近づいた時に、はっきりした。風鈴の音、それは一年中孤児院の入り口にかかっていた風鈴の音だった。
僕はここに来たことがある。4.瞳
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電話があった時、私は孤児院で夕食を取っていた。孤児院の養母の節子さんが焦った私に、ヒロトが連れ去られたと伝えてきた。黒豹が来れば解放すると電話がきたそうだ。警察に連絡すればヒロトの命はないと言っていると真っ青になって伝えてきた声は震えていた。
「節子さん、大丈夫。私が行くから。」
「でも、流石に荒川組が相手じゃ、、、真木さんに連絡した方がいいんじゃないかしら。」真木誠一郎は蓮の父親だ。
「でも、それじゃあヒロトがどうなるかわからない。大丈夫。」
そういうと心配そうな顔の節子さんを残して私は真っ黒な服を身に纏って出て行った。
指定された場所は使われていない倉庫だった。裏口に立っていた男2人を隣の建物の屋根から飛び降りて気絶させると、中に入り、全ての電気系統を壊して真っ暗にすると。男たちの怒号が聞こえた。
「おい!なんだ!誰だ!」
「早く電気をつけろ!!!」
「何してる!!!」
ドスッ「ぐぁっ!」
ガンガン「あーーーー!腕が!腕が!」
「おい!なんだ!誰か!」
「ぐはっ」
バタンッバタンッ
ゴンッゴンッ
ヒロトを縛っていた男の背後に立つと、男の全身から冷や汗が吹き出した。真っ暗闇で何も見えない状況で人がバタバタと倒れていく。倉庫の中の男たちには、暗闇の中敵が何人いるのか何が起こっているのか分からずパニックになっていた。叫び声や怒号が飛び交ったがそれが全て静まった時、男はこの倉庫に立っている仲間は自分一人であることに気付いた。
手足はブルブルと震えて
「お願いだ!助けてくれ!言われた通りにしただけなんだ!」
と、叫び出した。首筋にさっき入り口にいた男から奪ったナイフをスッと当てるとそのまま男は気絶した。
「ヒロト!」
「黎明!ごめんなさい!こんなことになって!」
「あんたのせいじゃないわ。私が撒いた種よ。ごめんね。怪我してない?歩ける?」
電話をしてきたのは荒川組ではなかったようだ。彼らの名前で威張り散らしている若者たちがヒロトの学校で上納金を集めさせていたのだ。孤児院暮らしでお金を集められるわけもないヒロトは目の敵にされた。そこらの中学生の悪どもを懲らしめるのはなんでもなかったが、黒豹がやったと告げたやつがいたらしい。半グレなのかなんなのか知らないが少し面倒な奴らが出てきてしまったのだ。
「ヒロト、帰ろう。」
「うん」
怪我をしてはいるが歩けるヒロトと一緒に倉庫を出た。
「お前、何者だ。」倉庫の外に立っていたのは荒川組の人間だった。
「お前が俺たちのシマを荒らしてるってので、来たが全部やっちまったのか。」
「私は何もしてない。中学生からカツアゲするチンピラどもをちょっと懲らしめただけ。」
「おいおい、女かよ。あいつら中坊から金取ってやがったのかよ。そりゃあ悪かったよ。だが、ボスがお前に用があるんだ。ちょっと面貸せ。」
「ヒロト、先帰ってな。」私は小声でヒロトに行った。
「でも、、、」
「大丈夫、私強いの知ってるでしょ。」
「わかった。すぐ帰ってきてね。」
「わかった。」黎明は車に乗り込んだ。
荒川組の事務所は、小さなビルのような場所だった。案内された部屋には、10人くらいの男とその真ん中に30代くらいの男が座っていた。ボスというからもっと年齢が上だと思っていたが、運転手の彼の上役ということだろう。
「帽子を取って顔を見せろ」
「私は、誤解を解きにきただけだ。あなたたちのシマを荒らした事実はない。あなたの部下かなにかが上納金を納められなくて中学生からお金を巻き上げてた。だから、それをやめるように言っただけ。」
「ほう、本当に女だね」
男は舐めるように私を見ると部下に私の帽子を奪わせた。
「なかなかの上玉じゃないかい?どう思うかい?伊勢崎君?」
伊勢崎と呼ばれる男は私を見て、ニヤリと笑い、「なかなか高く売れそうですよ。藤村さん。」と言った。伊勢崎は弁護士であったが、女性の弱みに漬け込み、女性が荒川組の店で働くように仕向けてそのマージンを受け取っていた。そのほかにも法律の知識を必要とする犯罪や、政治家の汚職の手助けなどほとんどカタギとは言えない男だった。
「誤解は解けましたか?」もう一度私は藤村と呼ばれたその男に聞いた。
「ああ、そのことは心配しないでいい。もう君の周りに手出しはしないよ。でも残念だなあ。君は放っておくにはあまりにもったいないね。」
男たちが一斉に近づいてきた。
その時、バン!!!後ろのドアが空いて1人の男が入ってきた。
「おい!どういうことだ!仲間を呼んでいたのか!」
男は黎明の両脇の男を捻りあげると
バキッと音がした。
一斉にかかってくる男たちに彼は銃を向ける。
「おい!銃を持ってるぞ!」
すると残りの者たちが一斉に銃を取り出そうとしたが、その腕を瞬く間に銃で撃ち抜いたと思うと、弁護士の伊勢崎以外の男は何が起こったか理解する間も無く床に倒れていた。
男は私を見ると、少し目を細めながら頭をポンと叩いた。
腰を抜かしている伊勢崎に向くと「俺はこいつに用がある。」というと、そのままこめかみに銃を突きつけて連れ去って行ってしまった。私は放心状態でその場に立ち尽くしていた。
鳴り響くサイレンの音にも反応できず、正気に戻ったのは「黎明!」と呼ぶ蓮の声が聞こえた時だった。
「黎明!何があった!…これは…全部お前が?」
「違うわ。突然男の人が入ってきてみんな倒しちゃったの。」
「どんなやつだったか覚えてるか?」
「わからない。真っ黒で顔を隠してたから。」
黎明は、嘘をついた。助けられたから、それだけではない。自分と目があった時に驚いた。彼の眼が金色だったのだ。自分と同じだった。
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その弁護士は何度かマダムに近づいてきていた。マダムの夫の死についてマダムがどれほどのことを知っているか探っていたのだ。マダムは隙のない人だった。
伊勢崎が「旦那さんの死には不審な点があります。私はあなたの助けになりたいのです。」
と言ってきた時も、夫を失って悲しみに暮れるただのか弱い未亡人という姿を崩さなかった。
「夫は交通事故で死んだのよ。あなたの気持ちは嬉しいけれど、何をしても亡くなった人はもう戻ってこないの。」と儚げに答えるだけだった。
弁護士が荒川組に入っていくのを見た時、僕は1人になるまで様子を伺うだけのつもりだった。しかし、そのあと彼女が入るのを見てしまった。なぜここに彼女が?と思ったが、仕掛けた盗聴器で中の会話を聞いていた僕は、苛立ちと憎悪が抑えきれなくなり、少し目立ちすぎてしまった。
彼女は戸惑いを隠せない眼でこちらを見ていた。彼女の目はブラウンだった。カラーコンタクトをしているのか。
ずっと遠くから見ていただけの彼女が今目の前にいると思うと湧き上がるものがあったが、抑え込んでその場を離れた。
僕が彼女を見つけたのは偶然だった。彼女はその時複数の追っ手から逃げていた。路地裏に入った彼女はそのまま壁や民家のベランダに飛び移り屋根をつた飛び越えて行った。僕はそんな動きができる人間が自分以外にいるなんて思ってなかったから、そのまま気付かれないように後を追った。十分遠くまで逃げると、彼女は、姿を隠していたマスクとフードのついたパーカーを取った。綺麗な真っ黒な黒髪のとても綺麗な女の子だった。彼女は僕の住んでいる場所からあまり離れていない孤児院に帰って行った。
彼女を見かけてから時々夢を見るようになった。炎。風鈴の音。赤ちゃんの鳴き声。悲しみ。断片的であったが、彼女の様子を伺いに孤児院に近づいた時に、はっきりした。風鈴の音、それは一年中孤児院の入り口にかかっていた風鈴の音だった。
僕はここに来たことがある。
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