第4話 俺に任せとけ
「おう。俺が食わせてやる」
そう口にすると、少女二人は目を見張ってこちらを見つめている。
ここで頼りないような大人ではだめだ。
俺はそう思った。
「ウチは、サクヤといいます。よろしくお願いします」
「私は、アオイといいます。よろしくお願いしますわ」
二人は頭を下げた。
ピンク髪がサクヤで青いのがアオイか。
覚えやすいな。
「俺は、リュウという。これからよろしく頼む」
俺も頭を下げると、なんだか恥ずかしそうにしていた。
「あっ。ウチもお皿洗おうかな!」
「私も!」
イワンとリツの後を追っていく。
あの二人と一緒だったからちびっ子たちも大人びた感じだったんだな。
まだ小さいのに。
サクヤとアオイは、子供ということではないが。
まだ幼さがある。大人の手助けが必要な歳だろうよ。
働き口を用意してあげれば、あの子達なら十分に生活していける。
「おさら、あらったよぉ。はたらいたぁ」
リツが上機嫌でやってきた。
後ろからイワンが呆れたように「お皿洗っただけでしょ」と言ってついてくる。
その後ろからサクヤとアオイが追って現れた。
「そうだ。ウチでシャワー浴びていかないか?」
サクヤとアオイはお互いに顔を合わせて小声で相談している。
こうやって二人で色々と話し合って来たんだなぁ。
そのまま様子をうかがっていると、結論が出たようだ。
「魔石の分はバイト代から支払いますので、浴びさせて欲しいです」
サクヤがこちらを向き直り、頭を下げながら相談した結論を告げる。
「魔石代は俺が稼ぐから大丈夫だ。一人ずつゆっくり浴びてこい」
なるべく優しい声でそう告げた。
「では、イワンとリツは、一人では無理なのでみんなで浴びてきます」
「そんなに広くないぞ?」
「大丈夫です」
「わかった。こっちだ」
シャワールームへと案内する。
おやっさんには昨日のうちに使う許可をもらっている。
この建物自体から出ていくらしいので、住居部分に住んでいいといわれていた。
本当に有難い。
おやっさんたちは息子さん達と住むんだとか。もう歳なんだから店を閉めて来いっていわれたんだと。いい息子さんだ。
たまに様子を見に来てやると言ってくれていた。
シャワールームを隔てる引き戸を閉じる。
再び厨房へと戻る。
金属のボールを二つ取り出して片方に卵黄、砂糖をいれる。
そして、泡だて器でザラザラ感がなくなるまでかき混ぜていく。
次に、ミルクを入れていく。
もう一つのボールに氷を入れる。
そして、塩を投入して準備は完了だ。
氷と塩を入れたボールの上に先ほど卵黄やミルクをかき混ぜたボールを乗せると。泡だて器で混ぜていく。こうしているとだんだんと固くなってくるのだ。
固くなったらヘラでひっくり返すように底からかき混ぜていく。
完全に固まったら、完成だ。
「きもちよかったー!」
「すみません。有難う御座いました」
リツがこれまた上機嫌。人懐っこいところが可愛いじゃねぇか。ぞろぞろやってきて、サクヤが頭を下げながらこちらへ向かってくる。
「それ、なんですか?」
「これか? アイスだ。知ってるか?」
「えー! アイスたべたーい!」
俺の答えにリツが反応する。
「知ってますけど、これってそんなに簡単に作れるんですか?」
サクヤは冷静に俺に聞き返す。
「簡単だぞ。今度教えるか?」
「お願いします」
まず席に座るように促して、四人の前にクリーム色の冷えたアイスを出す。
器の手前にスプーンを添えた。
「シャワーの後はアイスだろ」
「わー! ひさしぶりにたべるー!」
リツがはしゃいでいる。
「前は食べてたのか?」
「おかあさんがつくってくれたー」
親が生きていた時は作ってくれてたんだな。サクヤとアオイが必死に働いても、アイスを食べる余裕が無かったんだろうなぁ。
いったいどれだけ少ない収入で仕事させられてたんだ?
「んー! あまくてほいひぃー!」
「よかった。おいしいか」
気持ちがホッコリした。
この気持ちを忘れないようにしないとな。
こども食堂、絶対成功させる。
こっちにこども食堂という名前の食堂はないだろう。俺が勝手に名付けているだけということになる。表向きは、食堂『わ』だ。
営業時間外をこども食堂にする。
おやっさんにも相談してみよう。
サクヤとアオイには店を継げたら伝えよう。
こども食堂を同じような境遇の子にも知らせて欲しい。
それ以外にも、子育てに悩んでいる人。
いや、なんでもいい。悩みや困り事がある人。
ない人でもいいか。
誰でも気軽に来られるような場所を俺は作りたい。日本では、自分が事業主ではなかった。だから出来なかったが。今回は自分が事業主だ。
一応、勉強がてら仕入れや消耗品に関する支出と、値段設定をして料金を貰う収入に関してのノウハウは教えて貰っていた。
だから、よく分からないこの世界でも、どうにかなると思う。金額の感覚的には変わらないようだ。ただ、単位がゴールドというだけ。
そして、小硬貨は百円。中硬貨が千円。大硬貨が一万円となっている。ざっくりなのだ。それ故に分かりやすい。
安くても百円という世界。いいのだか、悪いのだか。
「サクヤは給金、いくら貰ってたんだ?」
「一日、小硬貨一枚です」
頬が引き攣った。
おいおい。マジかよ。
「アオイは?」
「私も同じです」
思わず目を見張った。
俺は自分の気持ちの苛立ちを抑えるのに必死だった。どれだけの安い給金で働かせていたのか。
「ふぅぅぅ。二人とも、よくやっていたな……」
今度は感情が込み上げて震える。
そんな過酷な中で生きてきたのか。
どんだけ辛かったことか……。
「俺が雇うからには、一日大硬貨一枚だ」
今度は二人が目を見張った。
「そんなに貰って大丈夫なんですか?」
「やはり、身を売った方がいいですか?」
二人は疑心暗鬼。俺の算段では大丈夫だ。
客は絶対入る。
料理で人を引き付けてみせる。
「俺の料理で、客は来る」
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