第11話 迷宮都市ファンタズム1
『——降り口は車両左側となります。車内にお忘れ物など—―』
車両から降り、駅の放送を聞き流しながら私は思わずキョロキョロと周囲に視線を彷徨わせながら思わず「ここが、迷宮都市ファンタズム」と感嘆の呟きを漏らす。
「パンデオンの駅も凄かったが、ここはそれ以上じゃな!」
私の呟きにマリアは瞳を輝かせながらそう言葉を続けると、近くにあった光る文字が浮かび上がっている板を指差しながらママに向かって質問をぶつける。
「あれはいったいなんなのじゃ?」
「ん? あれは魔光掲示板ってやつじゃないか? 確か、魔石を加工して作り出した特殊な板に、直接魔力を込めることでメッセージを入力してそれを一定間隔で出力する技術、だったか?」
ママはそう答えながら答え合わせを求めるようにヒスイさんとコハクさんの2人に視線を向ける。
すると、ママの一番近くにいたヒスイさんが口を開いた。
「確かにあれは魔光掲示板であっているけど、今はわざわざ魔力を使ってメッセージ入力しなくても特定の端末を操作することで遠隔でも文字の入力できわ」
「へえ、そうなのか。定期的な手紙のやり取りである程度の知識は得てたつもりだが、実際に見てみると十数年でだいぶ技術が進んでるのを実感するな」
感心したようにママはそう呟くと、やがて何かを思い出したように腰に着けたポーチをあさり始め、やがて見たことのない材質で作られている片手で持てる程度の大きさをしたボードを1枚取り出した。
「それじゃあヒスイはこれが何か知ってるか? 手紙のやり取りをしてる友人に迷宮都市へ向かうと伝えたら、手紙と一緒にこれが入ってたんだが……そいつ、案外抜けてるところがあるから手紙にも使い方とか何も書いて無かったんだよな」
ママから謎のボードを渡されたヒスイさんは右手で持つとちょうど親指が届く範囲に存在するくぼみを右親指で抑え、短く「起動」と口にする。
すると突然そのボードが光だし、ヒスイさんの目の前に魔力光によって描かれたマップのような物が浮かび上がった。
「やっぱりこれ、迷宮都市のデジタルマップだわ。しかも、ナビゲート機能とかも搭載している最新型でほとんど市場に出回っていない最高級品の」
若干表情を引きつらせながらヒスイさんはそう告げると、短く「終了」と告げてその魔道具を停止させるとすぐさまママに返却した。
「へー、そうなのか。まあ、わたしは使わないだろうし……」
そう言いながらママは視線を私とマリアの方に向け、期待に満ちた視線を向けるマリアから私へ視線を絞ると「アリスが持ってた方が良さそうだな。使い方はヒスイにでも習ってくれ」とそれを押し付けて来た。
「なっ! なぜ我でなくアリスなのだ!?」
「お前、今迄どれだけ妙な使い方して魔道具をダメにしてきたか覚えているか?」
「…………」
そう問われたマリアは無言で視線を逸らすだけで反論の言葉を口にすることはなかった。
「それにしても、それほど高価なデバイスを送ってくる友人ってやっぱり—―」
好奇心で瞳を輝かせながらヒスイさんはママに何か問いかけようとしたが、それをコハクさんが「姉さん」と少し険しい表情で制したことでハッと何かに気付いた表情を浮かべ、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべながら「ごめんなさい。こんな人が多いところで迂闊だったわ」と謝罪の言葉を口にした。
因みに、このママと手紙のやり取りをしているという謎の人物が何という名前でどこに住んでいる人なのかを私もマリアも一切知らない。
そもそも届く手紙にはなぜか暗号のような文字が送り主の筆跡が分からないタイプライターか何かで書かているだけなのでそれを読めるのはママしかおらず、しかも1週間に一度しかローエル村に来ない郵便の周期と関係なくいつの間にか郵便受けに入っている(一度1週間ほど可能な限り郵便受けを私とマリアの交代で見張ったこともあったが、たまたま2人が目を離していた隙にいつの間にか手紙が配達されていた)ので、一時期私とマリアは本気で『ママはきっと幽霊か女神様みたいな子の世ならざる者と手紙のやり取りをしているんだ』と信じていた時期があったほどだ。
「さすがにこれだけの気配が入り混じってる場所だとわたしもこちらを監視しているヤツがいたとしても見落とす危険性もあるし、これから気を付けてくれるといいさ。それにしても、見た感じヒスイはアリス達とそれほど変わらない程度の年齢だと思うんだが、やけにわたしの過去に詳しくないか? 物心付くころにはわたしはほぼ引退状態だっただろうし、もしかして思っているよりわたしの噂って今でも残ってるのか?」
若干引きつった笑みを浮かべながらママがそう問いかけると、ヒスイさんは若干照れたような表情を浮かべながら「いえ、そういうわけじゃ無いんだけど……」と言葉を濁す。
そのため、そんなヒスイさんに代わって回答を返したのはコハクさんの方だった。
「姉さんはターニャさんのファンなんですよ」
「「「ファン?」」」
予想外の言葉に思わず私達親子3人の言葉が被る。
「ええ。僕たちは物心付くころからおじい様の下でハンターを目指して修行をしてきたのですが、その中で姉弟子に当たるターニャさんとその相方の話はよく聞かされていたのです。それに、僕たちがハンターになってからはいずれ特級を目指すのならば、と兄弟子に当たる本部長からもいろいろ話を聞いていて、それでターニャさんは姉さんの目標とするハンターになった、というわけです」
そう説明する横で、ヒスイさんは若干耳を赤く染めながら「さすがに、同性で史上最年少での特級認定記録を持つ相手なら意識したっておかしくはないでしょ」と告げながら視線を逸らしてしまう。
「ちょっと待て! 史上最年少? 母上はいったいいくつの時に特級に認定されたのじゃ!?」
「ええと……わたしとあいつでアルとジークの特訓を兼ねて《赤の迷宮》を攻略しに行った時だから……二十歳くらいの時か? いや、21だったか? ……まあ、とりあえずそんくらいの時だな」
「因みに、その次の記録って何歳くらいなの?」
興味本位で私がそう尋ねると、ママはしばらく考えた後に「あいつが結婚した年にジークが任命されたのが歴代2番目の記録って言ってたから、わたしが27か8の頃だから25か6が次の記録だな」と返事を返す。
「なるほど……。して、2度ほど名前が出たジークとは何者じゃ? もしや、そやつがアリスの父親なのではあるまいな?」
正直私も若干気になっていた部分にマリアが突っ込んでくれたので、私はドキドキしながらママの回答を待つように視線を向ける。
「いや、ジークはアリスの父親じゃないな。てか、アリスはわたしと髪の色が違うから分かるように父親はアリスと同じ金髪だが、ジークの髪色はわたしと同じ赤だからな。ああ、それと先に言っておくがもう一人名前の出たアルの方はアリスと同じ金髪だが、そいつはわたしの相棒の旦那だから私との恋愛関係なんて一切ないからな」
ママがそう告げると、なぜかヒスイさんが遠い目をしながら「まあ、あの方がアリスの父親だったら予言の日に産まれてることから考えるとかなり複雑な事情になってくるわね」と漏らしていたのが気になった。
因みに、列車の中でマリアの事情については簡単に説明してあるので『アリスの父親ならマリアの父親でもあるんじゃないの?』などと言う質問が飛んでくることはない。
(でも、珍しいなぁ。普段ママは昔の事やパパの情報に繋がりそうな話は一切してくれないのに。……いずれ、私がある程度真実を受け止められるような大人になったらパパのことを話てくれるって約束だし、ハンター試験を受けられる程度に成長した私を少しは認めてくれてる、ってことなのかな?)
そんなことを考えながら、私達はコハクさんの先導の下初めて見る動く階段に乗りながら駅の改札口目掛けて進んでいくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます