第4話 初ダンジョンと家庭事情
ダンジョンに向かいがてら、ストーリー上での八十島快晴を思い浮かべてみよう。
個人的に総評すると青タヌキの映画の時のガキ大将みたいなやつという印象。
プレイヤーのレビューでも、顔の悪い聖人、筋肉の紳士、寝取らない間男など、良い評価を与えられていた。
そんな中でついたあだ名が、野獣先輩だ。
老け顔で貫禄もあるし、何より同級生にも面倒見がいいお人よし。戦闘に関しては膂力と体格に任せた猛撃が印象的だった。
そんな野獣先輩はストーリー中盤までちょいちょい見かけて、とあるボス戦では脈絡なくお助けキャラとして参戦する。ストーリー終盤ではラスボス戦で面倒を見ていた後輩達と共に主人公たちをラスボスの所へ向かわせて、自分達は雑魚の足止めを行って間接的に助けるという割と重要な位置にいる。
まぁ、そのポジションは幾つかいるから、俺がミスって、欠けてしまっても問題はない。ルートによっては居ない事もある。そういう時でも、人命救助とかしてた記憶がある。
まぁ、あれだな、転生先としては良い感じだ。家庭環境が荒れている事を除けば。
が、まぁ、そこらへんはどうとでもなるでしょ。
「ここか」
着いたのは第一迷宮学園の中にある迷宮で、日本に四つあるうちの一つだ。正式名称は忘れた。第一にあるから第一ダンジョンってゲーム内では呼ばれていたが、こっちもその名称で通じるのかね。
それより受付はここか。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。本日はどんな御用でしょうか?」
「本日冒険者学校に入学しました。ダンジョンに入りたいんで手続きお願いします」
「はい、学生証をお預かりいたします」
学生証を機械で読み取り、書類を幾つか出してこちらに差し出してきた。どうやら、登録用の書類らしい。保護者用の物はない事を確認すると、その場で必要事項を記入する。書いている間は職員の方は、奥の方へ引っ込んで幾つか装備を持ってきた。職員が来た段階で書き終わったので、それを渡してやると一通り目を通した後に機械で読み取ってパソコンで入力し、入力内容が間違ってない事も確認を求められ、最終確認を済ませるとようやく次の工程に入った。
「先ずは冒険者としての登録はこれでおしまいです。次に学生さんに向けての幾つか説明をさせて頂きます」
「はい、お願いします」
「……先ずは、学生様には登録されましたら此方の直剣と剣帯を兼ねたウェストポーチをプレゼントしています。そして、冒険者カードをお渡しします。カードに関しては、関連のアプリと同期させることで色々なサービスが使えますよ」
「QRコードとかはありますか?」
「各社サービスについてはそこのパンフレットに乗っています。後ほど、ご検討を」
受付の人は受付端のパンフレットが立てかけてあるラックを指すと、説明に戻った。
「次に冒険者ギルドについて説明します。ギルドは――、」
受付の人が言うには、
・冒険者ギルドは国から認められている公的機関である。
・冒険者たちからの情報や仕事の斡旋、依頼、調査、格付けなどを行っている。
・ダンジョン内部で獲得したアイテムや装備品の買取を行っている。
・仕事の相談、講習も行っている。
・また、冒険者からもたらされた情報はこちらで吸い上げてデータベース上に保存している。
他にも細々している物はあるが、概ねこんな感じの内容がずらりと並んでいた。
ここら辺は、ゲームでも聞いた内容である。
「次に冒険者についてですが――、」
冒険者についてはこんな感じだった。
・ダンジョンに潜って財宝や資源を持ち帰る事が目的
・迷宮内で獲得した物は基本的に獲得した本人の物。
・迷宮内ではガイドブック内に書いてある冒険者規範に沿って行動する事
・マナーもあるため、ガイドブックを読んで予習する事
・違反が見つかれば、即逮捕
・ギルド職員への個人的な接触は禁止
・一般人への傷害、恐喝行為も禁止
こちらもおおまかにはこんな感じだ。
迷宮内はともかく、外で問題を起こすなというらしい。あと、談合や贔屓を防ぐ為にもギルド職員への過度な接触も禁止。オレも気を付けなくてはな。
「最後にダンジョンについてですが――、」
纏めるとこんな感じ。
・迷宮内は自然法則から逸脱した場所である
・迷宮内は一定の環境を維持するようにできている。
・ギルド関係の建物は破壊してはいけない。した場合は、罰金を科す。
・ギルド関係の建物以外は、迷宮内で幾ら物を壊しても後で修復がされる為、問題は無し
・迷宮内での損害、損失に関しては自己責任
こちらもこんな感じ。後は、パーティーなんかのアドバイスや冒険者同士の小競り合いの回避の仕方についても教えて頂いた。ここら辺は、プレイしているときには聞けなかったエピソードだ。
「以上で、説明は終了となります。ご質問などはありますか?」
「買取はどこで行っていますか?」
「ダンジョン入り口横のカウンターです。危険物を持ち込まれる場合は、迷宮内のスタッフに事前に申請してください。他にありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。失礼します」
剣帯を巻いて、剣を差したら、いざ、ダンジョンへ。
* * *
ダンジョンは色々特徴があり、尖っているのもあれば、闇鍋みたいにごちゃごちゃしているのも存在する。第一は後者の方で階層ごとに、特徴づけられていて、全100階層の攻略しやすいダンジョンである。
しかし、この世界では最終到達階層は34階で止まっている。
あそこら辺はな、対策しておけば問題はないが、それがないとキツいからな。
「そういえば、世界中の迷宮でもこういった闇鍋型は珍しいんだよな」
闇鍋型は、確認されてるだけでも7箇所だけ。全てのダンジョンが最終層まで攻略されてる訳ではないが、闇鍋型だと認識されているのはそれだけ。日本だとここだけだ。共通認識として闇鍋ダンジョンはレベル上げが他のダンジョンよりはやりやすい。その為、貴族が利権目当てに動いてくることが多い。
この世界だと日本にもいまだに貴族がいる。幾つかの貴族は闇鍋ダンジョンの利権を確保しようと画策していて、その一つが迷宮学園への工作がある。しかし、工作は有能かつ立場もある学園長が手を打っている為、迷宮学園は貴族の圧力は受けていても実力主義が根付いているという小話がある。
関係ない話になったが、今俺が歩いているのは、ダンジョン一階層、そのかなりはずれの方だ。事故を起こしても、ギルドが助けに来てくれる場所でもある。
一階は出てくる魔物は一種類な上に、サービス開始時はレベル上げやアイテム集めには不向きな階と言われている。が、俺がやってた頃の評価はそこまで低い階ではない。
俺が今いる部屋はスライム部屋と呼ばれていた場所の一つで。ここでは、スライムの進化体が出てくる。それも強さはあまり変わらない奴がだ。わざわざ、二階に行って危険度を上げるよりは、ここでレベル上げする方が効率がいいうえに、ドロップアイテムも良い物が出るのでお得なのだ。
「さてさて、今日はもう時間もないから2時間くらいで済ませようかね」
準備運動をして、剣の握り心地と振り心地を確かめると、情報端末のタイマーをセットしたら、よし、スライム狩りだ!
今出ているのは10体くらい。そのうち、4体が上位種だ。スライムの見た目は水まんじゅうという感じ。あんこが無い水色の体に一部変色したような青色の部分がある。上位種は普通のよりも一回り位大きい。
変色している部分は核だ。ここを傷つけるだけで一撃で倒せる。スライム系はこれが共通しているので、種類によってはおいしい獲物だ。そしてここの獲物はおいしい獲物。
ダンメモでは武器によっては手入れをしないと破損してしまうものもあり、入学時点で貰えるこの剣は整備しないと錆びたり、折れたりする。しかし、一回に出てくるスライムは何回切っても、腐食や錆に影響しない。もちろん乱暴に扱えば、刃毀れや破損の原因になるので注意は必要だがな。
脇をしめて、コンパクトに、順序良く、剣を振っていく。数秒で室内に居たスライム共を駆除する。ドロップアイテムは、普通の奴は小指の爪位の大きさの魔石だけ、上位種は親指の爪位の魔石とスライムゼリー。コレは魔法薬の溶媒になるので重宝する重要な物質だ。ここ以外だと大分真相じゃないとスライムから安定的にドロップしない、その分あっちは大量に落とすが、個人利用ならここで十分なはずだ。
「リポップは1分位だったな」
オート回収は面倒な手段と工程を踏む必要があるので、今はできない。なのでしゃがみながら見落としが無いように拾っていく。ゴミ袋も用意してあるので、スライムゼリーはその中に、魔石はポーチの中に入れる。
「おっ、来た」
回収が終わると次のリポップが起こる。黒い渦が入口の正面の壁に現れると、そこから十体前後のスライムたちが出てきた。これを何回か繰り返すと、
「うん? 体が温かい」
体がぬるま湯に使ったような感覚がある。レベルアップしたって事か?
と言っても、定番のステータスに関しては明日分かるからな。今はあんまり気にしてもしょうがない。
「今日はこれで終わりでいいな。記憶の整理もしたいし」
見て見ぬふりしてきたが、快晴の記憶は発掘しようとしないと、掘り返せない状態だ。いつでもできるかと後回しにしていたが、正直、家庭環境を見ているとちゃんと発掘して対処しないと後から面倒なことになりそうだと感じた。
というわけで、スライム狩りはいったん切り上げて、スライム部屋から離れた、安全地帯になっている場所へ移動すると、手ごろな岩に腰を掛けて、ノートを開く。
基本的な情報から書いていくか。
ええと、八十島快晴、15歳、好きな物は固いサンドイッチと鶏肉、
・家族構成は父母に弟妹。ペットは居ない。
・父母は基本的に家にいない。ダンジョン関連の企業に勤めている主席研究員とその助手。
・今の母親は再婚してできた。
・弟妹の
・快晴の実母はすでに故人、快晴が5歳の時に亡くなっている。
・つまり、父親は病床に伏していた、快晴の母親を放置して浮気していた。義母はそのことを知らなかった為、快晴に対して大分複雑な心境にいる。
・その事実の複雑さから、初めて会った時に快晴は三人を拒絶してしまい、後ろめたさが尾を引いている。
・父親に対しては金だけ出してくれる存在だと認識している。父親も罪悪感からかそれだけしている。
・快晴が迷宮学園に入ったのは父親を見返すため。
・入学式で【
・第三者視点で見た時、家庭内で睨み合いが続いている状態でほぼ別人が混ざっている感覚である。
「なんだこの地獄」
はっきり言って、ゲーム廃人中年の記憶が蘇った所で覆せる家庭環境ではない。だが、金だけ出してくれるなら、今は問題ない。存分に搾り上げてやる、しかし、【
って、小さいねぇ、オレ。
とはいえ、知識は正直危険だ。ゲームだとフレーバーとして表示されているだけな物もあるが、あれら全てが現実なら、相当に危険な物とかもある。蟲を飲みこんで常時回復するアイテムや寄生生物を利用してステータスアップする方法もあったりして、人間性を無視すれば強くなる方法があり、それをクソオヤジに知られるのは避けたい。
そういえば、陽射は鍛錬していたな、冒険者になりたいのだろうか?
「機会があったら、少しくらいは知識を分けてあげようかね」
色々頭の整理と実験を済ませると、予定を前倒しにして家に帰る。
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