第3話 現状とダンメモについて

 現状整理の為にノートに現状とゲームについて書いていく。

 現状は、ハードコア設定のログアウトやセーブ不可の鬼畜設定で、野獣先輩こと、八十島やとじま快晴かいせいになっているという事。レベルも装備もないという事。そして表現のクオリティが段違いに上がっているという事。


本当にそうなのか?


 そうだよな。ログアウトできないのは大問題だ。意識はゲームの中だとは言え、さすがに食事や排せつは必要だ。生理欲求を満たす為にもそういうのは必要なはず、それにカプセルタイプだとバイタルに影響が出る前にアラームを鳴らしてくれるし、ゲームの設定で何時間毎にアラームを鳴らしてくれるはず。それに、そろそろお昼が近い。カプセルの設定も事前に見ておいたから、そろそろ鳴らないとおかしい筈なのだが。


おかしい


 うん、おかしい。カプセルの異常はない筈だ。待ち時間にカプセルは調べたからな。プログラムは見てないが、ハード的には異常はないし、設定に関してはやってあるから問題が無ければ鳴る筈。他人が入ってきても、ダイナマイトでもないと破壊できないようなカプセルだし、内側から出ないと開閉操作はできないようになっている。電源コードを抜いても使用者を安全に起こす装置と手段は何重にも用意されている。それに使用中の設定変更はできないようになっている。

 そこら辺の登録は済んでいる。うーん、謎だ。考えたくはないが、ゲームの世界に転生等というラノベや漫画でしか見ない現象が起こっているかもしれない。

 それは勘弁してほしい。ダンメモは胸糞ストーリーも多いんだよな、実際にそれを体験するなど勘弁。


じゃあ、どう確認するの?


 そうだな。手っ取り早い方法としては、痛みを確認する事が一番かな。おっ、カッターがある。丁度いい。この程度の刃物の切り傷ならレベル1の今でも治す方法はある。長さは調整して、手に刺して引き裂ぐっ!!


「いってぇぇ!!」


 痛い、痛いって、痛い痛い痛い痛い、痛い。ちょっ、小技、小技、


デミ・回復ヒール!!」


 あ、唱えただけだけど、体から何かが抜けて掌がじんわりと温かくなってきた。すごい、もうかさぶたになった。手の開閉も、問題はないな。グローブとかないかな、ってぇ!! 壁ドンされた、うるさかったらしい。


状況を整理しようか


 そうだな。出血はしてない、スキルも使えている。そして、

 考えたくはないが、ゲームの中の世界へ転生してしまっていると考えた方がいいな。

 そう考えると、運営が本社の方でテストを受けさせたのも考えさせられる所があるな。俺達を連れてきて、こっちに飛ばして元の体の方にはコイツの意識を入れる、とかか?

 ……問題はないかな? というか、そっちにまで手は出せんから、考えても仕方がない。


今後はどうしようか?


 今後は、八十島快晴として生きていくしかないんじゃないか? それはそれとして、色々やりたい事とか見つけて頑張る。不透明だけど、現状を受け入れたからな、先ずは歩き始めるしかない。

 というか、ちょいちょい合いの手を入れて来ているこの声は何なんだ?


やっと、気づいたの?


 いや、あまりに自然だったから、流してただけ、合いの手入れてくれたのも思考するのにちょうどよかったしね。


ふふ、変わらないね

私が欲しいなら、いつもの場所にいるよ

待ってるね


 謎の声はそれだけ残して消えてしまった。正体の心当たりは、二つ程ある。

 が、これも後回し。

 次にやるのはゲームの内容のおさらいだ。さっさとしないと、忘れてしまう。

 先ずは、大まかなストーリーの流れを書いておこう。

 十数分したら、大体の内容を網羅した。エピソードの時系列順に年表を作った。


一年生

 入学

 中間テスト(ボスイベント、交流イベント)

 期末テスト(ストーリーイベント、交流イベント)

 体育祭(修行イベント、交流イベント)

 夏休み(修行イベント、交流イベント)

 中間テスト(ストーリーイベント)

 文化祭(交流イベント)

 冬休み(修行イベント、交流イベント)

 期末テスト(ボスイベント)

 春休み(交流イベント)

二年生

 中間テスト

 期末テスト

 体育祭

 夏休み(ストーリーイベント)

 中間テスト

 文化祭

 修学旅行(ボスイベント)

 冬休み

 期末テスト

 春休み (ストーリーイベント)

三年生

 重大事件(ストーリーイベント、ボスイベント)

 中間テスト(修行イベント)

 期末テスト(修行イベント)

 体育祭(ボスイベント)

 夏休み(修行イベント)

 中間テスト(ボスイベント)

 文化祭(ボスイベント)

 冬休み(修行イベント)

 期末テスト(ボスイベント)

 卒業(ボスイベント)


 流れ的にはこんな感じだった気がする。初見時は三年生のボスラッシュがストーリーできつかった印象だ。いや、ほんと、戦い方のノウハウとか知らないからな、初見でやるのは大分きつい。

 交流イベントは、あれだなキャラクターと親密度を上げたりできるイベントだ、基本何処でも起きるからあえて一年生のみだ。男女どっちの主人公も選べるが、攻略対象の数とかが変わったりするわけではない。それに、ハーレムも逆ハーも認めない硬派なゲームだったりする。というか、複数人の異性と一定以上親密になると、浮気騒動で色々ゴタゴタするから、関わらないのが一番だ。

 修行イベントは、レベルや能力を効率的に挙げられる期間だ。三年生の時期だとここが重要になってくる。というか、ちゃんとレベルとか上げないとボスが突破できない。

 ストーリーイベントは物語の分岐点になるイベントだ。戦闘もあったりするから、ここは気分が重い。分岐によっては三年生で大量虐殺や大規模崩壊が起こったりする。


「気が重いなぁ」


 俺が対処するわけではないが、巻き込まれたくはない。巻き込まれたら、色々吹き飛ぶ。

 さて、次に物語のあらすじを復習しよう。

 始まりは明治時代に産業革命が起きた頃は世界中でダンジョンが出現した。あるものは洞窟の様で、あるものは塔のようで、多種多様な外観だったが、中は共通して異空間であった。呼び方もダンジョン、迷宮、聖域等、様々あるが現在ではダンジョンが主流になってきた。しかし、何年経っても、何故現れたのかも、どうやって作られたのかもが一切謎である。

 ダンジョンの中には財宝や資源が満ちており、人々が資源に困る事はなくなった。が、同時にダンジョン内には怪物たちが跋扈していた。それは魔物と呼ばれて、資源を狙う人間の障害となるのだった。

 低階層は、武装した軍人なら通っていけるが、上に進むにつれて銃も聞かない化け物が出てきた。しかし、資源や財宝を諦めきれない各国は迷宮攻略を行える人材の育成を開始した。その成果もあって、豊富な人材と戦力を持てるようになった。

 そうした人材育成を目指した日本政府肝いりの学校の一つが第一迷宮学校。そこに入学してきた主人公が様々な問題にあたりながらも、友情、努力で解決し、ハッピーエンドを目指していくというストーリーだ。

 ストーリー自体は、仮想の世界なのにリアリティがあってかなり引き込まれる作りだったし、飽きさせないシナリオ作りは素直に感心した。キャラも可愛かったし、イベントシーンは悪くなかった。その後もストーリー要素に関わるDLCもあったので、割と面白かった記憶だ。


「ただ、ダンメモの主役はやっぱりストーリークリア後なんだよな」


 そうなのだ。ストーリーでもダンジョン要素はあるが、一番面白いのはクリア後の探索だ。故にストーリーをやらないやつもいた。

 というか、プレイヤーにはストーリーは美少女を眺める為の要素と提唱するイカれた奴もいた。それくらい、ダンジョン要素への作り込みは凄かった。

 ダンジョン探索は、ストーリー要素を引き継げるが、別キャラでプレイすることも可能で、大多数のプレイヤーはもう一人のキャラを作ってダンジョンに潜っていった。というか、主人公やヒーロー、ヒロインは扱いに癖があるんだよね。それもあって、ストーリーは良かったが、ストーリーパートはやる気が失せるというプレイヤーも多かった。


「そういえば、ステータスの確認をやってないな」


 んー、後で良いか。正直、現状整理とストーリーなんかの思い出し作業でおなか一杯。

 とりあえず、今はダンジョンに向かうか、次は色んな要素の検証だ。

 っと、その前に昼飯かな。リビングにいくと、さっきの少女と顔が似ている金髪の少年がいた。筋トレしているが、体質なのか細身だ。体幹は強そうである。


「ん? 兄貴か。何しに来たの?」

「あ、ええと、昼飯だな。腹減っててな」


 気づいた少年はぶっきらぼうに尋ねる。俺がそれに答えると、直ぐに筋トレに戻ってしまった。

 女の子に続いて、愛想の無い子達だ。

 それより、昼飯だな。何があるかな。おお、育ち盛りには嬉しい者がたくさんある。

 今日は腕を振るっちゃおうかな。


「何やってんだ、兄貴」

「ん? どうした、見ての通り料理だが」


 材料を切っていたら、推定弟が話しかけてきた。

 ふむ、コイツも食いたいのかね。まぁ、用意するのもやぶさかではない。


「食いたいのなら、少し待っとけ。仕上げまで15分位はかかる」

「…………おう」


 推定弟は素直にテーブルに座って、テレビ見ながら、ハンドグリップを握っている。

 そんなこんなで、十五分位経つと、照り焼きと付け合わせのほうれん草とベーコンのソテーが完成した。ここに消費期限が近かったパックご飯とレトルトの味噌汁を付け合わせて、盛り付けてやる。


「おう、完成したぞ。喰っとけ」

「おう……」


 んー、テンションが低い。外見はチャラ男なのに、見た目と一致しないな。まぁ、オレも他人と仲良くおしゃべりという玉ではないんだがな。

 十数分して、よく噛んで食べたら、少し遅くなってしまったな。弟ももうすぐ食べ終わりそうだ。

 食器を下げて、調理器具と一緒に洗っていると、困った顔した推定弟が食器を持って、台所前で立っている。


「よこせ、ついでに洗う」

「……頼む」


 それだけ言うと、推定弟は流しに食器を入れて出て行ってしまった。現状は聞きたいことはないからいいのだが、もしかしなくても避けられてるか、オレ。

 まぁいい、とりあえず、夕飯の仕込みは終わらせたし、サッサとダンジョンに向かうか。

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