第9話 認定戦
アクトは昨日のライブ配信を振り返りながら、自室の椅子に深く腰掛けていた。初めての配信は、想像以上の手応えを感じていた。緊張の中、ロールプレイが剥がれて素の自分が見えてしまった瞬間もあったが、それは「舞台裏」として視聴者に楽しんでもらえたと思うことにした。コメント欄に溢れた称賛の言葉やリアルタイムでの反応は、アクトにとって新鮮であり、かつ自信につながった。
:ランクマッチやってほしい!
:ランクマも見たい!
視聴者の中には、ランクマッチを求めるコメントも多く見受けられた。ランクマッチはカジュアルマッチとは異なり、真剣勝負の場だ。実力者たちが集まり、勝ち進むごとにランクが上がるシステム。アクトもいずれは挑戦するつもりだったが、視聴者の期待に応えるため、今日の配信でランクマッチに挑戦することを決意した。
「よし、今日はランクマッチに挑むとしようか」
アクトは決意を固めると、早速ログインし、配信を開始した。
「こんばんは、今日は昨日要望が多かったランクマッチに挑戦してみたいと思います」
:こんばんは
:通知見てきました
:ランクマ楽しみ
配信開始と同時に、視聴者数は8人となった。昨日の配信からフォロワーが少しずつ増えていることに、アクトは喜びを感じつつ、いつものカジュアルマッチとは違うランクマッチの扉を開いた。
マッチングを待っている間、アクトの胸には、ほんの少しの緊張感が広がっていた。カジュアルマッチとは異なるランクマッチは、いわば「実力を証明する場」。自分の力がどこまで通用するのかが、はっきりと数字に表れる場面である。視聴者の期待を背負うことで、アクトもその挑戦に胸を躍らせていた。
「確か、最初は認定戦でしたよね」
:そうそう
:5戦やって最初のランクがきまる
:1戦目はNPCだよ
アクトのつぶやきに視聴者がすかさず反応する。5戦中の1戦目はNPCが相手だという情報を確認し、まずは肩慣らしだと気を引き締める。
「さて、これが最初の一戦だな」
画面が切り替わり、対戦相手が表示された瞬間、アクトは深呼吸して気を落ち着けた。同時に意識をアクトから「アンチマギア」へと切り替える。
『バトルスタート!』
アクトはいつものようにアンチマギアとしてのロールプレイを始める。対戦相手はアクトと同じアンチマギア。いわゆる「ミラーマッチ」となった。今までの戦いとは異なり、魔法がほとんど使われない純粋な近接戦闘が展開される。純粋な剣戟の勝負。数多の世界で勇者として戦ってきたアクトにとって、NPC相手に後れを取ることなど考えられなかった。
1ラウンド目は危なげなく勝利を収め、2ラウンド目には少しばかりのパフォーマンスを加えてみることにした。
「最後に本当の技を見せてやろう」
自分と同じ姿をした相手に向かって、鋭い目を向けて言い放つ。すると、アクトの言葉を受けてか、偶然か、相手のアンチマギアが大きく剣を振り上げ、アクトへと一気に振り下ろした。それに合わせて、アクトも重ねるように剣を振り下ろした。相手の動きが止まるのと同時にアクトは剣を絡め取るように手首を返して、相手の剣をすくい上げる。次の瞬間、相手の剣は宙を舞い、両手を上げたまま無防備な姿をさらすアンチマギアが出来上がっていた。
「スペルエンド」
静かに必殺技の名をつぶやき、剣を横薙ぎにしてアンチマギアを斬り捨てる。その動きは圧倒的な強者そのものだった。
:カッケェ!
:最後の剣飛ばすのやば過ぎだろ
:NPC相手に大人気ねぇww
アクトのパフォーマンスにコメント欄は盛り上がりを見せていた。それを見てアクトは、魅せる戦いができたことに安堵し、短く息を吐いた。
「次からはプレイヤー相手でしたよね」
:そうだよ
:ロールプレイとの落差よw
「ここは舞台裏なので」
:舞台裏w
:戦場は舞台かよw
アクトはしばらく視聴者との会話を楽しみながら、次のマッチングを開始した。NPC戦の後、次からはプレイヤー相手だ。心の中で緊張感が高まりつつ、マッチングが完了すると同時に再び意識を切り替えた。
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