第8話 逆襲の一撃

 アクトはバーンから第一ラウンドを先取し、気を引き締めて第二ラウンドへと挑む。戦闘相手に集中しているアクトは気づいていないが視聴者は第一ラウンドの間に10人に増え、コメント欄が次第に賑わいを見せていた。


『バトルスタート!』


 バーンは開始の合図と共に一気に距離を詰めながら、火炎の言霊を唱えた。


「怒れる焔の息吹、全てを焼き尽くせ、火炎咆哮!」


 激しい炎がアクトに迫る。アクトは冷静に剣を振り上げ、「スペルブレイク」を発動して炎を真っ二つに斬り裂いた。しかし、バーンは一瞬も隙を与えず、すぐさま次の攻撃に移る。


「雷鳴一閃!」

「それは既に見切った」


 アクトは雷の攻撃を鋭い動きで回避し、拳を剣でいなす。次々とスキルと魔法を組み合わせた猛攻がアクトに襲いかかるがアクトは攻撃を防ぎながら冷静に相手の動きを見極め、反撃のタイミングを狙っていた。


「砕け、全ての盾、貫け、防御の壁、壊せ、鋼の意志、破砕言霊!」


 バーンが詠唱を始めると、アクトはすかさず発動していた【鋼】の術式を解いた。バーンの詠唱に合わせて攻防を切り替え、【風】の術式で一気に距離を詰め、斬撃を繰り出す。アクトは着実にマギア・アリーナにおける戦いを身に着けていた。


「追い風よ、我が身に纏え、疾風連舞」


 しかし、バーンも負けてはいない。「疾風連舞」を発動し、さらに速度を上げてアクトに応戦する。両者が風の魔法による速度上昇を受け、近接戦は激しさを増し、戦場は緊迫した空気に包まれていく。


 戦闘の激化に比例しコメント欄も加速する。


:速過ぎて見えねえw

:カッコよ過ぎだろ

:プロシーンに負けないくらいの戦いしてて草

:これカジュアルってマ?


 アクトは気が付いていないがその演技と戦いは着実に視聴者を魅了していた。


 バーンの体力が残りわずかになると、彼は最後の勝負に出た。必殺技「インフェルノラッシュ」を発動させると、激しい炎が拳に纏わりつき、怒涛の連続攻撃がアクトを襲う。拳から放たれた炎は渦となり、アクトを完全に閉じ込める。アクトは冷静に「スペルエンド」を発動して応戦したが、バーンの狙いはその先にあった。


 バーンの必殺技「インフェルノラッシュ」は二段構えの攻撃だ。まずは炎の拳で相手を炎の渦に閉じ込め、身動きを封じる。その後、足元から巨大な火柱を発生させ、大ダメージを与える。バーンは火柱の発生タイミングをわずかに遅延させていた。アクトは「スペルエンド」で炎の渦を切り裂いたが、ずらされたタイミングで火柱が突き上げ、大ダメージを受けてしまう。フィールドに響く轟音とともにアクトの体が揺さぶられ、視界が一瞬歪んだ。


「……やるな!」


 アクトは第一ラウンドに続き、バーンの巧みな技術を目の当たりにしても冷静さを失わなかった。倒れかけた身体を奮い立たせ、【飛】・【風】・【小】の術式を同時に発動し、バーンに向かって遠距離から攻撃を飛ばす。バーンは素早く防御に回り、剛拳でその攻撃をしのいだ。しかし、アクトはその瞬間に【小】を抜いた、【飛】・【風】による遠距離攻撃を飛ばす。速度が増した攻撃がバーンの防御をすり抜け、最後の体力を削りきった。


 それは、第一ラウンドでバーンが見せた「火炎咆哮」と「雷鳴一閃」の攻撃に酷似していた。アクトは冷静にバーンの戦術を見極め、同じ手法で逆襲を仕掛け、見事に勝利を収めたのだ。


「貴様の技、盗ませてもらった」


 バーンはアクトの攻撃に押され、ついにフィールドに倒れ込む。「勝利」の文字がフィールドに浮かび上がり、視聴者のコメントが歓声と称賛で溢れる。


:熱い試合だった!

:GG

:gg

:最後台本でもあるのかってぐらいアツい展開だったw


 アクトは冷静に剣を収め、戦いでの手応えを感じた。第一ラウンドでしてやられた戦術を、冷静にやり返して勝利を収めた自分に成長を実感していた。


 そこでアクトはようやく賑わっているコメント欄に気が付いた。


「え、17人?」


:素に戻ってて草

:いつも動画みてます!

:さっきまでの凛々しさは何処いったw

:キャラ変わってるぞ


 戦闘の緊張が解けると同時に、アクトのロールプレイも一瞬で解けてしまった。しかし、その素直な反応もまた、視聴者にとって新たな魅力となった。

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