第7話 初配信、静かな幕開け

 ログインしたアクトはゲーム内で配信ソフトの最終確認を行い、配信開始ボタンを押した。数秒後、視界に「配信中」の文字が浮かんだのを確認すると、アクトは仮想カメラに向かい、落ち着いた声で挨拶を始める。


「こんばんは。百面アクトといいます。いつもは動画投稿を行っていますが、今日はライブ配信を行っていこうと思います」


 視聴者はたったの1人。しかし、アクトはそれを少ないとは思わなかった。動画投稿でフォロワーが増えたとはいえ、無名の駆け出し投稿者である自分の初配信を見てくれるのだと、むしろ驚いていたほどだ。


「今日からマギア・アリーナ、通称マギアリをプレイしていきますので、よろしくお願いします。それでは早速、対戦にいきたいと思います」


 見えない視聴者に挨拶を終えると、アクトは仮想カメラを非表示にしてカジュアルマッチの扉に入る。アンチマギアを選択し、しばらくするとマッチングが完了した。


『バトルスタート!』


 対戦相手は「炎の拳闘士 バーン」。近接戦闘に強いバーンは、試合開始と同時に言霊魔法を発動させた。


「怒れる焔の息吹、全てを焼き尽くせ、火炎咆哮!」


 バーンの口から吹き出した激しい炎がアクトに向かって襲いかかる。広範囲に広がる炎の波は、逃げ場をなくすように迫るが、アクトは冷静に剣を振り上げ、「スペルブレイク」を発動し、炎を真っ二つに断ち切った。だが、アクトが炎を斬った刹那、バーンはすでに次の攻撃をしかけていた。


「雷鳴一閃!」


 バーンが放った雷がアクトを不意打ちするように直撃する。アクトは反応が一瞬遅れ、雷撃に捉えられてダメージを受けた。電撃が体を貫き、アクトの動きを一瞬鈍らせる。


「ふむ、やるな……!」


 雷に撃たれたことにも動じず、アクトはバーンを冷ややかに見据え、再び剣を構え直す。その目には、冷徹な覚悟が宿っていた。アクトの口調と仕草には、自身で解釈したアンチマギアの冷静さと戦意が表現されていた。


「次は、こちらの番だ……!」


 アクトは【鋼】の術式を発動し、剣に重みを加え、バーンの体勢を崩そうと斬撃を繰り出した。鋼の重みを乗せた一撃は、相手の動きを封じ込める狙いだったが、バーンはその攻撃を交わしながらすかさず詠唱を開始した。


「砕け、全ての盾、貫け、防御の壁、壊せ、鋼の意志、破砕言霊!」


 バーンの詠唱が響き渡り、アクトの【鋼】の術式が一瞬で消え去る。重力が消失し、アクトはバランスを崩して後退することを余儀なくされた。破砕言霊は防御魔法を打ち砕く魔法だ。アクトの使用した【鋼】の術式は攻撃と防御を強化する攻防一体の術式であるため、防御魔法の判定されたのだ。

 アクトは瞬時に状況を理解し、冷静に体勢を立て直す。バーンの巧妙な対応力に感心しながらも、戦いの中で新たな戦術を考え始める。その対応の速さと的確さは、昨日のベルヴェールとの戦いを思い出させた。


(こいつも、ただのプレイヤーではないな…)


 マギアリの難しさと独自の戦略性を改めて実感し、アクトはさらに気を引き締めた。詠唱を要する言霊魔法を駆使しているということは、それだけでも高度な操作技術が必要だということをアクトは昨日で理解していた。バーンの動きはただの近接戦闘ではなく、戦場全体を見据えた巧みなものだった。


「面白い、だが勝つのは俺だ」


 アクトの声には鋭い威圧感が漂い、バーンは一瞬表情を曇らせた。普段マッチングするプレイヤーとは違うアクトのロールプレイにバーンの集中がわずかに乱される。その隙を見逃さず、アクトは【風】の術式で間合いを詰め、鋭い斬撃を連続で繰り出す。


 バーンは言霊魔法から拳主体の戦闘へと移行し、アクトの攻撃に対抗する。炎を宿した拳「ヒートストライク」がアクトの剣と激しくぶつかり合う。バーンは即時発動が可能な雷鳴一閃を織り交ぜつつ攻撃を続けるが、アクトはその全てをスペルブレイクで斬り捨てていった。


「魔法を放っても無駄だ。俺の剣はすべてを断ち切る」


 アクトの言葉に動揺するバーンの表情が、ほんの一瞬硬くなる。アンチマギアの冷徹な態度と斬撃の精度が、バーンの心に重圧をかけ、攻撃のリズムを崩していく。アクトはその小さな隙を逃さず、鋭い一撃を叩き込み、バーンの体勢を大きく崩した。


 長い攻防の末、アクトは【風】と【雷】の術式を駆使してバーンの隙を突き、一気に攻め切る。最後の斬撃が決まり、画面に「勝利」の文字が浮かび上がった。

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