第5話 考察の時間
アクトは冷静な表情でログアウトし、VRシステムを解除してゴーグルを外した。部屋に戻ってきた彼は、深く息を吸い込み、戦いの熱気を和らげるようにゆっくりと呼吸を整えた。マギア・アリーナでの数試合を終えたばかりで、頭の中にはさっきまでの戦いの記憶がまだ鮮明に残っている。
ベルヴェールとの最終戦後、アクトは順調に勝ち星を重ねていた。だが、その後の対戦相手はどこか物足りなく、初心者が多いように感じられた。アクトは余裕を持って戦いを進めることができたが、対戦中にどこか退屈ささえ感じてしまうほどだった。ベルヴェールの巧みな戦術と駆け引きが懐かしかった。
「やっぱり、あのベルヴェールは上手かったんだな…」
アクトはベッドに腰を下ろし、改めてマギア・アリーナの戦い方を見直し始めた。アンチマギアを選んでから、アクトは魔法を斬ることに集中し、術式魔法で戦うスタイルを貫いてきた。特に【風】の術式は攻撃のために欠かせないもので、相手に素早く接近して魔法を斬る際に必須の手段となっていた。
しかし、ベルヴェールとの最終戦で魔力切れを起こしたのは大きな反省点だった。試合の中で【風】を多用しすぎたことが、アクトの魔力を急速に消耗させていた。相手の魔法を斬るために加速し、間合いを詰めるために風を使う。常に【風】を発動していたせいで、決定的な場面で魔力が尽き、スペルブレイクを命中できずに危うく敗北するところだった。
「【風】がないと攻められないわけじゃない…でも、もっと考えて使うべきだったな」
アクトはゲームのログを見直し、リプレイを再生しながら、自分の動きを細かく分析していった。すると、【風】を使用しなくても対処できた場面がいくつも見られた。相手の魔法を斬ることに執着しすぎて、無駄に加速を使っていたことが敗因の一つだった。
「もっと効率よく術式を使いこなさないとな」
その時、アクトの目に【小】の術式が留まった。【小】は他の術式に組み合わせることで威力を抑えつつ、魔力消費も少なくする特徴を持っている。これまでの試合では、派手で高威力の【大】をセットしていたが、魔力の消耗が激しく、ほとんど使いどころがないまま終わることも多かった。
「【小】を使えば、必要以上に魔力を浪費せずに済むんじゃないか?」
アクトはリプレイを止め、考え込んだ。魔力を節約しながらも効果的に相手を崩せる戦い方。それが今の自分に必要なものだった。【小】と【風】を組み合わせることで、加速しつつ魔力の消費を抑える戦術が可能になるかもしれないと直感した。
「【風】と【小】を合わせれば、もっと効率よく攻められる」
アクトは次の試合で、【風】と【小】を組み合わせた戦術を試してみることに決めた。単純に斬るだけではなく、相手を崩す手段として威力を調整しながら使うことで、安定した攻撃が可能になる。魔力消費を抑えながら相手に圧力をかけ、長期戦に持ち込まれても息切れせず戦い続けられるだろう。
「【小】なら、もっと多彩な動きができるはずだ…」
アクトは新たな戦術の可能性に心が踊った。無駄のない動きと魔力の節約、それがアクトにとっての次の一手となる。大きな一撃に頼るのではなく、小さく、確実に攻め続けることで、相手をじわじわと追い詰めるスタイルを確立しようと考えたのだ。
次の試合に向けて準備を整え、アクトは冷静に画面を見つめた。新しい戦術はまだ試行錯誤の段階だが、失敗を恐れずに挑戦することが今の自分には必要だと感じた。ベルヴェールとの戦いでの教訓が、今度の戦術に活きることを確信していた。
「次の戦いでは、【小】で試す…勝つために必要な手段を選ぶ」
アクトはもう一度ログインし、次の試合で新たな戦術を試すことを決意した。冷静に分析し、【風】と【小】を駆使して、今までとは違う形で相手を攻め立てる。少ない消耗で多くの成果を得ることができれば、勝利への道はさらに広がるはずだ。
「これで勝てれば、新しい戦い方が見えてくる…」
アクトは再びVRゴーグルを装着し、意識をバーチャルの世界へと移した。そこには、まだ見ぬ強敵が待っているだろう。新たな戦術を磨き、アクトは次のステージへと挑んでいく。冷静な判断と戦術の工夫が、彼のアンチマギアをさらに高みへと導く。その決意を胸に、アクトは次なる勝利を目指して歩み始めた。
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