第9話 二つの思い


 バーナード様は手際よく服を一枚一枚剥ぎました。


 男の人に服を脱がされるのは生まれて初めての経験でした。

 恥ずかしくて、男性の前で服を着ていないことがこんなにも心細いものだとは思いませんでした。


 ベッドに押し倒され、裸の身体を重ね合い、キスを交わしました。

 キスの最中も、バーナード様の手は、私の敏感な箇所を探り当て、指をはわせました。


 身体は何度もピクッとして、演技ではない悦楽の声を出しました。

「ああっ!」

「なんていい声で鳴くんだ。君のその声だけで、俺は昇天してしまいそうだ」

 甘い声でささやかれると、身体中が溶けていくような感覚になりました。

 彼の熱い物が差し入れられたときも、身体は痛みよりも大きな悦びに包まれていました。

 ゆるやかな動きから変則的な動きへ、そして激しく、彼とともに私は身体を動かしました。

「君の声は素晴らしい、想像以上だ。兄様に先を越されてしまったのがつくづく悔やまれる」

「バーナード様、ああ…、学園にいた頃からずっと好きでした」

「うれしいよ。俺のサイオシリス」

 抑えていた感情が溢れ出すように、悦びの声も溢れ出しました。

「ああっ…、ああっ! バーナード様!」

 繰り返されるキスの雨、身体中を這う彼の魅惑的な指づかい、ビクビクッと身体が激しく反応しました。


 彼の指は魔法の指。

 私は何度も何度も彼の腕の中で悦楽の浜辺へいざなわれ、うちあげられました。


 夫が愛してくれないのなら、他に愛してくれる人を探せばよい、お茶会での夫人たちの言葉が、更に私を突き動かしていました。



 性行為が終わったあと、疲労感の残る身体に、回復魔法ヒール(中)をかけました。

 学園時代、どの魔法も伸び悩んでいた中で、唯一意地になって習得したヒール(中)。欠損の回復はできませんが、ほとんどの怪我や病気を治すことが可能です。疲労回復にも、もちろん効果抜群です。


 ベッドから起き上がり、衣服に手を伸ばしたそのとき、なにか音が聞こえてきました。


「はあ…はあ…はあ…」

 どこからか呼吸の音が聞こえてきます。

「はあ…はあ…はあ…はあ…」


 隣の部屋に続くドアを開けると、ズボンを下ろし股間の物を握ったクロード様がそこにいました。

 クロード様は「あっ!」と叫び、「うっ!」と声を漏らしました。

 すると彼の股間の物から白い液体がびゅっと飛んできて、私の胸にかかりました。


「ご、ごめん、義姉さん。ほんとうにごめん」

 クロード様は何度も何度も謝っていました。

「そんなに謝らないで下さい、たいして気にしていませんよ」

 それからクロード様の耳元でささやきました。


「次は私がお相手をします。ですから、ひとりでさびしい思いをしないで下さい」


 この日を境に、オーガスト様から呼び出しがない夜は、バーナード様かクロード様のお相手を務めるようになりました。


 そのおかげかどうかは分かりませんが、より自信と余裕を持ってテッセルの吹き替えに臨めるようになりました。


 オーガスト様はとても満足そうでした。

 バーナード様とクロード様との関係も良好です。

 誰も不幸にならない不貞というものがあるなら、きっと今の関係がそうなのでしょう。

 結婚してようやく、身も心も穏やかな状態で日々を過ごせるようになりました。



 しかしそれが、うたかたの夢だということに私はまだ気がついていませんでした。

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