第7話 テッセルとメリノ
魔法契約書にサインをすると、契約書は青白く発火して消滅しました。
「よし」
魔法契約が有効になったことを確認して、オーガスト様はベッドに腰を下ろして話し始めました。
「侯爵家以上の上級貴族たちが皆美形なのは知っているね?」
「はい」
ダン=ゴドウィン家も、スギア=マグナス家も、眉目秀麗、容姿端麗な人達ばかりでした。
「美形同士が交われば美形が産まれるのは当然だ。しかし100%なんてことは有り得ない。親から子へ受け継がれる遺伝情報の中には、美形ではなかった親の情報も含まれている可能性だってあるんだ。だけど、モルモットビーストから産まれる子供は一人の例外もなく美形なんだ」
「!」
私は耳を疑いました。
「モルモットビーストから産まれる? 魔獣から子供が?」
「そうさ。テッセルやメリノなどのモルモットビーストが上級貴族たちから求められる最大の理由がそれなんだ。モルモットビーストに子供を産ませると、確実に眉目秀麗、または容姿端麗な子供が誕生する。全く無駄のな子孫作りが可能なんだ。
父上のメリノを見せてもらったことがあるけど、そのメリノは手足がなく胴体だけだった。手足などなくても全く問題ないと父上は笑っていた。現にこうして僕たち三人の兄弟が産まれたのだからね。
聞くところによると、下半身だけのモルモットビーストを所有している貴族もいるらしい。子孫を残すなら、下半身だけあれば十分という実に貴族らしい合理的な考え方だよ」
なんて現実は残酷なのでしょう。
モルモットビーストがいれば、人間の女性など必要ないと、オーガスト様は言っているのです。
唇を噛んで私はオーガスト様に尋ねました。
「私たちの結婚になんの意味があったのでしょう」
「結婚に意味を求めるのは無意味なことだよ。結婚は形式であり儀式であり、それぞれの役割を果たすためにするものだ」
オーガスト様の言葉は私の中にあったお互いに思いあう夫婦という幻想を粉々に打ち砕きました。
「妻の役割は夫の役に立つことであり、子孫を残すこと。吹き替えは、まさにそれだよ。君が声の吹き替えをして、僕のテッセルから子孫が産まれるんだ。君にしか出来ない立派な妻としての役割だよ」
「私たちが愛し合うことはないということでしょうか?」
「愛し合う? 人間の女と? ありえないな。そもそも女がモルモットビーストに太刀打ちできるわけがない」
オーガスト様はテッセルの裸体に熱い視線を向けました。
「それに僕はもう、全ての愛をテッセルに捧げている」
キミヲ愛スルコトハナイ。
……。
しばらくの沈黙の後、オーガスト様は立ち上がりました。
「では、初夜を始めようか」
「せいいっぱい務めさせて頂きます」
私の初夜、テッセルの吹き替えが始まりました。
ベッドの横に立ち、オーガスト様とテッセルの性行為を見ながら、テッセルに声をあてます。
二人の性行為の進行状況を確かめて、適切な声をあてなければなりません。
「はあ…はあ…、ううっ…、ああっ…」
オーガスト様に抱かれているテッセルになりきって悦楽のため息を漏らします。
オーガスト様の手が乳房をやさしく愛撫します。
身体中のあらゆる場所に甘いキスの雨を降らせます。
足の間の恥ずかしい場所を、大きな手がまさぐります。
オーガスト様の舌が、乳首を這い、お腹や、太ももの裏、それから恥部を舐めまわします。
いきり立った熱く長いものが、蜜を滴らせた陰部に押し当てられ、ゆっくりと差し込まれます。
繋がった二人は一定のリズムで動きだし、息づかいがだんだん荒くなりました。
それらの愛の行為は、妻の私ではなく、全て虚無の森の魔獣テッセルに対して行われたのです。
涙があふれてきました。
私はいったい何をしているのでしょうか。
公爵家から婚約の申し込みがあったあの日から、どこかふわふわと雲の上を歩いているような感じでしたが、突如奈落の底にひきずり込まれたような気分です。
それでも吹き替えをやめなかったのは、前世で培った声の技術があったからであり、どんなに辛いときも、けっして演技をあきらめなかった前世の経験があったからです。
愛の行為がだんだん激しくなり、オーガスト様は荒々しく腰を突き上げて、絶頂に至りました。
テッセルの絶頂の声を演じ、夫婦の初めての共同作業が終わりました。
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