第6話 初夜


 夜が来て、オーガスト様の寝室のドアを開けると先客がいました。


 その女の人は全裸でベッドの上に横たわっていました。


「えっ!?」


 ベッドに腰かけていたオーガスト様が立ち上がり、ドアを開けたまま固まっている私のところへやってきました。


「驚かせてすまない。彼女は人ではないから安心してほしい。君に危害を加えることはけっしてないと断言しよう」


 よく見るとその女の人は首から上がありませんでした。それでも、胸が呼吸で上下して、手や足が動いていました。全身は羽毛のような毛で覆われていました。


「テッセルだよ。結婚祝いに父上から頂いたものだ」


「テッセル?」


 前世ではモルモットの一種だったように記憶しています。ヌイグルミのような見た目で、愛玩用のペットだったはずです。

 異世界のテッセルはフサフサの毛を除けば、ほぼ人間と同じ体型をしていました。


「君は虚無の森の伝説について聞いたことがあるかい?」

「はい」

「だったら話は早い。ここにいるテッセルが伝説の虚無の森の魔獣だよ」

「1000億ゴールドの賞金がかけられたあの魔獣ですか?」

「そうだ」


 普段あまり表情を変えないオーガスト様が嬉しそうに話しています。

「このテッセルは僕だけのテッセルだ。まだ誰の手垢もついていないまっさらなテッセルなんだ」

 大きな手を伸ばして、テッセルの肩をなでます。

「頭部は無いが、テッセルは生きている。彼女の身体機能に何ら問題はない」

 胸からお腹にかけて愛しそうになでさすります。

「彼女の肌触りは極上だ。彼女は僕に反応して、腕や足を絡めてくるんだ」


 そう言うと、オーガスト様はベッドに上がってテッセルに覆いかぶさりました。

 愛し合う男女がするように、オーガスト様とテッセルは抱き合いました。


 そのとき、小さな声が聞こえてきました。

 小さな子供が泣き叫んでいるような小さな小さな声が聞こえたのです。


「ヒィアアアァーーッ!」


 その声は、首のなくなったテッセルの呼吸音でした。


 オーガスト様は身体を起こして言いました。


「この音を聞くとさすがに萎えてしまうんだ。だから君に声の吹き替えをお願いしたい」


「えっ…?」


「君はモブ顔だが、声は極上だ。学園時代、君の声を聞いてその価値に気づいたんだ。君の声はテッセルの吹き替えに最適だと」


 は? え? オーガスト様は何を言っているのでしょう。

 吹き替え? テッセルの?


「これから話す内容は絶対に他言無用だ。貴族の根幹に関わる事柄だからね」


 オーガスト様はサイドテーブルの引き出しを開けて、魔法契約書の用紙を取り出しました。


「これにサインを」


 魔法契約書には、テッセルに関する情報の漏洩の禁止と、罰則が書かれていました。


 罰則は、速やかな死でした。

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