第5話 君を思う
ある日、バーナード様に壁ドンをされてしまいました。
着崩したシャツの胸元が開いて、とても色っぽいです。
「俺だって君のこと狙ってたんだぜ。いつか声をかけようと思ってたのに、結局兄様に先を越されちまった」
バーナード様は学園にいた頃から、私のことが気になっていたそうです。
当時同じ教室で学んでいたバーナード様のことは、手の届かない遠い存在だと諦めていました。
どこからどう見てもモブだった私の事を思ってくれていたなんて、天にも昇る気持ちです。
「君が望むなら、俺に乗り換えたってかまわないんだぜ?」
甘いマスクと甘い声で耳元でささやかれました。
「なあ、今からでも遅くねえ。俺の為に生きてみないか?」
頭の中でカラーンコローンと音がしました。
二人の為に幸せの鐘が鳴っているみたいでした。
あごを持ち上げられ、指で唇をなぞられました。
「あっ…」
驚いて声をもらすと、バーナード様の顔が近づいてきました。
キスされる!
そう思って目を閉じた瞬間、大きな手が伸びて来て、バーナード様を引き剝がしました。
「僕の婚約者に手を出すなと言ったはずだ」
オーガスト様でした。
「いいじゃないか、キスのひとつやふたつ。挨拶みたいなもんだろ」
「ダメだ。彼女の唇は僕のものだ」
えええええっ!
私は真っ赤になってしまいました。
こんなに好意を持たれている理由が、私にはさっぱり分かりません。
オーガスト様はその美しい顔を近づけて言いました。
「いいかい、サイオシリス。君は僕だけのものだ。婚姻の日までけっして誰にも触れさせてはいけないよ」
私はブンブンと首を縦に振りました。
1年が過ぎ、公爵家の妻としての教育も無事に終え、晴れて結婚式の日を迎えました。
公爵家の結婚式ということもあり、目がくらむような煌びやかさでした。
王様と王妃様もおいでになり、オーガスト様ともども祝福をいただきました。
結婚式は無事に終わり、これから公爵家の妻として務めを果たさなければなりません。
妻としての最初の務めは、いわずもがなの初夜です。
30歳まで生きた前世では性体験はありませんでした。
でも、声のお仕事で処女を喪失する役を演じたことはありますので、問題はありません。喘ぎ声も何度もあてていましたし、若手の中ではけっこう上手な方だったと思います。
そういうわけで、オーガスト様との初夜もつつがなく終えてみせます。
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