第4話 迷子の子猫
ダン=ゴドウィン邸に来たばかりの頃、広い邸内で道に迷っていると声をかけられました。
「どうしたの子猫ちゃん」
赤い髪を背中まで伸ばしたクラーク様でした。
「さあ、僕の手を取って、部屋まで連れて行ってあげるよ」
クラーク様に手を取られ、ふわっと引き寄せられて、腰に手を回されました。
目の前にクラーク様の美しい顔がありました。とってもいい匂いがします。
頭がくらくら、目がハートマークになりかけたところを、大きな手が伸びてクラーク様を引きはがしました。
手の主はオーガスト様でした。
「気安く彼女に触らないように」
「少しくらいいいじゃないか」
クラーク様は少し幼さを感じさせる声で抗議しました。
「彼女は僕の婚約者だ。触れる権利は僕だけにある」
「ケチだなあ、兄様は」
「ケチとかいう問題ではない。お前もさっさと婚約者を見つけてこい」
「ホイホイ見つかったら苦労しないよ」
そこで私は尋ねてみました。
「クラーク様はどんな女性がお好きなのですか?」
「そりゃあ可愛い子猫ちゃんがいいにきまってるさ。兄様の婚約者をやめて僕のものにおなりよ」
「えっ!」
「クラーク、冗談はそれくらいにしておけ。サイオシリスも弟の冗談を真に受けるな」
オーガスト様の言う通り、クラーク様が本気なわけがありません。
私は身近にいる一番美しい令嬢を思い出しました。
「スギア=マギニス侯爵令嬢などいかがですか? とてもお美しい方ですよ」
「あーっ。カズィベラ嬢ね。確かにあの美貌は魅力的だね」
なんだか乗り気がないようでしたので、それ以上はなにも言いませんでした。
クラーク様がその気になれば、すぐにでも婚約者は見つかるのです。
けれど、それをしないということは、クラーク様にはきっと
そこに介入するのは本当に余計なお世話以外のなにものでもありません。
オーガスト様に私は尋ねたことがあります。
「なぜ、私だったのでしょうか?」
「君は自分の価値を全然分かってないようだね」
「私の価値?」
モブ顔で成績も中ぐらいの私の価値っていったいなんなのでしょうか。
「いずれ分かる。今はまだその時じゃない」
その時が来れば教えてもらえるのでしょうか。自分でも気づかない私自身の価値を。本当にそんなものがあるなら、ですけど。
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