第5話

 萩野夏帆教授による講義メモ

 さて三限目では、世界のルールについて学ぼうではないか。

 世界のルールといったがこれは物理学や数学のようなものだと思ってくれて差し支えない。今後はこの理論のことを萩野論と呼ぶことにする。

 萩野論では物体または生物にインクルージョンと呼ばれる情報があると仮定して進めていく。

 初めに、君は砂山のパラドックスを知っているだろうか?

 砂山から砂粒を取り去っても依然として砂山のままだが、それから何度も取り続けて最終的に一粒だけが残った時に、その一粒だけを指して「これは砂山である」と言えるのかという問いである。

 これは述語の曖昧さから生じるパラドックスである。

 それでは第二のクエスチョン。

 リンゴを半分に切ったとき萩野論ではどうなると思う?

 普通はA→A’+A’というようにAというリンゴは2つの半分になったリンゴA’になると考えるだろう。

 しかし、萩野論ではA→A+B(A)という式になる。切ったリンゴに含まれるインクルージョンの量が多い方がそのままリンゴAとして存在し続け、その片割れはリンゴAのインクルージョンを使いリンゴBとして存在するのだ。

 ではこれを踏まえて、砂山のパラドックスを解いていこう。

 答えはいたって簡単だ。

 その砂山で一番インクルージョンが多い砂粒が砂山になるのだ。


 それではこれを人間におこなうとどうなるだろうか?

 君の身体の半分を、筋肉を、骨を、血管を、内臓を、眼球を、そして脳の半分を取り外したとき、君は君でなくなるのではないか?

 しかし外した部位は、はたから見た時に繋がっていないといけないためこの方法は難しい。そもそも生命維持が困難だろう。

 そこでインクルージョンの含有量が高い部位を多く取り出すことで解決することはできないだろうか?

 数年前に全く別の研究で実験してみる機会があったのだが、その時は脳の60%程と肺、腎臓、肝臓、それぞれの片方で50%を超えることができた。

 そもそも萩野論はこの研究から生まれた副産物であり、そしてこの研究の被験者というのが私、萩野夏帆なのだよ。 

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