第4話
2016年9月
夏休み明けの教室内で萩野夏帆は、嫉妬と復讐に燃えていた。
成績優秀、ずば抜けた運動神経と芸術センス、容姿端麗な彼女はみんなの憧れの対象になっていた。テストでは常に1番でありその称号を譲ることはなかった、2年生までは。
夏休み前最後の授業で行われた理科の小テストにおいて15点中14点をとり、人生初の2番を取った。
この出来事は、彼女の中で眠っていた真の才能を、彼女自身を怪物に変えてしまう何かを目覚めさせた。
そしてその怪物の標的となったのが、その時満点をとった幼馴染である葉月碧だった。
「おはよう、葉月君」
学校に着いて早々、葉月は困惑していた。この目に映っているのは本当に自分の幼馴染であるのか、と。まるで監禁されて爆薬でも作らされていたんじゃないかと思えるほど色白く、そしてやつれていた。
「お前、なんかあった?」
「君は、何も感じなかったのか。私は君がテストで1位を取ったあの日私は羨ましく思った、いや嫉妬したんだ。君みたいな天才に。私には才能があると思っていた。何でもできて何でも一番だったから。でも、本物の天才には勝てなかった。所詮、私はただの凡才だった。だから努力した、この夏休みに。君に勝つために。」
「…怖いよ、お前。どうしちゃったの?」
「どうもこうもないよ葉月君。これからのテストは全部私が一番を取るってだけ。」
それから中学三年の最後まで彼女は1位を取り続けた。
しかし、彼女が勝つことは無かった。葉月碧もまた、同時に満点を取り続けたからだ。
2024年3月
卒業式のあと二人は通学路を歩いていた。
「結局、君にはあの時から一度も勝っていないな」
「理科だけな。それ以外は赤点とか取ってるし」
「別に他の教科は興味ない。比べる必要もない」
「まぁ、ですよね」
卒業証書を片手に苦笑いした。
「将来どうするんだっけ?」
「科学者を目指すつもりだ。まだ、私は君に勝てていない。君はどうするんだ?」
「まだ決まってないな」
「そうか。私としてはぜひその才能を生かして科学者を目指してもらいたいところだが、まあそこは個人の意見を尊重しよう。急ぐことでもあるまい」
「高校は地元じゃないんだっけ」
「ああ。県外の海が見える良い高校だよ」
「それじゃあ会えなくなるな」
「年一ぐらいで帰る予定だ」
「そっか」
そんな他愛のない話をしながら交差点に着いた。ここからは別方向に進んでいく。
「じゃあここでお別れだ」
「あぁ。じゃあな」
横断歩道を渡り終わった彼女はドライな言動とは裏腹にずっと手を振っていた。まるで一年半後に起こる悲劇と絶望を予期しているかのように。
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