第3話
...…… 7年だぞ!7年!我々は君の研究にどれだけの時間と金をかけたと思っている!バックワードが開発されたのはもう6年もまえだろう!当時は天才現るとか世界が変わるとか色々囃し立てられたもんだが…今はどうだ?年々高くなる研究費、結果のでない実験、食い潰すエネルギー、講義だって数人しか受講していないじゃないか!」
「おい!聞いているのか!」
視線がこちらに集まる。
「まず、この研究で二人程植物状態になっています。結果より人命が第一です。時間がかかるのは仕方がないかと。金に関しても開発費はこちらが払っているのでバックワードの運用費のみでしょう?」
「一回360kwを一日一回多けりゃ二回だぞ!大学としての研究費の半分を充てているんだ。他のゼミからの苦情も絶えん」
「すまないが、今月中に目ぼしい結果がでない場合、研究費の打ち止めと部屋を明け渡してもらう」
「異論はないな?」
「いくらなんでも急すぎます。講義だってしないといけないですし…」
「いつ結果が出るか分からないものにリソースをさいている余裕はないんだよ。土地も機材も金も時間も有限なんだ。講義のほうは非常勤の方にやってもらうことで話がついている」
「話しても時間の無駄だ。賛否に入ろう」
「賛成の者は?」その場にいる過半数が手を挙げる。
「決まりだな」
「今月中だぞ。わかっているな」
「分かりました。結果を出せばいいんですね?」
「そうだ、ぜひ頑張ってくれたまえ」
「お帰りなさい。どうでした?」
扉を開けると元気の良い声が聞こえてきた。ソファーに倒れこみながら言う。
「どうしたもこうしたもない。上の連中は今月中に結果が出ないと部屋を明け渡してもらうと言っていた。本音は私の研究を横取りするつもりなのだろう。狙いはバックワードだ。あれの開発費はすべて私が払っているため功績が出たとしても大学側はうまみがない。そこで現実的に無理な条件を出すことで私を追い出し大学側の設備にしようとしている。あのデカ物を一か月で移せる場所を探し運べなんて出来るわけないだろう」
「まあ、そうなりますよね。色々噂はたっていたので覚悟はしていましたが」
「まったく、世の中非効率すぎる。金のためにつぶされた研究が世の中にはいくつある事か。技術開発を一番に考えていれば倍のスピードで発達しただろうに」
「それでどうするんですか?」
「民間の研究所か、企業に掛け合って受け入れ場所を探してみようと思う。君のほうは引き続き帰還口の適応物を探してくれ」
「現状、バックワードにしか累ねられませんからね」
「ああ、そのせいでタイムトラベル可能時間と活動範囲が限定的すぎる」
「全部ダメだったらどうするんですか?」
「バックワードの所有権を渡す」
「良いんですか?」
「私は別に金や名誉のために研究をしているわけじゃない。ある目的のためだ。そのためにこの6年間を費やしてきた」
「医学生の僕を助手にしたのもそのためですもんね。ところで目的って何ですか?」
「計画がうまくいったら教えてあげよう。君はがっかりするかもしれないが」
「がっかりするわけないじゃないですか。あなたほどの天才が脳の半分を使ってでも実現したバックワードの目的はどんなものでもそれに値すると思っていますよ」
「そんな大したものじゃない」
手放したくない夏の思い出なだけだよといいかけ私は再び眠りについた。
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