第1話:復讐③-戦士視点-
(あれ? ここ、どこだっけ? )
ぼやけた意識で自分の行動を思い出す。そうだ! みんなで
僕は魔王討伐を目指す一行の戦士。今日はみんなで迷宮探索にきていた。
記憶が段々と蘇る。僕はドワーフで人間やエルフより頑丈だから一行の一番後ろを歩いて、後ろからくる魔物に備えているんだった。ふと前を見ると、パーティのみんながいた。
先頭を歩き、敵を警戒する勇者さん。迷宮の壁を物珍しそうに眺める武闘家さん。魔物に怯えた様子の僧侶さん。そんな僧侶さんを心配そうに見つめる魔法使いさん。僕の目の前を楽しそうに歩いている呪術師さん。
いつもの風景、いつものみんな。もうずっと一緒にいるメンバー。僕の命を救ってくれたメンバーだ。
僕の家族はある日、街を追放された。追放の理由はお父さんにあったらしい。お父さんは有名な鍛冶屋だったけど、武器を人間だけでなく魔王にも売っていたらしく、その罪で追放された。町の人たちによると、僕とお母さんもお父さんと同罪らしく、一緒に街を出ていくことになった。
この世界でドワーフが街を追放されるということはほとんど死刑宣告だった。なぜならこの世界ではおもらしや野外での放尿は死を意味したからだ。
僕の住む世界では、おしっこが地面に触れると魔物が現れる。そういう呪いを魔王が世界中にかけたらしい。
唯一排泄が許されるのは人間が作った街だけ。人間は"浄化の術"という魔王の呪いを解除する術が使える。僕たちドワーフやエルフにそんな力はないので、人間以外の種族は人間の街の中に各種族の自治区を作って暮らしていた。
つまり、ドワーフが街を追い出されるとほぼ百パーセントの確率で、おしっこがしたくなって死んでしまう。
お父さんもお母さんも魔物にさらわれるくらいならと言って、三人で命を絶とうとしていた。そんなとき、今僕が一緒にいる勇者一行が通りかかった。勇者さんに武闘家さん、魔法使いさんに僧侶さん。そういえばこのときは呪術師さんはいなかったんだっけ?
勇者さんはお父さん、お母さんと何か話していた。その間僕は僧侶さんと一緒にいたので何を離しているかはわからなかった。
しばらくして勇者さんが「お父さんとお母さんは街へ戻っていいことになった。でも、君は戻ることができない。だから、俺たちと一緒に行こう」と言われた。
最初は意味がわからなかったけど、お父さんもお母さんも「いってらっしゃい」と言ってくれたので、それからずっと僕は勇者さんたちについて行っている。
あのまま勇者さんたちに拾われなかったらどうなっていたんだろう? ドワーフは頑丈だから命を絶つことも難しい。ということは、やっぱりおもらしして死んじゃったのかな。
実は追放直後、僕はとてもおしっこがしたかった。トイレに向かう途中であれよあれよと言う間に追放されてしまったので、かなり絶望したのを覚えている。あのとき、僧侶さんがおしっこを我慢していた僕に気づいて防水袋を渡してくれなかったら…… 僕は今、ここにいないだろう。
ブルッ
おっと。昔のそんなことを考えていたら急におしっこをしたくなってきた。かなり強い尿意だ。僕はとっさに股間を押さえる。
(あぁ、昨日隠れてお酒いっぱい飲んだもんなぁ…… )
昨日の自分の暴挙を後悔した。この感じだと今から迷宮を出たとしても、街に戻るまで我慢できない。僕は腰につけたポーチの中から防水袋を探す。
(ん〜、あっ、あったあった! )
探していた袋は見つかった。が、小さい袋が一つあっただけだ。
(いっけね〜、袋補充するの忘れてた〜)
こんなに小さなでは一回分の尿しか受け止められない。まぁ、今回はこれで充分だろう。次からはちゃんと準備して迷宮に入らなくては……
僕は放尿のため、みんなに足を止めてもらおうと前を向いた。僕の視線の先には泣きそうな顔でモジモジと足を動かす呪術師さんがいた。
(? 呪術師さん、なんで泣きそうなの? それにあんなにモジモジして。もしかして呪術師さんもおしっこしたいのかな? )
「ね…… 戦士くん…… あの、袋、ちょうだ…… 」
呪術師さんは僕の視線に気づき、僕に何か訴えてきた。手には防水袋をもっている。
(あれ? あの袋、なんか破れてる? )
呪術師さんが握っている袋には刃物で切ったような跡があった。これではおしっこがこぼれてしまう。もしかして呪術師さんは袋を譲ってほしいのかな?
(でも、これ渡したら僕がおしっこできないし…… )
うん、これは渡せない。僕だって前を押さえないと出ちゃいそうなくらい限界なんだ。それに袋なら前を歩いている四人の誰かに譲ってもらえばいい。そう考えて呪術師さんの方を向いて首をフルフルと横に振った。
その瞬間、袋を貸してもらえないことを察した呪術師さんは「え…… 」と小さな悲鳴を上げた。
ショロロロロロロロロ
次の瞬間、呪術師さんがいきなりおしっこを漏らした。
(えっ! ? ウソ、なんで? 僕のせい? ! )
確かに我慢している素振りはあった。でも、迷宮に入ってからそんなに時間は経っていない。だから、大丈夫だと思って袋を渡さなかった。それだけだったのに……
「あっ…… あぁ! イヤ! おしっこ! とまって! ! イヤイヤイヤァ! 死にたくない...死にたくないよぉ! ! 見てないで誰か助けてよ! おねがい! ! こんなところで死…… 」
呪術師さんはそう言い残して消えた。あとにはおしっこの水たまりだけが残った。
ブルッ
(ッ…… そうだ、呪術師さんのことで忘れていたけど僕もおしっこがしたかったんだ。あぁ、ヤバイ。限界だ…… みんなに声かけてるヒマないよ)
僕は慌ててみんなの下を離れて、おしっこできそうな場所を探す。急がないと。急がないと僕も呪術師さんみたいに……
僕は恐怖にかられて迷宮を駆け回り、しばらくして魔物が入ってこれなさそうな横穴を見つけた。
(ここなら…… )
僕は手早くズボンからおちんちんをだして、先っぽを袋に差し込んだ。
(早く早くぅ…… あ、もう…… ふぅ〜)
おちんちんが袋に入ったのを確認してから僕はお腹の力を抜いておしっこを出した。
バタタタタタタタタ
おしっこが袋に当たる音が迷宮中に響く。
(はぁ、よかった、間にあったぁ)
僕はなんとか間に合った。でも、僕が袋を渡さなかったせいで呪術師さんが…… とてつもない後悔の念が放尿中の僕を襲った。
バタタタタ
それでも我慢を重ねたおしっこの勢いは全然衰えない。というか、これはちょっと多すぎる。このままではあと少しで袋が一杯になってしまう。こんなに出しているのに、僕のお腹の中のおしっこは全然減ってくれない。
(どうしてどうしてどうしてどうして? ? ? ? )
たくさんの疑問符が頭をよぎる。もしかして呪術師さんの呪い? 呪術師さんは死んじゃう前に袋を譲らなかった僕を恨んでおしっこが止まらない呪いをかけたんじゃ……
(マズイよ、このままじゃ、おしっこが袋からあふれてちゃう…… )
もし、袋からおしっこがあふれたら、もしそのおしっこが地面に水たまりを作ったら、そうしたら……
(止まれ止まれ止まれ止まれぇ)
思いつく限りの場所に力を込めて必死におしっこを止めようとする
。が、おしっこの勢いは変わらない。
(ダメダメダメダメ…… これ以上出したら、もう…… )
パタタタタタタ
僕の努力は無駄に終わって、袋からおしっこが溢れ、地面にこぼれる。
(あ、ウソ…… おしっこ、止められなかった…… ハハッ、僕も。僕もも呪術師さんみたいに、死んじゃうんだ…… )
自業自得。そんな言葉が浮かんだ。でも、あそこで呪術師さんに袋を貸しても、結局僕はおもらしして死んでした。あーあ、昨日みんなに隠れてお酒なんて飲まなければもっと長く我慢できたかもなぁ。
(みんな、呪術師さん、ゴメン。僕もうみんなのこと助けられないや)
今までのこと、これからのこと全部を心のなかで謝る。誰が許してくれるわけではないが、そうしないで死んじゃうのはなんだか気持ちが悪かった。
(…… あれ? )
おかしい。おしっこが地面についてから結構時間がたった。なのに魔物が現れる気配は一切ない。そして僕のおしっこが止まる気配もまったくない。
(えっ、えっ、えっなんで!? 魔物が出ないのはいいけど、なんでおしっこが終わらないの?! )
僕のおしっこはとうに袋からあふれ、地面に大きな水たまりを作っている。その大きさは今まで見たどんな水たまりよりも大きい。だが、僕のお腹の苦しいのは全く変わらない。まるでおしっこが湧き出ているみたいだ。
(! もしかして、これ、夢? )
一つの仮説がこのおかしな状況を全部説明してくれた。夢だと考えれば、魔物がでないこともおしっこが止まらないことの説明もつく。
そういえば呪術師さんがおもらししたのはずいぶん昔の話だったはずだ。呪術師さんがおもらししたとき、僕はたしかに自分の防水袋を渡さなかった。で、今と同じ様に袋におしっこをして……そうだ、そのときのおしっこは袋半分くらいで止まったんだった。
あのとき「このくらいしか出ないなら呪術師さんに袋を貸したのに…… 」と後悔したことを思い出した。段々、頭がはっきりしてくる。それにつれて僕は余裕を取り戻した。
(そうかそうか夢かぁ、な〜んだ。ならもう好きにしちゃっていいよね)
僕は袋をおちんちんから外して、捨てた。そして袋の上に無限に湧き出すおしっこをひっかけた。
パシャシャシャシャシャシャシャ
(フフフ、外でおしっこなんて初めてだぁ、気持ちいい〜)
なににも制限されずおしっこをするのがこんなに気持ちいいと走らなかった。僕は快楽に身をゆだね、夢から覚めるのを待った。
このとき、自分の身体が魔物に引きずり込まれているなんてわかるはずもなく、僕は終わらない放尿を楽しんでいた。
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