第2話:初戦①
「よし、冒険へ出発だ! あ、”はじめのいーっぽ! ”ってするか? 」
御城から出てすぐ、鎧が脱げなくて武器も装備できない
「ハァ? てめぇ、いくつだよ? 今どきそんな遊び、人間のガキでもしねえぞ」
「こらこら、武闘家ちゃん。いくら真実でも言っていいことと悪いことがあるでしょ? 」
「お前こそ言い方に気をつけたほうがいいぞ、ババァ」
まぁ、なんて悪い口でしょう。こんなに口の悪い人間は百八十年生きていて会ったことがありません。まあ、私がエルフの自治区に引きこもってたからなんだけど……
「行くなら早く行こう。さもないと到着が遅れる」
そう言って魔法使いさんは私達の返答を待たず門から外へ出てしまった。あー、後衛職なんだから前に出ないでほしいな〜。同じことを思ったのか戦士さんが魔法使いさんを追いかける。
「おい待て! 一番最初に外に出るのは私だ! 」
あの人、ホントにいくつなんだろう?
「どうする?ババァ」
「行くしかないでしょ…… 」
「わぁ〜、冒険の始まりだね」
「うん、外はとっても危険だから二人とも気をつけるんだよ」
「は〜い」
「てめぇ舐めてんのか? 」
武闘家ちゃんと僧侶くんは同い年くらいだし二人とも協会育ちなのに、なんでこんなにリアクションが違うんだろう? 武闘家ちゃんはもっと僧侶くんの可愛さを見習うべきだ。
「おいババァ、僧侶のガキに見とれてるところワリィが、その僧侶にサイフ盗られてんぞ」
「えっ! ウソ?! 」
たしかに僧侶くんの手には私のサイフが握られている。慌ててそれをひったくると、僧侶くんは親が動かなくなった魔物の子どもみたいな、悲しそうな目でこっちを見てきた。あ〜、かわいい! うるうるお目々がキュート! もう吸い込まれそう!
「え〜、お姉ちゃん、おサイフくれないの〜」
「あげるわけないでしょ! これにはねぇ、今後の宿代も含まれてるの! あなた一人に全部あげるわけにはいかないの! 」
「そっか〜、はぁ残念…… 最後にお菓子、食べたかったなぁ」
「もぉ〜、早く言ってよ〜。お菓子くらいなら、私が買ってあげるから〜」
「やたー! 」とはしゃぐ僧侶くん。ホントにいい目の保養だ。さて、早くお菓子を買わねば。道具屋に売ってるかな?
「ババァよ、お菓子もいいがイカれ戦士と魔法使いの旦那はそろそろ街の外に出ちまうんじゃねぇか? 」
「あ! たしかに、こんなことしてる場合じゃない!二人とも急ぐよ! 」
私は街の外へ向けて勝手に行ってしまった戦士さんと魔法使いさんを追う。私の後ろには武闘家ちゃんと僧侶くんが続く。
「おっとっと…… そういえば二人はちゃんとトイレに行った? 次の街まで徒歩だと半日以上かかるから今のうちに済ませておくんだよ。あと、防水袋も忘れず持ってね」
別に二人をバカにしてこんなことをいっているわけではない。この世界においてトイレを済ませているかどうかは命に関わるのだ。
この世界で”おもらし”は死を意味する。ここでいう死とは、社会的な死ではなく、肉体的死だ。
この世界の大地は魔王によって呪われている。大地に尿が注がれるとたちまち大地から魔物が現れ、漏らしたものを大地へ引きずりこむ。引きずり込まれた者がどこへ行ったか、どうなったかはわからない。ただ、引きずりこまれた後、帰ってきた者は一人もいない。ゆえにこの世界で”おもらし”は死を意味する。
そんな世界を今から冒険しようと言うのだ。トイレは安全な街で済ませておくに越したことはないし、もししたくなっても防水袋があれば一回くらいはしのげる。命を守るため、今の確認は絶対に必要だったのだ。
「ガキじゃねえんだ。それくらい済ませてきたわ」
「うん、僕も大丈夫」
流石に二人もこの狂った世界の住人だけあってトイレはしっかり済ませていたようだ。よく見ると二人の腰元には皮でできた袋がある。どんな体制でも尿をすぐ受け止められるように工夫されている。武闘家ちゃんの腰元には他にも十字架と鎖がジャラジャラ付いてるけど…… とにかく、二人は年に似合わず、なかなか旅慣れしているみたいだ。
「その様子なら外へ出ても大丈夫そうだね。さ、今度こそ行くよ」
気を取り直して、戦士さんと魔法使いさんのあとを追う。若い二人がこんなにしっかりしてるんだ。きっと年長者の二人も大丈夫だろう。そう、このときは思っていた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
お読み頂きありがとうございます!
もしお気に召されましたら、ぜひぜひフォローや☆評価など頂けますとありがたいです<(_ _)>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます