第1話:厄災③

「で、次は誰の紹介にする? 魔法使い? 僧侶? それとも国王? 」


「魔法使いでお願いします。なる早で」


 なんで国王が選択肢にいるんだよ、と言うのも面倒だったので、思考停止で魔法使いを選んだ。頼む。まともな人であってくれ。


「ふむ。では要点だけ。魔法使いは『能力を百倍にする魔法』が使える」


 『能力を百倍にする魔法』か。聞いたことがないな。恐らく自作の魔法なんだろう。はぁ〜、自作魔法ってデメリット大きいんだよなぁ。この魔法にはどんなデメリットがあるんだろう?

 

「へぇ〜、で? どんなデメリットが? 魔法を使った相手が二秒後に爆発するとか? 」


「いや、魔法自体にデメリットはない」


「えっ? 本当? 本当なんですか、魔法使いさん? 」


 思わず『能力を百倍にする魔法』を使うという魔法使いさんに聞いてしまった。だって、デメリットゼロの自作魔法なんて、魔王を討伐した勇者一行の魔法使いしか作ったという記録しか残っていない。つまり、彼は伝説の魔法使いと同等の実力を持っているかも知れないのだ。


「デメリットはない。それは保証しよう」


 魔法使いさんはなんというかちょっと暗いけど冷静な感じの男性でいかにも仕事人って感じだ。さっきの!マークが多い二人と比べると落ち着いて話しが出来そうな感じだ。


「わぁ、すごいですね。デメリットなしの自作魔法なんて。ちなみに他にはどんな魔法が使えるんですか? 」


「他の魔法は一切使えん」


 ……えっ?


「あの、他の魔法は? 」


「一切使えん」


 あれ? このやり取りさっきもやった?


「その魔法使いはな、『能力を百倍にする魔法』以外の魔法は使えんのだ。そのうえ『能力を百倍にする魔法』は自分にはかけられん。徒党を組んで初めて能力が発揮できるタイプの天才だ」


 国王のアシストが入ったが『能力を百倍にする魔法』は自分にはかけられないという負の情報が増えただけで、なんのアシストにもなっていない。


 つーかマジか。アシスト魔法しか使えんの? 他の二人よりマシとはいえ、やっぱ戦力にはならないのね。この人連れてっても私が一人で戦うことになるから一人旅と変わらないじゃん。


「さぁ、最後! お待ちかねの僧侶だ! その前に国王の説明を……」


「僧侶さんの説明はいいです。私は一人で旅にでます」


 三人目まで仲間を紹介してもらったところで私の心は折れた。だって、全然いい仲間がいないんだもん。これだったら一人で旅にでたほうがマシな気がする。そもそも最初は一人で旅するつもりだったし、ここにきたのも軍資金がほしかったからだし、軍資金がもらえないなら、もう旅立っちゃおうかな?


「そんな! 僕を置いてかないでよ、お姉ちゃん! 」


 声のした方には目を小動物のように潤ませた修道服姿の僧侶の子がいた。


「あ、あの、ごめんね。君みたいなか弱そうな子を連れて行っても守りきれないと思うし、君の横にいるお兄さんお姉さんはみんなちょっと頭のネジが足りないから一緒に旅するのはちょっと……」


 そういっていると僧侶の子は私にガシッと抱きついてきた。その後、上目遣いで私の方をキラキラした瞳で見つめてくる。わっ、何この可愛い生物?


「その僧侶はいわくつきでな、教会から追い出されて帰る場所がないのだ。だからその子だけでも連れて行ってくれ」


 うわ、国王最悪だな。こんな可愛い子にいわくがあるわけないし、いわくがあったとしても普通魔王を討伐しようとする一行に身売りさせるかね。下手したら死んじゃうんだよ?


 国王に軽蔑の眼差しを向けている間に僧侶の子はひょこひょこと私の元を離れる。あ〜、離れる姿も可愛い。なんだか体が軽くなった気分だよ。


 癒やしの時間を過ごしていると国王が話し始め、その時間をぶち壊しにする。


「まず一つ、その僧侶は男だ。」


 へぇ〜、そうなんだ。男の娘ってわけだ。でもまだあどけなさが残る顔だから全然OKだね。修道服も似合っているし。あ、だからさっき自分のことを『僕』っていってたのか。ボクっ娘じゃなかったのね。


「そしてもう一つ、その僧侶は教会の僧侶全員を骨抜きにしその財産や衣服を奪った。ちょうど今、おぬしがやられていることが教会の僧侶全てに行われたのだ。これは追放されても仕方がないだろう」


「は?何? 財産や衣服を奪う? 何いってんですか国王? あの小動物にそんな邪悪なことができるわけないじゃないですか? 」


「もう最初のように国王様とは呼んでくれんのか……まあいい、ではおぬし、先程まで腰につけていた剣はどこへいったのだ? 」


「? 何言ってるんですか? ここにあるじゃないですか」


 国王の謎の質問に答えるべく腰のあたりをまさぐる。ゴソゴソといつも剣のある場所に手をやったが……剣がない。いやそれどころか少しずつ貯めていた旅たちのための資金や薬草などの道具が入ったポーチもない。というかズボンを固定していたベルトがない!


「あれ! えっ?! 私の剣は? ポーチは? ベルトは? 国王! 何か知ってますか!? 」


 僧侶くんに癒やされていた私は一転パニックになる。


「だから僧侶が奪ったと言っておるではないか……」


 今回ばかりは国王の言葉を信じて僧侶くんの方に目をやる。僧侶くんは盗んだものを床に並べていた。


「……ッ、ちょっと何してんの!! ていうかどうやって盗ったの!? 」


 僧侶くんはキュルッと不思議そうな顔をした。


「え〜、お姉ちゃんがくれたんじゃないか。抱きついたときに簡単に盗れたから、わぁくれるんだ、お姉ちゃん優しいなぁって思って……」


 そういって僧侶くんは戦利品に目を戻す。そっか、私この子に全部あげたんだっけ? いや〜まいったね記憶が曖昧だよ。


 私がボーッとしていると、僧侶くんが元・私の剣を振り上げた。それを見て私は正気に戻る。


「あっ! それ! それはダメなの!! 」


 そういって私は僧侶くんから剣を取り上げる。僧侶くんはひどく悲しそうな顔をしてたけど、この剣はダメだ。絶対に渡すわけにはいかない。いや、一回盗られたんだけど。


「さて、すべての仲間の紹介が終わったな。それではゆけぇい、魔法剣士よ。必ず魔王を討伐し戻ってくるのだ! それとも出発の前に国王についての説明を……」


「ちょっとちょっと! 何勝手に出発させようとしてるんですか!?ていうかちょいちょい国王の説明しようとしてくるのなんなんですか? 絶対に聞きませんよ! 」


 国王の暴挙に怒りを感じる。国王はなぜか落ち着いた様子で説明を始めた。


「まぁ、まて魔法剣士よ。私も無意味に自分の説明をしようとしたわけではない。少し私のスキルについて聞いてくれ」


「国王のスキル? 」


「そうだ、国王には代々『国民の適性がわかる』というスキルが受け継がれる」


 へぇ〜、そうなんだ。でも、コイツが王位に付いてるってことは先代の国王様にはそのスキルは受け継がれなかったんだね。つまり、コイツもスキルを持ってない。つまりはただの偉そうな人ってわけだ。


「もちろん、私にもそのスキルは受け継がれている。そして、そのスキルで見たところ、今回君の仲間に推薦した四人はこのまま国に置いておけば厄災を起こすことがわかったのだ」


「それってつまり……」


「君は賢いな、魔法剣士よ。そう、厄介払いだ」


 こいつ悪びれねえな。


「とはいえそう単純な話ではない。厄介払いをするだけならば、密かに四人を前線に送っただろう。国王とはそういう非情な決断もせねばならないのだ。しかし、私のスキルで見たところ、この四人はおぬしと一緒に旅をすることが最適であるという結果が出た。だからおぬしにこうして頭を下げているのだ」


 前線に送る話をしているときの国王は今までにないほど辛そうな顔でそういった。その時はこの人も苦労しているのかと思った。でも、その後こっちをまっすぐ見て『頭を下げている』と言ったときはやっぱりコイツただ偉そうなだけじゃんと思った。


「えっと、私が一人で旅立ったらこの人達は前線に送られて死んじゃうってことですか? 」


「平たくいえばそうだ」


「私が連れて行っても死んじゃう可能性は残りますけど? 」


「それでも生き残る確率はただ前線に送るより、遥かに生き残る確率は高い」


 はぁ、とため息をつく。なるほど、私は今試されているのか。目の前にいる四人を見捨てるか、自分を犠牲にして救うか。そんなの答えは決まってる。私は世界を救うために旅に出るのだ、世界とはすなわちこの国に生きる全ての命。だからこの人たちも世界の一部だ。救わねばならない。


「わかりました。四人全員連れていきます。これで文句はないですか? 」


「おぉ、なんと献身的なのだ! 魔法剣士よ! そなたにはきっと神々からの加護があるだろう!! 」


 芝居がかった親父だな。こうなることわかってやってたんだろう。まぁ、四人がポンコツなことを隠さず伝えたのだけは評価したいかな。これで、優秀な四人と言われて無理やり旅に出されていたら、多分旅先でみんな死んでいただろう。だって、優秀だって聞かされてたら頼っちゃうもんね。


「じゃあもう行きますね。ほら、みんな行くよ」


「わぁ〜い、連れてってくれるの? ありがとう、お姉ちゃん! 」


「君はまず盗んだものを全部返そうか? 」


 僧侶くんはテヘッと笑った後、剣とポーチとベルトを返してくれた。ポーチは若干軽くなった気がするが気のせいだろう。後でお金数えとかないと……


「あっ、言い忘れていたが、その僧侶は魔王を討伐した一行の僧侶が持っていた回復の術も、僧侶が標準装備している浄化の力も使えないのでそのつもりで」


 国王はいつも最悪のタイミングでバッドニュースを持ってくる。多分、王政が終わって民主主義とやらになれば、この人は速攻で政治の舞台から退場させられるだろう。さっきから好感度が下がりっぱなしだもの。


「よし! 行くのか! 私のパワードスーツがどれほどの実力を持っているか。ついに外で実験ができるというわけだ! 」


 戦士さんはブレずにマッドサイエンティストだなぁ。ガハハと笑う戦士さんとキュルキュルしてる僧侶くんを見ている間に魔法使いさんと武闘家ちゃんは外に出てしまったようだ。ちょっと協調性にかける二人だな。今後が心配。


「それではゆけぇい、魔法剣士よ。必ず魔王を討伐し戻ってくるのだ! 」


今行こうとしたところなんだけどな。なんかちょっとやる気がなくなっちゃった。それでも私は王宮を出て、魔王討伐に向かう。この世界は厳しい世界だ。血を流しても死ぬし、浄化されていない土地でおしっこを垂れ流しただけでも死ぬ。そんな厳しい世界に私はポンコツな仲間と一緒に出ていくのだ。命がいくつあっても足りない。でも、ここで命を使わなければならない。世界を救うにはそれしかないのだ。私は覚悟を決め、町の出口へと向かった。


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