第1話:厄災②

 最初に目についたのは鎧を着た大柄な人だ。兜をしているので顔は読み取れないがあの体躯だ。きっと戦士に違いない。鎧は上半身だけで下半身は普通の布のズボンに革の茶色いブーツと防御力の低そうな感じだが、それくらい戦闘に自信があるということだろう。そういえば武器を持っていないけど、一体何で戦うんだろう?……まぁ、あとでわかるか。


 次の人はローブを身にまとい大きな杖を持った男性だ。風貌からして魔法使いだろう。ということは私と同じエルフということだ。エルフは人間やドワーフに比べて耳が長いのだが、男性は髪を伸ばし放題にしているので、耳は確認できなかった。でも、あの風貌だったら魔法使い、そうでなかったとしても僧侶なのだろう。あ、次の子が僧侶っぽいからこの人は魔法使いだね。


 次に目に入った子はウェーブがかかった金髪に黒い服に銀の十字架がジャラジャラついた服装でしゃがみながらこっちを睨みつけていた。ちょっとガラが悪そうだけど、あんなに十字架が付いてるってことは僧侶だよね。えっと……あれ?


 最後に目に入った子は修道着を着ていた。うるうるした小動物のような瞳でこちらを見てくるのでちょっと守ってあげたくなる存在だ。でも、あれ? これじゃあ、僧侶が二人になっちゃう。武闘家の人はいないのかな?


「あの、国王様、武闘家の方がいないようですが……」


 私のために彼らを集めてくれた国王様に問いかける。国王様はちょっと驚いた様子で答えた。


「なにをいう。武闘家ならそこにおるではないか? 」


「えっと、どこにいるのですか? 」


「だからそこだ」


 そういって国王様は十字架がジャラジャラついた女の子を指さした。


「えっ!? この子が武闘家!? どうみても僧侶ですけど……」


「失礼なババァだなぁ。あたしのどこが僧侶に見えんだよ? 」


 さっきまで座って私にガンを飛ばしていた少女が立ち上がって私に話しかける。ていうか口悪っ!ババァって……


「ちょっと初対面の人にババァは失礼じゃない!? 私まだ百八十歳だよ!! 」


「充分ババァじゃねえか! 人間だったら二周目の終盤ってとこだぞ! 」


 なんて失礼な子だろう。たしかに人間にとって百八十歳はババァかもしれないけど、エルフの百八十歳は人間換算するとピチピチ十八歳なのだ。はっ、そんなことどうでもいい! もっと先に確認しなきゃいけないことがあった!


「それよりあなたが武闘家っていうのはホントなの? 十字架いっぱい付いてるし、どう見ても僧侶だけど……」


「おいおい、武闘家は自由に服も選べねぇのかよ。この服はな、『地雷系ファッション』つって、最近人間の若者の間で流行ってんだよ。エルフのババァにはわからんか? 」


 そうなんだ。ずっと剣術と魔法の修行をしてたから流行とか追いかけられてなかった。いや、服のこともそうだけど、この子が武闘家ってことが一番驚きだよ。


「えっと、国王様。ホントにこの子が武闘家なんですよね? 」


 武闘家を名乗る女の子では埒が明かないと思い、会話の相手を国王様に戻す。国王様は私たちの話しを聞いていなかったらしく、ハッとした表情でこちらを見た。


「えっ、あぁそうだ。その娘が武闘家だ」


「彼女は一体どういう武術が使えるんですか? 戦えるようには見えませんが…… 」


「おい! それはどういうことだよ!! 」


 女の子は怒っている様子だったが、私も国王様も彼女を無視して話を続けた。


「彼女は……その、元は修道院に拾われた孤児で、僧侶になるはずだったのだ。だが、彼女にはある弱点があり、それで武闘家になったというわけだ」


「……その弱点とは? 」


 私は息を呑む。国王様も「あぁ、これいったら怒られるんだろうな」みたいな表情で息を呑んだ。その場には「おい! 弱点ってなんだ! 私に弱点なんてねぇぞ! 」という女の子の怒号だけが響く。


「彼女はな、致命的に物覚えが悪いのじゃ。だから僧侶としての所作を覚えられなかった。また道具の使い方もなかなか覚えられなかった。なので、泣く泣く身一つで戦う武闘家に……」


 といって国王様は私から目を逸らした。


「えっと、では彼女が武闘家として使える技は? 」


「もちろん一つだ。それ以上は覚えられん」


 国王様はなぜかドヤ顔だ。今のやり取りのどこに誇らしいところがあったのだろう? 私にはわからなかった。


「えっと、あなた……武闘家ちゃん? 使える技を教えてくれる? 」


 私は国王様を諦め、武闘家ちゃんに使える技を聞く。武闘家ちゃんはニヤッと笑って自信たっぷりに答える。


「我流の”正拳突き”。これ以外の技は必要ねぇ」


 そういって武闘家ちゃんは拳を構える。そっか、ガチガチの近接攻撃か、しかもちょっとタメがいる技か。ダメだ。この子は戦力にならなそう。


「うん、わかった。ありがとう武闘家ちゃん。で、国王、他の人はどんな人? まさかみんな問題児ってわけじゃないだろうな? 」


「えっ、タメ口? ていうか”様”忘れてるよ。私、国王様! 」


「いいから話を続けろぉ!! 」


 私は国王に向かって吠えた。なんなのだコイツは。軍資金は渡さない。集めた仲間の一人はアホの子。これで残りの仲間もポンコツだったらどうしてくれよう。そうだ、魔王の前に国王を討伐しよう。そう心に決めて、私は国王が話し始めるのを待った。


「えっと、え〜、まぁ、一人づつ説明しよう。誰の説明がいい? 選ばせてあげよう」


 なんでコイツずっと上から目線なんだよ。ムカつくな。やっぱ討伐しとくか。あ、衛兵の人が武器を構えてる討伐はやめとくか。えっと……


「じゃあ、その鎧を着た人から、多分戦士の方ですよね? 」


 私は鎧の人を指差す。この人は立派な鎧は着ているけど武器はもっていない。だから、武闘家ちゃんと同じように「アホで武器が使えない」タイプの人かと私は推理したのだ。こんな推理、あたってほしくないな。


「戦士の説明を聞きたいのだな? よかろう。戦士はドワーフでな、武器を創り出す資質に長けたものだ。どのような武器でも創り出せ、どのような武器でも扱うことができる。まさしく戦闘の達人バトルマスターというのにふさわしい人材だ」


「そうですか。で、どうしてこの人は武器を持ってないんですか? 」


 国王の前口上を無視して、本題に入る。コイツは最初にいい情報を言った後落としてくるからな。次から長々話しだしたらさっさと本題に移ろう。


「ム、そうだな。え〜、戦士はな。もう武器を装備しているのだ」


「ハァ? 」


「ほら、その着ている鎧があるだろう。あれが武器だ」


「何いってんですか、お前は? 鎧は防具では? 」


 私は段々敬語を使うのが面倒になってきていたし、もう国王のことを『お前』呼びするくらいには見下していた。国王は私の態度にビビっているようで、なかなか話を進めようとしない。私がイラついていると話題に上がっていた戦士さんが声をあげた。


「私が説明しよう! この鎧はな、防具であり武器! すなわちパワードスーツなのだ! 」


 戦士さんが突然大声を出したことにも驚いたが、それより驚いたのは戦士さんの声だ。その声は女性のものでとてもきれいな透き通ったものだった。


「あの、パワードスーツとは? というか、え、あなたは、女性? 」


 思ったことを全部口にする。戦士さんは口元をニヤリと歪めて答えた。


「よく聞いてくれたな! パワードスーツとは鎧が装備者の動きを感知してサポートしてくれる細心の装備品だ。これで力の弱いものでもパワフルに武器を使えるのだ! そして私は女! 兜をつけているのは舐められないためだ! ドワーフは男社会だからな」


 ハッハッハッと戦士さんは腰に手をあてて笑った。豪快な人だな。話していて気持ちがいい。国王もこの人の半分くらいはっきりものをいえばイラつかないのに。


 でも、今聞いた話しだと武器も装備出来そうな口ぶりだ。なんで武器を持ってないんだろ?


「しかし! パワードスーツはまだ発展途上! 計画では防具扱いになるはずだったが武器扱いになってしまったため私は武器が装備できん! しかも、何を間違えたのか装備が呪われていて脱ぐこともできんのだ!」


 戦士さんはガッハッハと笑う。面白い? 私は全然面白くないけど。だってそれってもう武器を装備できない鎧の人じゃん。しかも脱げないんでしょ? 一生そのままなんだよ? どこで笑えばいいの?


「あ、でも、戦士さんは武器を創るのも得意なんですよね? だったらぜひ私の剣を創って欲しいんですけど……」


 そうだ。戦闘面ではポンコツでも道具面では何か良い働きをしてくれるだろう。呪われていてもドワーフだ。きっといい武器を作ってくれるはず……


「悪いがそれはできん! なんせこの手だからな。細かい作業ができんのだ! 」


 そういって戦士さんは籠手のついた自分の両手を突き出す。たしかにミトングローブみたいな籠手が手を覆っていて細かい作業はしづらそうだ。いや、あの形状では呪い云々関係なく小さな武器は握れないだろう。設計ミスな気がする。


「どうだ、戦士のことは気に入ってくれたか? 」


「はぁ、まぁ、あなたよりは好感度が高いですね」


 死んだ目で国王に答える。なんだよ気に入ってくれたかって。だって、武器が装備できなくて道具が作れない 戦闘の達人バトルマスターなんだよ? 戦闘の達人バトルマスターのいいところ全部引き算してんじゃん。せめてさっきの武闘家ちゃんみたいに最初から武器使うの苦手な人に着てほしい装備だったよ。ていうか、なんで自分で作ったスーツを自分で着ちゃうの? 誰かにお願いして着てもらうとか出来なかったの? あー、ダメだ。疑問がいっぱいで何も考えられない。


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