魔法剣士と四人の厄災 〜おしっこ我慢の冒険譚〜
第1話:厄災①
この世界で”おもらし”は死を意味する。ここでいう死とは、社会的な死ではなく、肉体的死だ。
この世界の大地は魔王によって呪われている。大地に尿が注がれるとたちまち大地から魔物が現れ、漏らしたものを大地へ引きずりこむ。引きずり込まれた者がどこへ行ったか、どうなったかはわからない。ただ、引きずりこまれた後、帰ってきた者は一人もいない。故にこの世界で”おもらし”は死を意味する。
その上、魔王は以前より攻勢を強め、人類はその数を大きく減らしていた。どこでも戦闘を開始できる魔王の配下と違い、人類側は浄化された土地を出れば自由に排泄ができず、今ある浄化された土地を守るだけが精一杯だった。魔王の配下は次々に土地の要所に築城を行い、街を作った。人類側は残った人類・ドワーフ・エルフといった諸種族をかつて栄華を誇った王国の領地に集め、守りを固めることしかできなかった。
そんな中でも勇敢な者たちは徒党を組んで魔王討伐に挑んだ。いくつもの集団が王国を旅立ったが誰一人帰ってこなかった。目ぼしい者達が全員王国を去った頃、国王様が私こと魔法剣士に声をかけてきた。
この世界で魔法はエルフという種族しか使えない。人間の中には呪術という形で魔法を再現するものもいるらしいが、呪術師の存在は極めて稀なものなので、魔法はエルフの専売特許と考えられていた。
私はエルフにしては珍しく魔法の力だけでなく、肉体的な力も強かった。なので、魔法と剣術を組み合わせた独自の戦闘法”魔法剣”を編み出すことが出来たのだ。新しい戦法と言うこともあり、エルフの仲間達は私の旅立ちを許してくれなかったが、この度国王様から直々にお声がけいただけたので、仲間たちもしぶしぶだが私の旅立ちを了承してくれた。
私は旅立ちの前に国王様へ謁見に向かった。義のためというのもあるが、本音は先立つもの、つまりは軍資金が欲しかったからだ。これから世界を救おうという勇敢な若者(しかも女子) になら、国王様も十分なお恵みをくれるだろう。そういった期待を胸に私は王宮へと脚を踏み入れた。
「おぉ、よく来た勇敢なる魔法剣士よ」
王様は芝居がかったセリフを述べる。とりあえず私はひざまずき、頭を下げた。
「魔法剣士よ。そなたが魔王討伐のために旅立ってくれることを嬉しく思うぞ。そもそも我が王国は……」
「あの、すみません。その、早く旅立ちたいんですけど……」
「えっ、まだ話しの触りなんだけど……」
王様はひどく残念そうな顔をする。多分練習してきたセリフなんだろうけど、正直興味はない。私は早く旅立って魔王を倒したいだけだ。
「まぁ、じゃあかいつまんで話そう。魔法剣士よ。この国、いや人類は滅亡の危機にある。それはそなたたちエルフも同じであるな? 」
「はい、そうですけど……」
突然何の話だろう? 早いところ軍資金を渡してほしいんだけど。
「つまり、この人類やエルフ、ドワーフといったこの国の経済を支える者たちが減少しているということだ。さらに魔王軍が所構わず拠点を作るため、武器や鎧に使う金属の価格も高騰しており、国軍を有する王国もかなり疲弊している」
なんだろう。なにか嫌な予感がする。
「そのため、王国としてそなたを支援したい気持ちは山々なのだが、その、そなたに渡すことのできる資金は全く無いのだ」
「はぁ!? 」
相手が国王様だということを忘れて本気でキレる。
「じゃあなんですか? 私に身一つで魔王討伐に迎えというんですか!? 」
「いや、私もそこまで鬼ではない。いや鬼よりオーガのほうがいいかな? 世界観的に……いや、私もそこまでオーガではない」
もはやなんの意味があるかわからない言い直しを挟んで国王様は話を続ける。
「たしかに資金は渡せない。だが、それに勝るとも劣らない人材をそなたに与えよう」
「人材? 」
「魔法剣士よ。そなたは前回魔王を討伐した勇者一行がどのような者たちであったか知っておるか? 」
「はぁ、まぁ」
この世界では一度魔王は討伐されている。伝説の鍛冶師の息子であったドワーフの戦士、大地を浄化する”浄化の力”を使えない代わりに回復術の才に秀でていた僧侶、異国の出身で不思議な拳法を使った武闘家、私と同じエルフで自分で魔法を創れるほど魔法の扱いに長けた魔法使い、そしてそれを率いて魔王にトドメをさした勇者。この五人によって魔王は一度討伐された。ウワサでは、呪術師とかいう人間もいたけど、途中で死んでしまったらしい。
現在、五人は行方不明だ。どこで何をしているか誰も知らない。だが、新しい魔王が勢力をここまで拡大しても出てこないところを見ると、全員死んでしまったのだろう。そんな過去の人たちを話題に出して国王様は何が言いたいんだろう?
「今回呪術師は連れてこれなかったが、それ以外は以前の勇者一行と全く同じ職業のものを招集しておいた。必ずやおぬしの旅の助けになってくれるだろう」
「ホントですか! 」
やった! さっそく仲間ができた! これから孤独な旅が始まると思っていたので、ちょっとうれしい。しかも伝説の勇者一行と同じ職業の人達なんて、国王様、お金はなくても人望はあるのね。
「で、一体私の仲間たちはどこにいるんですか!? 」
私は国王様に問いかける。国王様はパンパンッと手を鳴らし、近くにいた衛兵に合図を送る。あ、国王様、ちょっとドヤ顔だ。多分、これも練習したんだろうな。
しばらくすると四人の男女が現れる。四人ってことは勇者役は私なのかな? それはそれで嬉しい。私はこれから仲間になる人達を一人ひとり見つめた。
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