第4話:真相

「じゃあ、後は二人で頑張って。片方がおもらししたら呼んでね〜。もう片方は開放するから」


 部屋にこだまするのは死んだはずの仲間、呪術師の声だ。私達は今、『呪術師を殺した犯人を推理する』ゲームをしている。犯人だとわかったものは呪術師によって殺される。


 といっても、呪術師が直接手を下すわけではない。死はこの部屋にかけられた呪いによって訪れる。この部屋で尿を漏らしたものは地面から現れる魔物によってさらわれる。


 過去、この呪いは魔王によって世界中にかけられていた。だが、私達勇者一行が魔王を討伐したため、世界から呪いは消え去った。その呪いがこの部屋ではまだ有効らしい。


 ドワーフの男の子、戦士はここに来てすぐおねしょをして死んだ。人間の女の子、僧侶はもう我慢できないと呪術師に告げ、直後に失禁して死んだ。異国の男性、武闘家は自分が呪術師に食べさせた利尿作用のあるキノコを食べさせられ、怒りながら死んでいった。部屋にはもう私、勇者とエルフの女性、魔法使いしか残っていなかった。


「ねぇ、勇者。質問していいかな? 」


 魔法使いはなぜか私に問いかける。このゲームにおいて、私と魔法使いの情報量は同等なので、質問などほぼ無意味なはずだ。魔法使いが意味のないことをするとは思えないが、なんだろう?


「何? 俺に答えられるといいけど」


「間違ってたらゴメンね。先に謝っとく」


「フ、そんな内容なんだ」


「そうだよ。えっとさ…… 」


 魔法使いはそこで言葉を止める。そして、大きく息を吸ってから覚悟を決めた様子で言った。


「あんた、ホントに勇者? 」


 何を聞いているんだろう? 不思議なエルフだ。


「勇者に決まってるだろ? どうしたの、疲れちゃったとか? 」


 魔法使いは私の返答に納得できていないようだ。


「確信が持てなかったけど、変な所はいっぱいあった。でも、二人っきりになったから、やっとあんたの正体がわかったよ」


「正体ってなんだよ? 」


「あんたさ。呪術師なんでしょ? というかそうじゃないと説明がつかない」


 魔法使いの言葉に私はひるむ。そのスキに魔法使いは言葉を続けた。


「呪術師が話しているとき、あんたは一言も発していなかったよね。多分、声を変えて話してたんでしょ? その状態で勇者として話すと呪術師の声で勇者の台詞を言うことになる。だから、ダンマリだった」


「それは、みんなが話を進めてくれたから、俺が喋る必要がなかっただけだよ。そんな適当な証拠で俺を偽物扱いするの? 」


「他にも武闘家にかけられた『見ている相手の動きを止める呪術』は肉眼で見ないと発動しない術だ。窓がないこの部屋であの呪術が使えるってことは、呪術師は部屋の中にいたってこと」


「でも、姿を隠しているだけかもしれないだろう?ほら、呪術師は『存在感がなくなる呪術』とか使えたし…… 」


「悪いけど、あの呪術はエルフに効かないの。エルフはどの種族より耳が良いから、どれだけ存在感をなくしても聞こえるんだ。この世に存在している限り、あんたが同じ部屋にいるかどうかは感知できる。で、あの術を使っているとき、部屋には私、武闘家、あんた以外誰もいなかったよ」


「ということは魔法使いは俺が呪術師で呪いをかけてるってわかった上で武闘家にキノコを食べさせたの? 」


「まあ、あれに利尿作用があるなんてわかんなかったし。もし死んだとしてもいい気味だと思ったし」


 魔法使いはクツクツ笑う。やっぱり魔法使いも武闘家のことが嫌いだったみたいだ。


「 そうなんだ。で、話を戻すけど、俺が呪術師だって証拠はそれだけ? 」


「そうだね。これだけだよ」


「決定的な証拠は一個もないってことだ」


「そうなんだよ。でもそれは、このゲーム全体に言えるよね? 」


「? どういうこと? 」


「僧侶の破れた袋、武闘家のキノコ、そして私と関係があるこの魔法の本。この証拠品じゃ犯人以外が見ても何もわからない。戦士と勇者に至っては証拠すら用意されてない。このゲームは最初から破綻してたんだ」


「それは、もっとよく探せば他の証拠が…… 」


 私の言葉は魔法使いによって途中で遮られる。彼女はもう私の言葉を聞く気がないみたいだ。相変わらず傲慢な女。


「ここからわかるのは、あんたは私達が犯人だってわかっていたし、開放する気がなかったってこと。これはあんたの回りくどい復讐なんでしょ? そしてあんたはそれを近くで見たいから勇者のフリして私達と一緒にいた」


「憶測ばかりだね。というか、その考えが正しいとして、本物の勇者はどこ? 」


 魔法使いは言葉に詰まる。顎に左手をあて、何かを考えている。そして、結論に達したようで、ポツポツと話しだした。


「本物の勇者もこの近くにいるはずだ。そもそも呪術師が犯人を知っているのがおかしかったんだ。どう生き返ったって、自分を殺した相手なんてわかるわけがない。つまり、呪術師に犯人を教えた奴がいたってことだ。そしてそれが勇者…… 」


 そこまで言って魔法使いはハッとした。多分、自分の仮説のおかしさに気づいたんだろう。


「待って。勇者が呪術師を殺した犯人や犯行の手口を知るには、計画の段階で犯人を知る必要がある。勇者には『ものの記憶を見る魔法』で過去を見られない。だから、事後の調査だけじゃ、犯人まではわかっても犯行の手口はわからない。そうなると、えっ、勇者は呪術師を見殺しにした? だとすると、勇者も呪術師の復讐の対称になるはず、じゃあ、勇者は死んで…… 」


 魔法使いは混乱してるようだ。滑稽だなぁ。


「魔法使いの仮説が間違っているだけじゃないか? 呪術師の復讐に俺も含まれるなら、俺がここにいても何もおかしいことはないじゃないか」


「いや、それだと動きを止める呪術の矛盾や勇者と戦士の証拠品がないこと、そして呪術師が犯人や犯行手口を知っていたことが説明できない」


「呪術は君の勘違い、証拠品は俺も戦士も証拠品が残るような工作じゃなかった。犯行手口は呪術で知った。これで説明がつくんじゃない? 」


「…… もしかして」


 魔法使いの顔が青ざめる。全部わかったのだろうか。それならこのリアクションも頷ける。


「一つだけ、全部を矛盾なく説明できる仮説がある。やっぱりあんたは呪術師だ。そして勇者はあんたの味方で多分何処かからこの部屋を見ている」


「でも、それだと勇者が呪術師を見殺しにしたことになる。だから、勇者は復讐の対称となって、味方同士でいるのはおかしい。じゃなかった? 」


「それは『おもらししたら死ぬ』という前提での話だ。この前提を変えれば呪術師が生きていることも勇者が呪術師を見殺しにしたことも全部説明できる」


「へぇ、魔王が作った世界の前提から疑うってこと? 」


 私はちょっとおもしろくなって、笑った。もう、魔法使いと二人で協力して真面目にゲームをする気はなくなっていた。


「『おもらししたら死ぬ』というのは正確じゃない。ちゃんというと『おもらししたら魔物にさらわれる』が正解だ。そしてどこに行ったかわからないし、誰も戻らなかったから『おもらししたら死ぬ』と思っていた。でももし、さらわれた先が勇者のところだったら。勇者は呪術師を独占するために、おもらしさせる計画を見逃す動機が出てくる」


「なんで魔王の呪いでさらわれる先が俺のところなんだ? 」


「それは…… 勇者が、魔王だから」


 魔法使いはそういった後、苦虫を噛み潰したような表情をした。こちらとしては笑いが止まらないが。


「でも、俺は魔王にトドメを刺した。それどころか魔王の配下もたくさん倒した。それを魔王がするというのはおかしくないか? 」


「勇者は多分、魔王の子どもか何か…… 次の魔王となる存在だ。だから、魔王を倒す必要があった。…… 自分が魔王になるために」


「魔法使いの理論は飛躍しすぎだね。それだったらわざわざ人間のふりをして、仲間を作って、魔王を倒すなんてことする必要がない。自分で倒せばいい。協力してくれる魔族だっていただろうし」


「それは…… 」


「もういいよ、呪術師。ここまでバレたら自分で言うよ」


 虚空からかっこいい声が聞こえる。さっきまで私がだしていたのと同じ声。でも、やっぱり本物はいい。耳がしびれちゃう。魔法使いはショックを受けてるみたいだけど。しばらくして、虚空に勇者が現れる。私は必要なくなった『姿が別人になる呪い』と『声が別人になる呪い』を解いて元の姿に戻った。


「魔法使い、君は賢いね」


「『バレた』ってことは私の推理は当たってたってことだね」


「うん、たしかに呪術師の計画は行き当たりばったりでアラが多かったけど、よく見抜いたと思うよ」


 あ、ひっどーい。私だって頑張ったのに。一人称だって変えて、変なこと言わないようになるべく喋らないようにして、リタイアしちゃった戦士ちゃんの証拠品『未使用の袋』を僧侶ちゃんにバレないように回収して…… 証拠品の回収はしないほうがよかったのかな?


 私の気持ちなんて知らない二人はシリアスモードでお話を続ける。私は食卓の近くにある椅子に座って二人の小難しい話が終わるのを待つ。


「勇者、なんであんたは私達と一緒に魔王を討伐したの? それこそさっき呪術師が言ったみたいに反乱を起こせばよかったじゃないか」


「魔族は親父に逆らえないんだ。あ、親父っていうのは俺が殺した魔王のことだよ。で、魔族のままだと親父に逆らえないから俺は人間になったわけ。元々半分、人間だったしね」


 ほえーそうなんだー、私も知らなかったなぁ。でもこれ出自の話とか長くなりそうだな。


「半分、人間? 」


「そ、二十数年前、魔王が初めて尿を介してさらった人間が俺の母親。世界的には賢者って呼ばれてた人だ。知ってるでしょ? 」


「あんた、賢者の…… 」


「息子だよ。望まれた息子じゃないけどね。それもこれも呪いのことを知らせずに、ずっと母さんを戦わせた国王やら当時のパーティが悪いよね? あと、人質になった孤児とか、襲ってきた盗賊とか…… とにかく悪いやつはいっぱいいるんだ」


「だから、私達を集めたと」


「おぉ、自力でそこに気づけるんだ。そう、あんたは当時母さんと一緒に戦った魔法使い、武闘家は襲ってきた盗賊の若頭、僧侶は人質になった孤児、戦士の父親はあんたと同じであの場にいた。まあ、戦士の父親に関しては、会ったときに俺の正体に気づいて自害しちゃったから復讐できなかったんだけどね」


「じゃあなんで私達を殺さないの? 魔王は死んだ。目的は達成できたでしょ? 」


「それはね。俺、君たちがほしいんだ。賢くて強い魔法使い、素早くてきれいな武闘家、力強くて何でも作れる戦士、回復の術だけでなくいろんな才能を持っている僧侶。ぜひ、君たちを新生魔王軍の幹部にしたくて…… でも、普通にスカウトしたら断るだろう? だから、親父の呪いで強制的にさらったんだ。あの呪いを使うと本人の意思とは関係なく魔族にできるからさ」


 あ、今、呪いの話した? いや〜、あの『おしっこをもらしたら魔物が現れる呪い』難しいんだよ〜。なんでも、魔界とゲートをつなぐ触媒としておしっこが最適な温度、状態、汚染度だとか聞いたけど、魔族の呪いは謎理論で運用されてたからかけるのに苦労したんだよ〜。


 と、私が言っても二人は絶対に聞かないだろうと思い、私は心の中だけで叫んだ。


「なるほど、呪術師を見殺しにしたのは同じ理由ね」


「そうだよ、俺、呪術師と付き合ってたから。彼女には早く同じ境遇になってほしくて」


 「さて…… 」といって勇者は魔法使いに近づき、お腹に当てられた右手をガシッと掴んだ。魔法使いは身を捩らせて抵抗しているけど、武闘家に捕まったときと同じく全然逃げられる気配がない。やっぱ二百歳じゃ若者には勝てないよね。


「魔法使いさ。僧侶がいなくなったあたりからずっとお腹に右手置いてるよね。これさ『体の時間を止める魔法』使ってるんでしょ? すごいよね。魔力が切れるまでは、時間を止めておしっこを我慢できるんだもんね。でも、この手を離したらどうなるかな? 」


「うるさい…… 」


 あ、私知ってる〜。止めてた時間が一気に流れ出すから、そのときにあった出来事が全部一瞬で押し寄せるんだよね〜。


 昔、魔法使いにあの魔法をかけられて、迷宮ダンジョンの外でおしっこできなくなったんだよね〜。そんで、探索中に突然魔法を解除されて、もう少しも我慢できなくっておもらししちゃったんだ〜。


 しかも、私がおもらししたときの実験データをまとめて本にして『時間魔術による身体活動への影響について』とかいうダッサい題名で出版して、お金を稼いでるんだからひどいよねぇ。元々守銭奴だとは思ってたけど、ここまで屑だとは思わなかったよ。


 まあ、魔法使いのやったことを抜きにしても、武闘家が変なキノコ食べさせてきて、僧侶ちゃんが袋を切り刻んでくれて、戦士くんが私に袋を貸してくれなくて、ってほぼ詰みの状態だったけどね〜。というか私、人気者過ぎない?


「てかさ。魔法使い、最初の段階で結構我慢してたよね? もしかして今も膀胱にたまったおしっこはそのままで、お腹は苦しいのかな? 」


「黙れよ…… 」


「そういわないで。これから一緒に世界を支配するんだから。そだ、死に様を選ばせてあげるよ。俺が無理やりこの手を引き剥がすのと、魔力が切れるまでずっとそのまま。魔法使いはどっちがいい? 」


「は? そんなの後者に決まってるじゃん。いっとくけど私、あんたたちの寿命より長くこの魔法を維持できるよ」


 魔法使いはドヤ顔をする。この状況でよくその顔ができるね。ちなみに、私と勇者は魔族なので寿命はエルフと同じく千年あるから、多分途中で魔法使いの魔力は尽きるだろう。愚かだよね。まだ私達が人間だと思って接してるんだもん。


 勇者はそんなドヤ顔の魔法使いを見て、ニコリと笑った。そして、魔法使いの右手はお腹に置かせてあげたままで、距離を取った。


「オッケー、じゃあ魔法使いの魔力が切れるまでずっとこのままでいようか」


「いいけど、その間にあんたたち、干からびちゃうと思うよ? 」


 勇者は笑顔のまま、こちらを見た。あ、これは合図だね。私は呪いの準備をする。魔法使いは不思議そうにこちらを見ている。


「? 呪術師あんた何してるの? 」


「ん、ちょっと準備。これ使うの大変なんだ…… よし、できたよ勇者ちゃん」


「よし、やっちゃって。そんで早く帰ろ」


 「うん」と言って、私は魔法使いに呪いをかけた。この呪いは特別だ。対エルフ用に一部の人間が作っていた誰も知らない呪術。効果は数秒だけど今の状況なら充分だ。だってこの呪術は『かけた相手の魔力をゼロにする呪術』なんだから。私は呪いを込めた指でビシッと魔法使いを指さした。


「ひゃあ! 」


 魔法使いからかわいい悲鳴が聞こえる。その後少しして魔法使いの体がビクンビクンと跳ねた。お腹に両手をやっているところを見ると、多分武闘家に殴られた衝撃と尿意が一緒にやってきたんだろう。うわー、ツラそう。


ジョパパパパパパパパァ


 で、そんな刺激の洪水を抑えられる生物などおらず、予想通り魔法使いはおもらしした。魔法使いはアヘ顔で耳まで真っ赤にして、すごい量のおしっこを床に叩きつけた。


「ヒッ、イタっ、イタイよぉ…… お腹、イタイ…… おしっこ、出てる…… 全然、止まらないぃ」


 魔法使いはボロボロ泣いている。なんか、ここまで顔がぐちゃぐちゃだと、かわいいよりちょっと怖いな……


 いい感じに床におしっこがたまった所で呪いが作動する。転送用の魔物ちゃんの黒い手が現れて、水たまりの真ん中にいる生き物をガシッと掴む。ちなみに掴んだ段階で直立二足歩行じゃないってわかったら話してあげる術式にしている。まあ、基本的に使わない機能だけど、間違ってわんちゃんとかをさらわないようにね。


 おしっこの水たまりの上でビクビク痙攣している魔法使いはもちろん連行対称なので、魔物が転送用の空間に魔法使いを引き込む。ゆっくりゆっくり時間をかけて、魔物は魔法使いを引き込む。


 別にゆっくりなのは絶望を与えたいとかじゃなくて、空間座標の読み込みがゆっくりしかできないからだ。時代が進めば、一瞬で引き込めるだろうな。


「この!やめろ! この程度の転送魔法で…… 私が…… 」


「そうだ、魔法使いちゃんならこの魔法をキャンセルできるんじゃない? ほら、私の杖貸してあげるからやってみなよ」


 私は呪術で部屋に隠していた大きい杖をポイッと魔法使いの方に投げる。杖は魔法の威力や効果を上げてくれるアイテムだ。これがあれば、いつもより強大な魔法が使える。魔法使いはすがるように私が投げた杖を拾って、足元の空間に魔法をかけた。


「このっ! なんで…… なんで、とまらないの?! 」


「えー、そーれーは〜、魔法使いちゃんの魔法が私の呪術以下だからじゃないかな〜」


「この……人間風情が、調子に乗るなぁ! 」


「そーそー、ずっと私のこと小馬鹿にしてたもんね。私に負けそうになるといっつも嫌がらせしてきたもんね。嫌がらせの延長でおもらしさせたんだろうけど、やりすぎだよね? ホント、クズ」


「黙れ! 私はお前に負けてない! 私のほうが強いんだ! 」


「はいはい、その話はまた後でね」


「クソガキ! 絶対にころ…… 」


 静かになった。後には水たまりと魔法の杖が残った。私は杖を拾い上げる。ちょっと魔法使いのおしっこがついていたので、とりあえずピッと振ってから背負い直す。あーあー、後で洗わないとな。


「終わったな」


 勇者が呟く。勇者の言う通り全部おしまいだ。戦士、僧侶、武闘家、魔法使い。勇者が魔王になった後も仲間でいてほしかった四人は全員おもらしした。床には四つの水たまり。おねしょでカーペットを汚した戦士、助からないと悟って絶望で力を抜いてしまった僧侶、かつて自分が仕掛けた薬で尿意を増幅させられ無様にもらした武闘家、最後に醜い本性をさらけだした魔法使い。四人とも、いい散り様だった。 後で会うのが楽しみだ。


「じゃあ帰ろうよ、勇者。というか私も朝からトイレ行ってないから漏れそうなんだけど…… 」


 勇者の代わりに昨日の飲み会から、ずっとみんなといた私も当然おしっこを我慢していた。お酒をセーブして寝る前にしっかりトイレにいっていたけど、やっぱりたまるものはたまる。


「ここでしちゃえば? 転送術の手間、省けるじゃん」


「そういう問題じゃないの! 勇者の前でおしっこできるわけないでしょ! 」


 ハハハと二人で笑い合う。まあ、こちらとしては笑っている場合ではなく、早く帰ってトイレに行きたいのだが……そんな私の気持ちに気づいてくれたのか、勇者は床に転送魔法用の陣を描き出す。


「あ、そうだ。呪術師さ、俺のことさっきから勇者って呼んでるけど、今後その呼び方禁止な」


魔法陣を描きながら、勇者が私に言った。


「えぇ〜、じゃあどう呼べばいいの? 」


「そんなの決まってるじゃん」


 魔法陣を描き終え立ち上がった勇者は、私の方を向いて言った。


「魔王だよ」


 魔王ね。そっか、勇者じゃないんだよね。じゃあ私はなんになるのかな? うーん、魔王の彼女だから…… 『魔女王』、かな?


 なんだか、自分で作った名前が気に入って、私はニコニコしながら勇者、じゃないや、魔王の描いた魔法陣へと歩を進めた。魔法陣に一緒に乗ったとき魔王が「さぁ、次はあの王国だ」と言った。私は元気よく「うん! 」と返事をする。


 『おもらししたら死ぬ』この狂った世界はまだまだ続く。


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2024年9月20日 20:00

おもらしが死を呼ぶ世界〜生き抜くために我慢せよ〜 梓納 めめ @nanaki79

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