第3話:憤怒①
「…… 」
静けさが部屋を支配する。部屋にいるのは三人。武闘家、魔法使い、そして私こと勇者。私達は死んだはずの仲間、呪術師の手により『呪術師を殺した犯人を推理する』ゲームをしていた。犯人だとわかったものは呪術師によって殺される。
といっても、呪術師が直接手を下すわけではない。死はこの部屋にかけられた呪いによって訪れる。この部屋で尿を漏らしたものは地面から現れる魔物によってさらわれる。
過去、この呪いは魔王によって世界中にかけられていた。だが、勇者一行が魔王を討伐したため、世界から呪いは消え去った。その呪いがこの部屋ではまだ有効らしい。私達はこれまでに二人の仲間を失っていた。
ドワーフの男の子、戦士はここに来てすぐおねしょをして死んだ。人間の女の子、僧侶はもう我慢できないと呪術師に告げ、直後に失禁して死んだ。二人共もう戻ってこない。そして、朝からずっと排泄を制限されている残りのメンバーにも死の恐怖が近づいていた。
脱出するには呪術師を殺した犯人を告発すればいい。部屋には呪術師が用意した証拠品があり、それを使って推理すれば犯人はわかるらしい。だが、今手元にあるのは正体不明のキノコと魔法の本。これだけでは犯人の特定、告発は難しい。自白により脱出できるというルールもあったが、それも僧侶が自白したときにルールが行使されなかったところを見ると、もう私達に残された手はない。
「さって〜、後三人だね〜。キノコと魔法の本から犯人がわっかるかな〜」
部屋にいる三人とは対照的な調子でゲームを仕掛けた呪術師が語る。答えるものは誰もいない。ただ、武闘家がトントンと足で床を叩く音だけが響いていた。
武闘家は昨夜、戦士とともに多量の酒を飲んでいた。その後、トイレに行くヒマはなかったため、今、彼の膀胱には昨日摂取した酒が、姿を変えてたまっている。普段、格好をつけている彼が尿意をこらえる仕草を隠していないということは、もう限界なのだろう。だが、彼を我慢から救う方法はこの部屋にはない。
「…… なぁ、呪術師ちゃん。さっきの僧侶ちゃんの死に様からすると、自白しても出れないんだろう? 」
武闘家は虚空に問う。その顔はわずかに赤く染まっており、呼吸も乱れていた。
「ちゃんと出れたじゃん。僧侶ちゃん、この部屋にいないでしょ? 」
「そういうことね。あんたは俺達を逃がすつもりはないと。そして、犯人云々関係なく、殺そうとしている」
「それじゃあ私、異常者じゃん。関係ない人を巻き込むなんてしないよ。武闘家ちゃんが無実ならちゃ〜んとお外にでられるよ。む・じ・つ、ならね☆」
呪術師はことさら無実を強調する。武闘家が何も言わないところを見ると、恐らく武闘家も呪術師が死んだ件に関係しているのだろう。ここで魔法使いが武闘家を告発すれば、武闘家はラクになれるかもしれない。それが、彼の望む結末だとは思えないが。
「ちなみにさ。無実の人が漏らしても、呪いは発動するんだよね? 」
「? あたりまえじゃん? 武闘家ちゃん、何を確認してるの? 」
「別にいいだろ。でさ、この部屋に犯人だけが残された場合ってどうなるの? 死ぬまで出られないとか? 」
「う〜ん、その状況は考えてなかったわ…… えっとね〜。よし! 頑張って我慢した犯人をたたえて、最後の一人に残ったら逃がしてあげるよ! 」
「わ〜、私やさし〜! 」と呪術師は自画自賛する。武闘家はその台詞を聞いて「そっか…… 」と小さく答えた後、魔法使いの方に歩み寄る。
「…… 何? なんか用? 」
魔法使いは腹部に右手を添えながら武闘家をジッと睨む。武闘家は、しばし黙った後、絞り出すように言った。
「わりぃんだけどさ。死んでくれ」
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