第28話 試練

翌日、いつものスタジオに向かう途中、ふとした違和感を覚えた。何かが変わったような気がする。街の風景も、行き交う人々も変わらないはずなのに、心の奥に潜む不安が再び顔を出していた。


「今日は何か特別なことがあるのか?」


俺は自分に問いかけながら、スタジオに到着した。しかし、スタジオの前には、普段見かけない数人の女性たちが集まっていた。


「なんだ?ファンか?」


俺たちのチームも徐々に知名度が上がってきた。リナやアリス、ユイといった個性豊かなメンバーたちが人気を集めているのはわかるが、ここまで人が集まることは今までなかった。


「ハルトさん、お疲れさまです!」


スタジオの入り口に着くと、いつも通り明るい声が聞こえた。リナだ。彼女は元気よく手を振り、俺に笑顔を向けていた。しかし、その背後には、見慣れない人物が一人立っていた。


「あれ、あの人は?」


俺はリナに尋ねる。


「新しいメンバーです!突然の加入で、ハルトさんにはまだお知らせしていませんでしたが、彼女は今日から私たちのチームに参加することになりました!」


「新しいメンバー…?」


リナの言葉に驚きつつも、視線をその女性に向けた。彼女は長い黒髪をさらりと肩に流し、少し大人びた雰囲気を持っている。瞳には鋭い輝きがあり、どこか落ち着いたオーラが漂っていた。


「はじめまして、私は椿といいます。これからよろしくお願いします」


彼女は冷静にそう言いながら、俺に向かって軽くお辞儀をした。その姿勢や言葉からは、強い自信が感じられる。


「椿、か。よろしくな。ところで、突然の加入ってどういうことだ?昨日までそんな話は聞いてなかったんだが…」


俺は少し疑問を抱きながらリナに尋ねる。


「実は、上の方から急に決まったんです。彼女は別のチームで活躍していたんですが、私たちのチームに必要な存在だと判断されて、急遽移籍してきたんです」


「別のチームから…?」


俺はますます彼女に対して興味を抱いた。だが、同時に少し複雑な気持ちも湧き上がってくる。今まで積み上げてきたチームのバランスが崩れるのではないかという不安だ。


「大丈夫ですよ、ハルトさん。彼女はすごく優秀で、私たちにとってもきっとプラスになります!」


リナは笑顔でそう言ってくれるが、俺はまだどこか腑に落ちないものを感じていた。しかし、彼女たちがそう言うなら、信じてみるしかないだろう。


リハーサルが始まり、椿も早速チームに加わった。彼女のパフォーマンスは確かに素晴らしかった。リナやアリスとはまた違う大人っぽい魅力があり、視線を惹きつける力を持っている。


だが、同時に彼女の存在がチームに新たな緊張感を生み出しているようにも感じた。リナやアリスも、いつも以上に真剣な表情で取り組んでいる。


「これは、いいことなのかもしれないな」


新しい刺激が加わることで、チーム全体がさらに成長するかもしれない。だが、それと同時に、この変化が大きな試練になる予感もしていた。


リハーサルが終わり、俺たちはスタジオを出た。椿はまだあまり話していないが、彼女のクールな雰囲気が他のメンバーに影響を与えているのは明らかだった。


「ハルト、少し話せる?」


アリスが俺に声をかけた。彼女の表情は普段よりも少し硬く、何かを考えているようだった。


「もちろん。どうした?」


「椿のことなんだけど、私たちも正直、彼女が突然加入するって聞いて驚いたの。でも、リナがすごく前向きだから、私たちも頑張らないとって思ってる。でも、どこかやりづらさも感じてて…」


アリスの言葉には、少し戸惑いが混じっていた。彼女も、リナも、この変化に適応しようとしているが、完全にうまくいっているわけではないのだろう。


「そうか、アリスも不安に思ってたんだな。俺も正直、少し複雑な気持ちがある。でも、椿が実力者であることは間違いないし、これを乗り越えればチームはもっと強くなるはずだ」


「うん…ハルトがそう言ってくれるなら、私も頑張る」


アリスは少しだけ微笑んでくれたが、その笑顔にはまだ迷いが残っていた。


夜、家に帰った俺は、ベッドに横になりながら今日の出来事を振り返っていた。椿の加入は、確かに俺たちにとって大きな変化だ。彼女がチームにどんな影響を与えるのか、まだわからない。


「でも、このままじゃいけないんだろうな」


俺は再び自分の中にある迷いと向き合うことになった。リーダーとして、この変化をどう乗り越えるか。椿をどう受け入れ、チームをさらに強くしていくのか。


「俺がやらなきゃならないことは、きっとここから始まるんだろう」


次の日からは、さらに大きな試練が俺たちを待っている予感がしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る