第27話 迷いと決断

翌日、俺はいつものようにスタジオに向かっていた。しかし、今日はいつもとは違う感覚があった。リナの成長を感じた昨日のリハーサルがあまりにも印象深く、今後のライブがどのように進化するのか、期待と不安が入り混じっていた。


「おはようございます、ハルトさん!」


スタジオに着くと、リナが元気に挨拶してくれた。昨日のリハーサル後も、彼女の自信はさらに深まっているように見える。笑顔が自然で、目には輝きがあった。


「おはよう、リナ。今日も気合入ってるな」


「もちろんです!今日もまた全力で頑張ります!」


その元気に満ちた声を聞いて、俺も少し笑ってしまった。リナの成長を実感するたび、俺自身もどこか誇らしい気持ちになる。だが、同時に心の奥底で小さな不安が揺れていることに気づいた。


リハーサルが始まると、いつものように順調に進んでいった。リナは引き続き指揮をとり、アリスやユイ、他のメンバーも彼女に従っている。チーム全体が一つにまとまっていることが感じられた。


しかし、俺の心の中には違和感が残り続けていた。


「このままで本当にいいのか…?」


リナに任せることで、確かにチームはうまく回っている。彼女がリーダーシップを発揮することで、メンバーたちも自分の役割に集中できている。だが、俺が本当にこのチームに必要とされているのか、その疑問が頭をもたげてきた。


「ハルトさん、大丈夫ですか?」


突然、リナの声に現実に引き戻された。どうやら俺の様子がいつもと違ったらしい。


「あ、ああ、すまん。ちょっと考え事してた」


「何か悩み事でもあるんですか?」


リナが心配そうに顔を覗き込む。彼女の真剣な表情を見て、俺は少しだけ言葉を選んだ。


「いや、大したことじゃない。ちょっと自分がこのチームにどう貢献できるか、考えてただけだよ」


「ハルトさんがいないと、このチームはうまくいきませんよ」


リナは力強くそう言った。その言葉に救われた気がしたが、同時に俺は少し戸惑っていた。


「本当に俺が必要なのか…?」


リハーサルが終わると、俺は少し気分転換をするために外に出た。スタジオの裏手にある公園に腰を下ろし、深呼吸をしてみる。


「何を迷ってるんだ、俺は…」


リナが言ってくれた言葉を信じるべきなのに、どこか自分自身に自信が持てない。彼女たちの成長が目覚ましく、俺の役割が少しずつ薄れていくように感じていた。


その時、背後から誰かが近づいてくる気配がした。振り返ると、アリスが立っていた。


「ハルト、どうしたの?さっきから少し元気がないように見えたけど」


アリスは、俺の様子に気づいていたらしい。彼女は普段明るく振る舞うが、鋭いところがある。


「少し考え事をしていただけだ。心配させて悪いな」


「考え事ね…でも、何かあったんでしょ?」


アリスは俺の隣に腰を下ろし、じっと俺の顔を見つめてきた。その目は真剣で、逃げられない。


「実は、最近自分の役割が少し曖昧に感じててな。リナがうまくやってくれてるし、俺がいなくてもいいんじゃないかって思う時があるんだ」


俺は正直に言葉を吐き出した。ずっと胸の中で渦巻いていた不安を、アリスには隠さずに伝えた。


「そんなことないよ。ハルトがいなければ、リナだってここまで成長できなかったはずだし、私たちもこんなにまとまってないと思う」


アリスの言葉は意外と力強かった。その表情も、嘘偽りないものだった。


「ハルトがいるからこそ、私たちは安心してパフォーマンスに集中できるの。だから、もっと自信持っていいと思うよ」


彼女の言葉に、少しだけ心が軽くなった気がした。


「ありがとう、アリス。そう言ってもらえると少し楽になる」


「うん、いつでも私たちを頼ってよ」


アリスは微笑みながら立ち上がり、俺に手を差し伸べた。俺はその手を取り、立ち上がった。


スタジオに戻ると、他のメンバーもリハーサルを終えて解散するところだった。俺は彼女たちの笑顔を見て、改めて思った。


「やっぱり、俺がやるべきことは彼女たちを支えることだ」


リナやアリス、そしてチームの全員が信頼を寄せてくれている限り、俺は迷わずに進んでいけるはずだ。自分自身の役割をしっかりと見据え、リーダーとして成長する必要がある。


「よし、明日も頑張ろう」


心の中にわだかまりがあったが、今は少しだけ解消された気がした。俺はもう一度、彼女たちと一緒に最高のライブを作り上げることを心に誓った。

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