第24話 リナの挑戦と試練

リナがプロジェクトに加わってから数週間が経過し、俺たちは一緒に新曲を作りながら、次のライブに向けて準備を進めていた。リナの歌声は本当に素晴らしく、彼女の独特な表現力はチームに新たな風を吹き込んでいた。しかし、その一方で、彼女はまだ自信を持てない様子だった。


ある日、俺たちはスタジオに集まり、リハーサルを行っていた。アリスとユイが和やかに談笑している間、リナは少し離れた場所で、黙々と練習に取り組んでいた。その真剣な姿に俺は声をかけようか迷ったが、彼女の集中を邪魔するのも悪いと思い、そのまま見守ることにした。


リハーサル後、アリスがリナに声をかけた。


「リナ、少し話してもいい?」


「はい、どうしましたか?」リナは少し驚いた様子でアリスを見た。


「最近、あなたが一生懸命頑張ってるのは分かる。でも、無理しすぎてない?」


アリスの言葉に、リナは一瞬戸惑った様子を見せた。彼女の顔に浮かんだのは、焦りと不安が入り混じった表情だった。


「無理なんてしてないです。ただ、私、もっと皆さんに追いつきたくて…」


リナは少しうつむきながら答えた。彼女のその言葉には、自分がチームの足を引っ張っているというプレッシャーが込められていた。


「追いつく必要なんてないよ。リナはリナなりのペースでいいんだよ」


アリスの優しい言葉に、リナは少しだけほっとしたように見えたが、まだ何かが引っかかっているようだった。俺はそんな彼女に声をかけた。


「リナ、焦らなくていい。俺たちも最初は全部がうまくいってたわけじゃないし、失敗して学んできたんだ。だから、一緒に頑張ろう」


俺の言葉にリナは小さく頷いたものの、その表情にはまだ不安が残っていた。


その日の夜、俺はふとリナのことが気になり、彼女にメッセージを送った。


「今日はありがとう。無理しないで、俺たちと一緒に少しずつ進んでいこうね」


少ししてリナからの返信が届いた。


「ありがとうございます、ハルトさん。実は、私、皆さんに追いつかないとってずっと焦ってました。でも、ハルトさんやアリスさんの言葉で少し楽になりました。これからもよろしくお願いします」


彼女のメッセージを読み、俺は少し安心した。リナは一生懸命な分、プレッシャーも大きいんだろう。これから一緒に成長していくためにも、俺たちは彼女を支えていかなければならないと改めて感じた。


数日後、次のライブが迫ってきた。リナも本番に向けて徐々に自信を取り戻しつつあったが、やはり不安は完全には消えなかったようだ。そんな彼女にとって初めての大舞台――ライブの当日がやってきた。


会場に到着すると、観客席にはすでに多くのファンが集まっていた。リナは舞台袖で緊張した様子を隠しきれず、そわそわと落ち着かない。俺はそんな彼女の背中に軽く手を置いて励ました。


「大丈夫だよ、リナ。君ならやれる。みんなが君の歌を楽しみにしてるんだから」


「…ありがとうございます。でも、やっぱり不安です」


リナは弱々しく微笑みながらも、目には決意が宿っていた。


ライブが始まると、観客たちの歓声が会場を包んだ。アリス、ユイ、そして俺たちは、これまでの準備の成果を発揮し、順調にステージを進めていた。そして、リナのソロパートの時間が訪れた。


リナがステージの中央に立ち、スポットライトに照らされると、会場が静寂に包まれた。緊張が彼女の表情に浮かび上がり、マイクを握る手が少し震えているのが見えた。しかし、その瞬間、リナは深く息を吸い込んで、瞳を閉じた。


そして、彼女の歌声が会場に響き渡った。


リナの歌声は、まるで彼女のすべての感情が詰まったかのように、力強く、美しかった。その声に観客たちは心を奪われ、ステージの彼女に見入っていた。俺たちもまた、リナの成長と挑戦に心から感動していた。


歌い終わった後、会場には大きな拍手と歓声が鳴り響いた。リナは驚いたような表情を見せながらも、少しずつ笑顔を取り戻していた。


「リナ、すごかったよ!」アリスが嬉しそうに声をかけると、リナは少し照れくさそうに頬を赤らめた。


「本当に…ありがとう。皆さんのおかげでここまで来られました」


リナは涙をこらえるようにしながら、俺たちに感謝の気持ちを伝えた。その姿に、俺たちもまた、彼女が新たな仲間として成長してくれたことを実感した。


ライブが終わった後、リナは俺にそっと近づいてきた。


「ハルトさん、私、もっともっと頑張ります。皆さんに追いつくんじゃなくて、自分らしく成長したいです」


「それでいいんだよ、リナ。君のペースで、君らしく進んでいこう」

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