第23話 新しい風

俺たちのプロジェクトがさらに進展し、アリスとユイとの絆も深まってきた。そのおかげで、次のイベントに向けた準備も順調に進んでいる。これまでのライブ活動に加え、トークイベントという新しい試みがファンにとっても新鮮なものになるだろうという確信があった。


そんなある日、俺はアリスから一本の電話を受けた。


「ハルト、ちょっと相談したいことがあるんだけど、時間ある?」


「うん、大丈夫だよ。どうした?」


「実はね、新しい仲間をプロジェクトに加えることを考えてるの。ちょっと意外な人なんだけど、話を聞いてみてほしいの」


「新しい仲間?」


俺は少し驚きながらも、興味をそそられた。アリスが新しいメンバーを提案するなんて、よほどのことがない限りありえない。彼女は慎重で、プロジェクトに対するこだわりも強いから、誰かを簡単に入れるということはないはずだ。


「彼女、前から私たちの活動に興味を持ってたみたいでね。それに、音楽の才能もあるんだけど、まだ誰かと一緒にやる機会がなかったみたいなの。ユイちゃんと同じくらいの年齢で、きっといい刺激になると思うんだ」


アリスの言葉に、俺は少しだけ不安を覚えた。今のチームは俺、アリス、ユイというバランスで進んでいる。この流れが崩れることはないのか――。


だが、その一方で、新しい風が入ることで、プロジェクトがさらに成長する可能性も感じていた。


「分かった、彼女に会ってみようか。いつが都合いい?」


「今日の夜に、カフェで会えるけど大丈夫かな?」


「もちろん」


その夜、指定されたカフェに到着すると、アリスが一人で待っていた。まだ新しいメンバーは来ていないようだ。


「遅れてないか?」と俺が問いかけると、アリスはにこやかに首を振った。


「大丈夫、彼女もすぐに来ると思うよ」


俺たちはそのまましばらくカフェで雑談をしながら待っていた。アリスとの会話は自然と最近のプロジェクトの進行具合についての話題になり、新しい仲間が加わることでどんな変化が起きるのか、そんな期待も高まっていった。


すると、カフェのドアが開き、女性が一人入ってきた。


「あ、来た来た!」アリスが嬉しそうに手を振る。


俺はその方向を振り向いた。入ってきたのは、肩までの黒髪を持つ、整った顔立ちの少女だった。少し緊張した表情で、こちらに向かって歩いてくる。


「紹介するね。彼女はリナ。今まで一人で活動していたけど、私たちのプロジェクトに参加してみたいって言ってくれたの」


「はじめまして、リナです。よろしくお願いします」


リナは少し照れくさそうに頭を下げた。彼女はどこか芯の強さを感じさせる雰囲気を持っていたが、それと同時に、まだまだ自信が足りないようにも見えた。


「こちらこそ、ハルトだ。アリスから君のことは聞いてたよ」


「ありがとうございます。でも、私なんかが本当にお役に立てるのか不安で…」


リナの言葉には謙虚さと同時に、挑戦したいという意欲が見え隠れしていた。


「そんなことないよ。俺たちも最初は全然うまくいかなかったし、失敗ばかりだった。でも、挑戦することで少しずつ前に進めるようになったんだ。君も一緒に頑張ろうよ」


俺がそう励ますと、リナの表情が少し和らいだ。


「ありがとうございます…私、頑張ってみます!」


リナを加えた俺たちのプロジェクトは、これまで以上に活気づき始めた。彼女の参加により、音楽の幅も広がり、トークイベントやライブの企画もさらに進展した。特にリナの歌声はユイとは異なる個性を持っており、それが新たな魅力となって俺たちの音楽に加わっていく。


その夜、アリスとリナと別れて家に戻った俺は、スマホを手に取り、メモを開いた。これからの活動に向けて、どんな音楽を作り、どんなイベントを開催するべきか、アイデアが次々と浮かんでくる。


翌朝、俺はリナからのメッセージを受け取った。


「昨日はありがとうございました。まだまだ未熟ですが、皆さんの力になれるよう頑張ります!」


彼女のメッセージには決意が感じられた。これからのプロジェクトがどう展開していくのか、俺は楽しみで仕方がなかった。新たな仲間との出会いが、俺たちの未来をどう変えていくのか――それはこれからの時間が教えてくれるだろう。


俺はスマホをポケットにしまい、深呼吸を一つして外へと歩き出した。新しい仲間、新しい風、そして新しい挑戦が、俺たちを待っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る