第21話 挑戦の兆し
翌朝、目覚めると、頭の中にアリスとの会話がぐるぐると回っていた。音楽以外にも何かを始めるというアイデア。トークイベントやファンとの交流会という発想は、新しい挑戦として確かに魅力的だった。
「まずは何から始めるかだよな…」
俺はベッドから起き上がり、スマホを手に取ってアリスにメッセージを送った。
「昨日の話、少し具体的に進めてみようか。何かアイデアがあれば教えて」
すぐに返信が来るかと思ったが、意外とアリスからの返事は遅かった。考え込んでいるのか、それとも忙しいのか。そんなことを思いながら、俺は気分転換に外に出ることにした。
外に出ると、町の空気が心地よく、俺の考えも少しずつまとまってきた。アリスが提案してくれたイベント企画は、これまでと違った形でファンとの繋がりを深められる良いチャンスだ。だが、それだけではない。新たな刺激を求める俺にとって、この企画は自分自身の成長にもつながるはずだ。
商店街を歩いていると、前回訪れたカフェの前を通り過ぎた。ふと、ユイのことを思い出す。彼女との出会いもまた、何かの縁だったのかもしれない。音楽に対する彼女の情熱は本物だったし、彼女が加われば、俺たちのプロジェクトにも新しい風が吹くかもしれない。
その時、ふとスマホが鳴った。アリスからの返信だ。
「ごめん、ちょっと考えてたの。でも、ユイちゃんを巻き込むの、やっぱりいいかもね! もし彼女が乗り気なら、少し手伝ってもらう形でスタートできると思う。あと、トークイベントのアイデアも少し考えたから、また後で話そう!」
ユイを巻き込むという考えは、アリスも同じだったようだ。俺は自然と笑みを浮かべ、再びカフェに立ち寄ることにした。
カフェのドアを開けると、静かで心地よい空間が広がっていた。客は少なく、ユイは窓際の席で一人、カウンターに立っている。
「おかえりなさい。今日はまた何を頼まれますか?」
ユイが微笑みながら声をかけてくる。前回のライブの話題で少し打ち解けたせいか、彼女の表情には柔らかさが増しているように見えた。
「実は、君にちょっと相談があってさ。もし時間があるなら、少し話せる?」
俺がそう持ちかけると、彼女は一瞬驚いたようだったが、すぐに頷いた。
「もちろん、どうぞ。ちょうど休憩時間に入るので、少しならお話できますよ」
彼女が席に着くと、俺はアリスとの計画や、彼女を巻き込んでみたいという話をした。ユイは真剣に話を聞いてくれていた。
「音楽に関わる仕事、ずっと興味があったんです。でも、こんなに早くチャンスが来るなんて思っていなかったので…」
彼女は少し迷っているように見えた。しかし、その瞳には確かな情熱が宿っていた。
「無理にとは言わないよ。君が本当にやりたいと思った時に、一緒に何かを作れればそれでいい」
俺はそう付け加えると、ユイは安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます。もう少しだけ考えてみます。でも、私、きっとやってみたいって思うと思います」
彼女の言葉に、俺は心の中でほっとした。新しい仲間を迎え入れることは、きっと俺たちにとって大きなプラスになるだろう。
その日の夜、アリスと再びメッセージのやり取りを始めた。彼女も新しいアイデアを色々と考えてくれていたようで、次の計画は具体的に進み始めている。
「トークイベントの件だけど、私たちが一緒にステージに立ってファンと直接やり取りする場を設けるってどう?ライブとはまた違った形で、もっとカジュアルに話せる時間を作るのもいいと思うの」
アリスの提案は実に的を射ていた。ファンとの交流が深まることで、彼らが俺たちをもっと身近に感じてくれるだろうし、逆に俺たちもファンの声を直接聞ける機会になる。俺たちの活動を支えてくれる彼らの思いを知ることは、今後の活動にとって重要だ。
「いい考えだな。それなら、会場はどこにする?」
「うん、そこはまだ調整中なんだけど、ライブハウスじゃなくて、もっとリラックスしたカフェとかでもいいかもね。少人数で、ファンと距離を縮めるのが目的だから」
アリスの言葉に頷きながら、俺は次の一歩がどうなるのか期待で胸を膨らませていた。
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