第20話 新たな日常
数日が経ち、俺たちのライブの成功は次第に日常の一部となりつつあった。SNSでの反応も落ち着きを見せ、少しずつ俺たちの生活は通常のペースを取り戻していた。しかし、ライブでの興奮が冷めると、俺は再び一人の時間が増えてきた。
家にこもることが多くなった俺は、以前のように配信をしようと考えていたが、最近はそれにも熱が入らない。何か新しい刺激が欲しい、そう思いながらも、何も思いつかないまま日々を過ごしていた。
そんなある日、アリスから一通のメッセージが届いた。
「ハルトくん、少し外に出てみない?いい気分転換になるかも」
彼女の提案に乗ることにした俺は、久しぶりに外出することにした。普段は家で過ごすことが多い俺にとって、外の空気を吸うのは新鮮だった。
待ち合わせ場所に向かう途中、商店街を歩いていると、ふと目に留まったのは、小さなカフェの看板だった。「新作スイーツ、期間限定」という文字が目に飛び込んできた。アリスとはまだ時間があるし、少し寄ってみようかなと思い、そのカフェに足を向けた。
中に入ると、可愛らしい内装と落ち着いた雰囲気が心地よかった。窓際の席に座り、メニューを手に取ると、店員さんが近づいてきた。
「ご注文はお決まりですか?」
優しい笑顔で聞いてくれた彼女は、どこか親しみやすい雰囲気を持っていた。俺はメニューを眺めながら「おすすめのスイーツをお願いします」と頼んだ。
少し待っていると、運ばれてきたのは、クリームがたっぷりと乗ったベリータルト。色鮮やかなベリーの酸味と、甘いクリームが絶妙にマッチしている一品だ。
「どうぞ、楽しんでください」
店員さんがにこやかに声をかけてくれた瞬間、ふと彼女の顔に見覚えがあることに気づいた。どこかで会ったことがあるような…。
「もしかして…君、ライブに来てた?」
俺がそう尋ねると、彼女は一瞬驚いた表情を浮かべ、すぐに照れ笑いを浮かべた。
「はい、実はファンなんです。先日のライブ、すごく素敵でした!」
彼女の言葉に、俺は少し驚いた。まさかこんな場所でファンと出会うとは思わなかったし、何よりも彼女がこのカフェで働いているとは夢にも思わなかった。
「ありがとう。気に入ってくれて嬉しいよ」
俺がそう答えると、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。しばらく会話をしていると、彼女の名前が「ユイ」であることがわかった。ユイはカフェでバイトをしながら、音楽にも興味があるとのことだった。
「実は、私も音楽が好きで、いつか自分でも何か演奏してみたいなって思ってるんです。でも、まだ勇気がなくて…」
ユイの話を聞きながら、俺は彼女の熱意に共感を覚えた。俺も最初は同じように音楽に対して不安を抱えていたし、始める勇気を持つのは簡単なことではないと知っていた。
「音楽って、やり始めると楽しいよ。最初はみんな怖いけど、少しずつ自分のペースで進めばいいんだ」
俺はそうアドバイスしながら、彼女の夢を応援したい気持ちが湧いてきた。
アリスとの待ち合わせ場所に到着すると、彼女はすでに到着しており、俺が遅れたことに少し笑いながら、「何か面白いことでもあった?」と尋ねてきた。俺は先ほどのカフェでの出来事を彼女に話すと、アリスは興味深そうに聞いてくれた。
「その子、ユイちゃんって言うんだね。音楽に興味があるなら、もしかして次のプロジェクトに関わってもらえるかも?」
アリスの提案に驚きつつも、確かにユイのような新しい風を取り入れることは、俺たちにとってもいいかもしれないと思った。彼女がどんな音楽を作り出すのか、一緒に演奏できる日が来たら楽しそうだ。
「そうだな、ユイがやりたいって言うなら、手伝ってもらうのもありかもしれない」
俺はそう答えたが、まだユイ自身が本気で音楽に踏み込む覚悟を持っているかどうかはわからない。それでも、彼女に勇気を与える手助けができれば、それは俺にとっても意味のあることだと思った。
その後、アリスと軽くランチを済ませながら、今後の計画について話し合った。次のステージだけではなく、今後の展開をどうしていくか、そして音楽以外でどんな活動をしていけるかを考えていた。
「ねえ、ハルトくん。音楽以外にも、少し違うことやってみない?」
アリスが突然そう提案してきた。俺は一瞬戸惑ったが、彼女の目は真剣だった。
「違うことって、具体的には何を考えてるの?」
俺が尋ねると、アリスは少し考え込んでから答えた。
「例えば、イベント企画とか?最近、ライブ以外にもトークイベントとかも人気だし、私たちのファンとの交流の場をもっと増やしたいなって思ってるんだ」
アリスの考えは、新しい挑戦の一つだった。確かに、ライブだけではなく、ファンとの接点を増やすことで、もっと広がりが生まれるかもしれない。
「なるほど…それも面白そうだな。俺たちのことをもっと知ってもらうチャンスになるかも」
俺もそのアイデアに賛成し、今後の活動の幅を広げることを考えるようになった。音楽だけにこだわらず、もっと自由に活動を展開していければ、俺たちの可能性は無限大に広がるはずだ。
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