第18話 ライブ当日
ついにライブ当日がやってきた。朝から緊張で胸が高鳴り、何をするにも手が震える。目覚めた瞬間からずっとライブのことしか考えられなかった。アリスとの初めてのプロとしてのステージだ。失敗したくない、けど不安が押し寄せてくる。
「ハルト、大丈夫か?顔色悪いぞ」
母さんが俺を心配して声をかけてきた。普段は気楽に構えているけど、今日はさすがに隠しきれない。
「うん…大丈夫、なんとか」
「緊張するのは当たり前だよ。でもね、準備してきたことを信じて、あとは楽しんでくればいいさ」
母さんの優しい言葉に少しだけ肩の力が抜けた。俺は気を取り直して、準備を整え、家を出た。
会場に着くと、すでに準備が進んでいて、スタッフや他の出演者たちが忙しそうに動き回っている。楽屋に案内され、そこでアリスと合流した。
「ハルトくん!」
アリスは元気よく駆け寄ってきたが、彼女もどこか緊張しているのが見て取れる。笑顔の裏に不安が隠れているのは、俺と同じだ。
「アリス、準備は大丈夫?」
「うん、だけど…やっぱりちょっと緊張してる」
アリスは微笑みながらも少し震えているようだった。俺たち二人、やはり同じ思いを共有しているんだなと感じた。
「俺たち、ここまで一緒に頑張ってきたじゃん。きっと上手くいくよ。アリスと一緒なら、大丈夫だ」
俺は自分にも言い聞かせるように、アリスに声をかけた。
「そうだよね、ハルトくんがいれば、きっと大丈夫だよ!」
アリスの言葉に俺も勇気をもらい、気持ちを切り替えた。
リハーサルが始まり、ステージの音響や照明の確認が行われる。ステージに立つと、想像以上の大きさに驚いた。広いホールには観客席がずらりと並び、その一つひとつが今夜は満席になる予定だ。
「すごい…これがプロのステージか」
アリスも目を見張っている。今まで学校の音楽祭や小さなイベントでしか演奏したことがなかった俺たちにとって、この舞台は圧倒的な存在感だった。
リハーサル中、スタッフは細かい調整をし、音響や照明の最終確認をしていた。アリスと俺は何度も息を合わせながら演奏し、少しでも本番に備えた。この大舞台に立てるという感覚が、次第に俺たちの不安を勇気に変えていくのを感じた。
リハーサルが無事に終わり、俺たちは楽屋に戻った。出演者同士での挨拶や打ち合わせが行われ、ライブが始まるまでの時間が迫ってきた。心臓がバクバクと音を立て、緊張がピークに達していた。
「ハルトくん、準備はいい?」
アリスが隣で声をかけてくる。俺は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「…うん、行こう」
ステージの袖で待つ時間が、今までで一番長く感じた。そして、アナウンスが響き渡る。
「次のアーティストは、新人デュオ、ハルトとアリス!」
名前が呼ばれ、観客が歓声を上げる。その瞬間、俺たちはステージに足を踏み出した。
スポットライトが眩しく照らされ、目の前には無数の観客の顔が広がっていた。足がすくむかと思ったが、不思議と一歩を踏み出すことができた。アリスと視線を合わせ、ギターを構える。
「行くぞ、アリス」
「うん、やってみよう!」
演奏が始まると、緊張が少しずつ溶けていくのを感じた。俺たちのオリジナル曲『始まりの音色』が、ホール中に響き渡る。アリスの澄んだ歌声と、俺のギターが一つに溶け合い、音楽が生まれる瞬間を実感していた。
観客たちも静かに耳を傾け、曲に聞き入ってくれている。その空間が、まるで俺たちだけの世界になったかのように感じられた。
アリスの声は力強く、そして繊細で、彼女の思いが伝わってくる。俺も負けじとギターを弾き、二人で作り上げたこの曲に全力を注いだ。
曲が終わると、会場は一瞬静まり返った。俺たちはお互いを見つめ合い、息を整えた。そして――
「わああああ!」
観客からの大歓声が沸き起こった。その瞬間、全身に鳥肌が立ち、今までの苦労が一瞬で報われた気がした。アリスも涙を浮かべながら笑っている。
「ハルトくん…やったよ!大成功だよ!」
俺はその言葉に頷き、観客に向かって深くお辞儀をした。
楽屋に戻ると、アリスはその場に座り込み、大きく息を吐き出した。
「ふう…本当に緊張したけど、楽しかった!」
俺も同じように床に座り込む。あのステージの感覚がまだ身体に残っている。
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