第16話 新たなステップ
アリスとの放課後の会話から数日が経った。俺自身も音楽に対する情熱がますます強くなり、学校の授業が終わるとギターを抱えて自宅にこもる日々が続いていた。いつかアリスと一緒に再び演奏するために、少しでも自分の技術を磨いておきたかった。
その日の放課後、家に帰ると、リビングに見慣れない人影があった。母親と話しているのは、30代くらいの女性で、彼女が持っている書類からして何か重要な話をしているようだった。
「ハルト、帰ってきたのね。ちょうど良かったわ。」
母さんは俺に気づくと、笑顔で手招きして俺を呼んだ。
「こんにちは、ハルトくん。私、音楽プロデューサーをしている西園寺と言います。」
「音楽プロデューサー…?」
一瞬、言葉の意味が飲み込めず、俺は少し驚いた表情を浮かべた。
「実はね、ハルト。あなたの学校で行われた音楽祭、覚えてる?その時の演奏が、ある人の目に留まってね。それで、今こうしてプロデューサーの方と繋がりができたのよ。」
「えっ、そんなことが…?」
思い出すのは、アリスと一緒に演奏したあの音楽祭。確かに、観客の反応は上々だったし、俺たちも楽しんで演奏できた。でもまさか、それがプロデューサーの目に留まるなんて夢にも思わなかった。
「西園寺さんが言っていたのは、その時のパフォーマンスのことなんだよね?」
「そうです。特にあなたとアリスさんのハーモニーが印象的で、将来性を感じました。もしよかったら、あなたたちに少し手を貸して、さらに音楽の世界で活躍できるようサポートしたいと思っています。」
「俺たちが…?音楽の世界で?」
頭が追いつかない。突然現れたチャンスに、心が躍る反面、プレッシャーも感じていた。
「もちろん、急に決めるのは難しいでしょうけど、アリスさんにもこの話をしてみてください。彼女もきっと興味を持つはずです。詳しい話はまた改めてさせてもらいますが、少しでも音楽に対する情熱があるなら、ぜひ一緒に進んでみませんか?」
俺は一瞬言葉を失ったが、次第にその提案に興味が湧いてきた。音楽は俺にとって大きな意味を持つものだし、アリスと一緒にもっと本格的に取り組むチャンスがあるなら、逃す手はないと思った。
「わかりました。まずはアリスにも話してみます。」
「ありがとうございます。もし興味があれば、いつでも連絡してください。次のステップを踏む準備ができているなら、私も全力でサポートします。」
西園寺さんは微笑みながら名刺を差し出してきた。俺はその名刺を慎重に受け取り、心の中で何かが動き出すのを感じた。
次の日、学校に行くとアリスがいつものように元気に俺に駆け寄ってきた。俺はすぐに昨日の出来事を話すべきか迷ったが、彼女の音楽への情熱を思い出し、話すことに決めた。
「アリス、ちょっと話があるんだけど…放課後に少し時間取れる?」
「ん?何かあったの?」
「昨日、ちょっと驚くようなことがあってさ。アリスにも関係がある話なんだ。」
「え、なにそれ?めっちゃ気になる!」
彼女は目を輝かせながら興味津々で聞き返してきた。俺は彼女の反応に苦笑しながら、「放課後に詳しく話すよ」とだけ言って、授業に戻った。
放課後、俺たちは再び学校の裏庭で待ち合わせた。前回の話し合いと同じ場所で、今度は新たな展開について話すためだ。アリスは少しそわそわしながら俺の話を待っている。
「で、何の話なの?早く教えてよ!」
アリスは待ちきれない様子で俺を急かす。俺はそんな彼女に少し笑いながら、ゆっくりと話し始めた。
「昨日、家に帰ったらプロデューサーの人が来てたんだ。西園寺さんっていう人で、俺たちの音楽祭の演奏を見てくれてたみたいでさ…」
「えっ!?プロデューサー!?それ本当なの!?」
アリスの反応は俺が想像していた以上に大きかった。彼女は目を大きく見開き、信じられないというような表情を浮かべている。
「本当だよ。その人が俺たちの演奏を気に入ってくれて、もっと本格的に音楽活動をサポートしたいって言ってくれたんだ。」
「すごい…そんなことが現実にあるんだ…」
アリスはしばらく言葉を失っていたが、次第にその目が輝きを取り戻してきた。
「それで、どうするの?」
「アリスにも話してみてって言われたんだけど、どう思う?俺はこのチャンスを逃したくないと思ってる。もしアリスが一緒にやりたいなら、俺も全力でサポートするよ。」
アリスは少し考え込んでいたが、やがて微笑んで答えた。
「私も…やってみたい!ハルトくんと一緒に音楽を続けられるなら、絶対に楽しいはずだし、夢みたいな話だよね!」
彼女の言葉に俺も安心した。そして、新たなステップを踏み出すことを二人で決意した。
「じゃあ、やってみようか。俺たちで、音楽の世界に挑戦してみよう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます