第15話 アリスの決意

次の日の朝、学校の廊下でアリスに会った。彼女はいつもと変わらず元気で、明るく笑顔を浮かべていたが、昨日の出来事が頭に浮かび、どこか違和感が残っていた。彼女が「自分らしいことを見つけたい」と言っていたことが心に引っかかっていたのだ。


「おはよう、ハルトくん!」


アリスは元気いっぱいに手を振りながら駆け寄ってきた。俺はその姿にホッとしながらも、どこか探りを入れるように問いかけた。


「おはよう、アリスさん。昨日の話、もう何か考えついた?」


彼女は少し驚いた様子を見せたが、すぐに真剣な表情に戻った。


「実はね、少しずつだけど、自分が本当にやりたいことがわかってきた気がするの。だから、今日の放課後にその話を聞いてほしいんだ。」


「もちろん聞くよ。なんだか大事な話みたいだね。」


「うん、大事な話。これからのことに関わるから、私にとってはすごく重要なんだ。」


アリスの真剣な眼差しに、俺も自然と身構えた。彼女が決意を持っているなら、俺も全力でその道を応援したいと思った。


放課後、アリスと俺は学校の裏庭で待ち合わせた。そこは普段人通りが少なく、静かに話ができる場所だった。夕暮れのオレンジ色の光が木々の間から差し込み、辺りを静かに包んでいた。


アリスはベンチに座り、少し緊張した様子で話し始めた。


「ハルトくん、私ね、もっと本気で音楽をやりたいって思ってるの。」


「音楽を本気で?今でも十分すごいと思うけど、さらにってこと?」


「うん。これまでずっと趣味で音楽をやってたんだけど、この前の音楽祭でハルトくんと一緒に演奏したとき、改めて私は音楽が大好きだって気づいたんだ。それでね、自分の音楽を作りたいって、そう思うようになったの。」


アリスの言葉には、彼女の強い思いが込められていた。音楽祭での体験が、彼女の心に大きな変化をもたらしたのだろう。その思いを聞いて、俺も心から彼女を応援したいと思った。


「すごいじゃないか!自分の音楽を作りたいなんて、とても素敵な夢だよ。」


「ありがとう、ハルトくん。でも、正直なところ、少し不安もあるんだ。私にそんなことが本当にできるのかなって…」


アリスは視線を下に落とし、不安そうに呟いた。


「アリスさんならできるよ。俺が保証する。音楽祭の時も、君の歌声はみんなを引き込んでたし、俺もあの時の演奏はすごく楽しかった。だから、自信を持っていいと思う。」


俺の言葉に、アリスは少しだけ顔を上げて、はにかむような微笑みを見せた。


「ありがとう、ハルトくん。そう言ってもらえると、少しだけ自信が湧いてくる気がする。」


「俺もこれから音楽の道をもっと深く学んでいきたいと思ってる。だから、アリスさんが頑張っているなら、俺も一緒に頑張るよ。一緒に成長していこう!」


「うん、そうだね!お互いに頑張ろう!」


アリスの笑顔が戻り、彼女の目には新たな決意が見えた。彼女が夢を追いかける姿勢に、俺もますます応援したくなる気持ちが強まった。


その帰り道、アリスと別れて一人歩きながら、俺は自分の未来について考えていた。彼女が自分の夢を見つけたように、俺ももっと音楽に打ち込みたいという気持ちが日々強くなっていた。音楽祭での経験が俺の中でも何かを変えたのかもしれない。


「俺も、頑張らないとな…」


そう心の中で呟きながら、俺は自分の道を真剣に考え始めた。アリスが自分の夢を叶えるために努力しているなら、俺も負けずに自分の音楽の道を突き進むべきだ。


その夜、家に戻った俺は机に向かい、ギターを手に取った。何となく指が自然に動き、コードを押さえ、弦を弾き始める。アリスの言葉が頭の中で響いていた。


「自分の音楽を作りたい…か。」


その言葉に触発されて、俺も何かを創りたくなってきた。音楽の力はすごい。たった一つのメロディが、こんなにも人の心を動かすことができるのだ。俺は今まで、ただ好きで音楽を楽しんできたけれど、それだけじゃ満足できなくなっている自分に気づいた。


「俺も、アリスに負けてられないな。」


思わず口に出していた。


ギターの弦を何度も弾き直し、頭の中で新しいメロディを模索しながら、俺は自分なりの音楽を形にしようとする。そして、いつかアリスと一緒に再び演奏できる日を楽しみにしていた。


翌日、再び学校でアリスに会った。彼女は昨日よりもさらに明るい表情をしていた。新たな決意を胸に抱いているのだろう。


「ハルトくん、また少しだけど自分の夢に近づけそうな気がしてきたよ!」


「それは良かった。俺も負けないように頑張るからさ、お互い支え合っていこうな。」


「うん、ありがとう、ハルトくん!」


アリスは笑顔で答え、俺も自然と笑みがこぼれた。

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