第14話 予想外の再会
音楽祭が終わってから数日が経った。俺は部活動の疲れも取れ、いつも通りの学校生活に戻りつつあった。しかし、あの日の充実感はまだ胸に残っている。あの舞台で演奏した瞬間、今まで感じたことのない特別な感情が生まれたことを思い出すと、自然と微笑みがこぼれてしまう。
「ハルトくん、今日の放課後、ちょっと話せる?」
アリスが放課後の教室で、控えめに声をかけてきた。彼女とは音楽祭の後もよく話すようになり、すっかり打ち解けていた。だが、今日の彼女はいつもより少し緊張しているように見える。
「もちろん。どうしたの?」
「うん、実は音楽祭の時に、ある人がハルトくんの演奏をすごく気に入ってくれたの。だから、その人に会ってもらえないかなって思って。」
「誰なんだ?俺の演奏を気に入ってくれた人なんているのか?」
驚きつつも、誰がそんなことを言ってくれたのか気になった。音楽祭は確かに成功したけれど、まさか個人的に褒めてもらえるなんて思ってもいなかった。
「その人、今学校の外にいるんだけど、紹介してもいい?」
アリスの言葉に、俺は少し戸惑ったが、興味も湧いてきた。
「わかった。行ってみよう。」
俺たちは一緒に学校を出て、外に向かって歩き出した。アリスが連れていく先には、どんな人が待っているのだろうか。気になる気持ちが次第に高まっていった。
学校の門を出てしばらく歩くと、見覚えのある人影が遠くに見えた。そこに立っていたのは、ミユキだった。彼女は大人びた雰囲気をまとい、いつも通り落ち着いた表情で俺たちに向かって微笑んでいた。
「ミユキさん…?」
「ハルトくん、久しぶりね。元気そうで何よりです。」
ミユキは優雅に微笑みながら、俺の方に一歩近づいてきた。音楽祭での演奏の時に少し会話しただけだが、彼女の存在感はやはり強い。
「ミユキさんが、俺の演奏を気に入ってくれたんですか?」
「ええ、あの時のあなたの演奏、素晴らしかったわ。感情がしっかりと伝わってきて、まるで音楽に魂が宿っているように感じました。それで、今日は少しお願いがあって来たの。」
「お願いですか?」
ミユキの話に少し戸惑いながらも、俺はその場で彼女の次の言葉を待った。彼女がわざわざ会いに来たということは、ただの褒め言葉ではない気がした。
「実はね、私が指導している音楽グループがあるの。そこでピアノを演奏してくれる人を探しているんだけど、ぜひハルトくんに協力してほしいの。もちろん、急なお願いだから断っても大丈夫よ。」
その提案を聞いて、俺は一瞬考え込んだ。ミユキが率いるグループでピアノを演奏するなんて、驚きと緊張が入り混じった気持ちだ。しかし、同時に興味も湧いてきた。もっと多くの経験を積むことで、自分の演奏をさらに高められるかもしれない。
「でも…俺なんかで大丈夫なんですか?まだまだ未熟ですし…」
「そんなことないわ。あなたには才能がある。それに、私たちのグループはあくまで楽しむための集まりだから、気負わずに参加してくれたら嬉しいわ。」
ミユキの言葉に、少しずつ不安が和らいでいくのを感じた。彼女が俺の演奏を気に入ってくれて、さらにその才能を信じてくれていることが嬉しかった。
「わかりました。ぜひ、参加させてください。」
そう答えると、ミユキは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、ハルトくん。次回の練習日程については、また連絡するわね。それじゃ、今日はこれで失礼するわ。」
ミユキは軽く頭を下げて、その場を去っていった。その後ろ姿を見送りながら、俺は新たな挑戦に胸を膨らませていた。
「ハルトくん、すごいじゃない!ミユキさんのグループで演奏できるなんて、チャンスだよ!」
アリスが嬉しそうに言ってくる。俺も思わず笑顔を返した。これから先、どんな経験が待っているのかはわからないが、確かにチャンスだ。この挑戦を通じて、さらに音楽の世界を深く知っていくことができるだろう。
「うん、俺も楽しみだよ。今度の練習、頑張らないとな。」
その日、俺は新しい決意を胸に、アリスと一緒に帰路についた。音楽祭が終わった後も、俺の音楽の道はまだまだ続いていく。そして、その道の先には、きっと新たな出会いや経験が待っているに違いない。
学校からの帰り道、夕暮れが街を染め、静かな空気が漂っていた。アリスと並んで歩きながら、ふと、彼女が隣で何かを考えているような気配に気づく。
「アリスさん、どうかした?」
俺が声をかけると、彼女は少し驚いたように顔を上げた。そして、何か言いたげな表情を見せながら、口を開いた。
「実はね、私も最近、ちょっと考えてることがあって…」
「考えてること?」
「うん、ハルトくんみたいに、自分のやりたいことを見つけたいなって。音楽も楽しいけど、それだけじゃない気がしてきて…なんだか、もっと自分らしいことを見つけたいんだ。」
アリスの言葉には、彼女の中で新たな決意が芽生えているように感じた。俺も同じような気持ちを抱いているからこそ、その気持ちがよくわかる。
「アリスさんなら、きっと何か見つかると思うよ。自分のペースで、ゆっくり考えてみればいいんじゃないかな。」
「ありがとう、ハルトくん。そう言ってもらえると、少し安心したよ。」
彼女は微笑んで、また前を向いて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます