第13話 音楽祭の幕開け
ホールに集まった観客たちのざわめきが、次第に大きくなっていくのを感じながら、俺は控室で深呼吸をしていた。音楽祭の本番がもう目の前に迫っている。リハーサルでの成果を信じ、自分にできることをやるだけだ。
「ハルトくん、準備はどう?」
アリスが控室に入ってきて、少し緊張した表情で俺に声をかける。彼女自身も緊張しているようだが、それでもその笑顔には俺を安心させる力があった。
「うん、なんとか大丈夫だと思う。アリスさんこそ、緊張してない?」
「少しね。でも、みんなと一緒ならうまくいくと思ってるから。」
アリスはそう言いながら、小さく微笑んだ。彼女の言葉に、俺は自然と肩の力が抜けた。音楽祭は個人戦じゃない。みんなで力を合わせて作り上げるものなんだと、改めて気づかされた。
控室を出ると、廊下で部員たちがそれぞれ最後の準備に取り掛かっていた。緊張感が漂う中でも、みんなが一つの目標に向かって努力している姿は頼もしい。
やがて、ホールに呼び出しがかかる。いよいよ、俺たちの出番だ。深呼吸をして、舞台袖に向かうと、観客席には既に多くの人が集まっていた。ホールが満員であることに気づくと、緊張が再び襲ってくる。しかし、ミユキからのアドバイスとアリスの励ましを胸に、俺は前を向いた。
「次の出番は私たちよ。頑張りましょう!」
アリスがみんなに声をかけ、部員たちは静かに頷いた。それぞれの楽器を手にし、心を一つにして舞台へと足を踏み出す。俺もその一員として、ピアノの前に座った。
舞台に上がると、照明の光が強く降り注ぎ、観客席はほとんど見えない状態だったが、逆にそれが少し安心材料にもなった。俺たちの演奏に耳を傾ける人たちがそこにいるのだと感じながら、最初の曲を始める準備を整えた。
「よし、みんな。いくぞ。」
アリスが指揮者として腕を上げ、演奏がスタートした。最初の曲は、元気いっぱいのポップソングだ。軽快なリズムが会場に響き渡り、観客たちも手拍子を始める。俺たちの演奏は、リハーサルの時以上に調和が取れており、全員が一つの音楽を作り出している感覚に包まれた。
ピアノを弾きながら、俺は観客たちの反応に耳を傾けた。拍手や歓声が聞こえてくるたびに、心の中に温かさが広がっていく。演奏する側と聴く側が一体となって、今この瞬間を共有している。そんな特別な感覚が、俺の中に生まれていた。
曲が終わると、ホールは大きな拍手と歓声に包まれた。アリスは満足げな笑みを浮かべ、部員たちも安心した表情を見せていた。だが、これで終わりではない。次の曲はミユキのアドバイスを反映した、感情を込めたバラードだ。
「次の曲は、もっと心を込めていくよ。さっきのアドバイス、覚えてるよね?」
アリスが俺に向かって軽く笑いかける。俺は静かに頷き、再びピアノの鍵盤に指を置いた。この曲は、より繊細な感情を表現するために、強弱の抑揚が求められる。ミユキの言葉を思い出しながら、俺は一音一音に心を込めて演奏を始めた。
ゆっくりとしたメロディがホールに広がる。静かで優しい音が、観客の心に直接触れるような感覚だ。俺はピアノの音に全神経を集中させ、音が流れるたびに感情が込められていくのを感じた。次第に、会場全体が静まり返り、誰もが俺たちの音楽に耳を傾けている。
曲が終わると、一瞬の静寂があった。その後、観客席から大きな拍手が沸き起こり、俺たちは互いに目を合わせながら満足感に包まれていた。演奏は成功したのだと、全員が確信した瞬間だった。
「すごく良かったよ、ハルトくん!」
アリスが興奮気味に言い、他の部員たちも喜びを隠せない様子だった。俺も自分たちがやり遂げたことに、心の底から嬉しさが込み上げてきた。
その後、控室に戻ると、ミユキが待っていてくれた。彼女は優しく微笑んでいた。
「素晴らしい演奏でしたよ、ハルトくん。特にバラードの部分、感情がしっかりと伝わってきました。」
「ありがとうございます、ミユキさん。あなたのアドバイスのおかげで、あの演奏ができました。」
「いいえ、あなたの才能があったからこそです。これからも音楽を大切にしていってくださいね。」
ミユキの言葉に、俺は深く感謝しながら頭を下げた。そして、この特別な日が終わりに近づく中、音楽祭は無事に幕を閉じた。
俺たちの演奏は成功し、音楽祭は大盛況のうちに終了した。観客たちは満足げに帰路につき、俺たち部員もお互いを称え合いながら、達成感に浸っていた。
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