第12話 リハーサル

音楽祭当日の朝、俺は少し早めに会場に到着した。空気は冷んやりとしているが、徐々に日の光が差し込み、今日が特別な一日であることを告げている。音楽部のメンバーも次々と会場に集まり、リハーサルの準備を始めていた。皆の顔には緊張の色が浮かんでいるが、それ以上に楽しみな気持ちも感じられた。


「おはよう、ハルトくん!今日もよろしくね!」


アリスがいつも通り明るい声で挨拶をしてくれた。彼女の笑顔を見ると、俺も自然と肩の力が抜けていく。アリスの明るさが、この部活を支えているんだと改めて感じた。


「おはよう、アリスさん。今日がついに本番だね。ちょっと緊張してるけど、なんとかやれる気がするよ。」


「うん、大丈夫!ハルトくんならきっと素晴らしい演奏ができるよ。私も楽しみにしてる!」


そんな会話を交わしながら、部員たちはそれぞれ楽器の調整や音響の確認を始めていった。俺もピアノの前に座り、軽く指を動かしながら準備を整えていく。ピアノの音がホールに響くと、自然と心が落ち着いていくのがわかる。


すると、会場の入り口からミユキが入ってくるのが見えた。昨日電話で話した彼女が、実際に現れると少し緊張してしまった。彼女は静かに会場を見回しながら、俺たちの準備を見守っているようだった。


「おはようございます、ハルトくん。早速リハーサルに参加させてもらいますね。」


ミユキが俺の方に歩み寄ってきた。彼女は落ち着いた雰囲気を持っていて、その存在感に少し圧倒されるような気がした。


「おはようございます。今日はありがとうございます、ぜひアドバイスをお願いします。」


「こちらこそ、楽しみにしています。早速、どんな音楽を演奏するのか、リハーサルを通じて見せてもらいますね。」


ミユキの視線は真剣で、その目からは音楽に対する深い愛情と知識が伝わってきた。俺たちは、彼女に見守られる中でリハーサルを開始した。最初の曲はアップテンポなポップソングで、観客を盛り上げるための曲だ。


演奏が始まると、部員たちの動きに少し緊張が見えたが、次第にリズムに乗っていく。ピアノの音がしっかりとホールに響き渡り、演奏は順調に進んでいた。しかし、ミユキの表情はどこか思案しているようで、終わった後にアドバイスが飛んできた。


「皆さん、全体的に素晴らしい演奏ですね。リズム感もしっかりしていて、観客を楽しませることができると思います。ただ、もう少しテンポの強弱をつけることで、さらに演奏が引き立つかもしれません。特にピアノパート、ハルトくん。音の抑揚を意識して、もっと感情を込めてみてください。」


ミユキのアドバイスに、俺はすぐに頷いた。確かに、演奏の中でテンポの変化を意識することが重要だと改めて感じた。彼女の言う通り、曲の強弱があることで観客に与える印象は大きく変わるだろう。


「ありがとうございます。確かに、もっと感情を込めるように意識してみます。」


「いい返事ですね。では、もう一度その部分を試してみましょう。」


ミユキのアドバイスをもとに、俺は再びピアノの鍵盤に手を置き、より深い感情を込めて演奏を始めた。今度は、意識的に抑揚をつけ、音に感情を乗せるように努めた。ホール全体に響く音が、前回の演奏とは違う感情を伴って広がっていくのがわかった。


演奏が終わると、ミユキは静かに頷きながら笑顔を見せた。


「とても良くなりましたね、ハルトくん。感情がしっかり伝わってきました。この調子で本番でもその感情を大事にして演奏してください。」


「ありがとうございます!頑張ります。」


ミユキのアドバイスを胸に、俺は自信を少しずつ取り戻し、音楽祭の本番に向けて集中力を高めていった。彼女の言葉が、俺たちの演奏にさらなる深みを与えてくれたように感じた。


リハーサルが無事に終わり、あとは本番を待つのみとなった。ミユキが控えめに見守ってくれる中、俺たちはそれぞれの役割を確認しながら、最終的な調整を行っていた。やがて、ホールに観客が集まり始め、会場の緊張感が徐々に高まっていくのを感じた。


「ハルトくん、いよいよだね。大丈夫、絶対にうまくいくよ!」


アリスが励ましてくれる。その言葉に、俺は大きく頷き、自分の役割を果たすために気持ちを引き締めた。本番はもうすぐだ。

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