第2話 驚きの訪問者
目が覚めた時、病室には微かな静寂が漂っていた。昨日はあれこれと考えすぎて、結局眠りにつくのに時間がかかったようだ。体を起こして伸びをすると、窓からは穏やかな朝日が差し込んでいる。
「ふう……やっぱりこれは現実か」
ベッドから身を起こし、昨日のことを振り返る。男女比が1:10の世界。男性が極端に少なく、俺がその貴重な存在になってしまった。まるで何かの冗談のようだが、どうやら現実らしい。
「さて、今日は何が起こるんだろうな」
自分に言い聞かせるように呟くと、ノックの音が響いた。部屋に入ってきたのは、昨日とは別の看護師だった。彼女もまた、明らかに美人だ。
「おはようございます、体調はいかがですか?」
「おはようございます。特に問題はないです。まだ少しぼーっとしてますけど。」
「それは良かったです。実は、今日はお客様がいらっしゃるんです。」
「お客様?」
「ええ。あなたが目を覚ましたことを聞いて、特別にお見舞いに来られたんですよ。」
「俺に?……誰が?」
俺には特別誰かに会うような予定もなければ、この世界に知り合いもいないはずだ。それなのに、お見舞いとは一体どういうことだろう。少しの疑念を抱きながらも、看護師は微笑みを浮かべて部屋を出ていった。
数分後、ドアが再び開き、俺の病室に入ってきたのは二人の女性だった。一人はおそらくこの病院の医師か、看護師だろう。だが、もう一人は明らかに違った。
彼女は高級そうなスーツを身にまとい、上品な雰囲気を漂わせていた。長い髪を流し、冷静で鋭い眼差しが印象的な女性。まるでこの世界のリーダーか何かのような威厳がある。
「初めまして。あなたが目を覚ました男性……ですね?」
「え、ええ、そうですけど……一体誰なんですか?」
俺は思わず身を引き締め、彼女に問いかけた。すると、彼女は小さく微笑んで口を開く。
「私はシェリア・フェルグリム。ここの地域を統括している者です。簡単に言えば、この世界での重要な決定権を持つ立場にあります。」
「統括……?」
「はい。そしてあなたのように、男性が目覚めたという情報は、非常に大切なものです。あなたがどのような方か、これからの生活をどのように支援できるか確認しに参りました。」
「支援……?」
一瞬、彼女の言葉の意味が理解できなかった。だが、次第にその重みが伝わってきた。ここでは男性が少なく、非常に大切な存在だということ。そのために、俺がどのような形で生きていくか、支援が提供されるというわけか。
「あなたがこの世界で快適に生活できるよう、特別なサポートを用意しています。まずは、あなたの身元や背景についてお聞きしたいのですが……」
シェリアが淡々と話を進める中で、俺は急に緊張し始めた。この女性が一体どれほどの影響力を持っているのか分からないが、少なくともこの世界で俺にとって重要な存在であることは間違いない。下手なことは言えない。
「俺の身元、ですか……俺は、ハルト。普通の学生でした。交通事故に遭って、目が覚めたらここにいた……それだけです。」
「ふむ……なるほど。前の世界では普通の学生だったのですね。それでは、これからの生活について少しお話ししましょう。」
シェリアはそう言いながら、書類を取り出し、いくつかの詳細を確認するようにし始めた。彼女の態度は落ち着いていて、冷静な印象を与えるが、どこか俺に特別な関心を持っているようにも見える。
「ここでは、男性が非常に希少な存在です。そのため、国としても男性には特別な待遇を提供しています。あなたには、この病院を出た後、住む場所と生活に必要なものがすべて支給されます。また、教育や仕事についても、希望すれば最適なものを用意できます。」
「支給って……俺、働かなくてもいいのか?」
「もちろん、働きたいという希望があれば、それに応じますが……働かなくても、生活には困りません。男性はその希少性から、国が全面的に支援する形となっていますから。」
まるで夢のような話だが、シェリアの表情は真剣だ。俺が何もせずに生きていけるなんて、そんなことが現実にあるのか?
「少し戸惑うかもしれませんが、私たちはあなたがこの世界に慣れるまでの間、全力でサポートします。ですので、何か困ったことや分からないことがあれば、いつでも連絡してください。」
そう言って、シェリアは名刺のようなものを差し出してきた。俺はそれを受け取り、彼女の名前と連絡先が書かれた紙を見つめた。
「じゃあ、俺はこれからどうすれば……?」
「まずは、しっかりと体を休めてください。そして、あなたの新しい生活を楽しむ準備をしてくださいね。」
シェリアは微笑みを浮かべて部屋を後にした。彼女の姿が消えると、再び病室に静けさが戻った。
「……これ、本当に大丈夫なのか?」
思わずため息をつきながら、俺は再びベッドに横たわった。新しい世界、新しい生活……まだ俺には全く実感が湧いていない。ただ、これからどうなるのかという期待と不安が、少しずつ膨らんでいくのを感じていた。
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