男女比が狂った世界に転生してる？

第3話 新しい生活の始まり

病院での数日間が過ぎ、俺は無事に退院することになった。シェリアの言葉通り、退院後の生活に関してはすでに手配が済んでおり、特に何も心配する必要はないらしい。俺の新しい住まいは、病院から少し離れた閑静な住宅街にあるそうだ。

病院の外に出ると、心地よい風が頬を撫でた。久しぶりの外の空気。とはいえ、ここが元いた世界ではないという違和感が常に心に付きまとう。見渡す限り、目に入るのはほとんどが女性ばかりで、男性は全くと言っていいほど見かけない。

「……本当にここは、男女比が1:10なんだな」

改めてその現実を受け入れようとするものの、まだどこか信じられない部分がある。歩いている女性たちが俺に気づくと、興味深そうな目でこちらを見ていることに気づき、少し居心地の悪さを感じた。そりゃあ、男性が少ないこの世界で俺が目立つのは当然かもしれない。

「ハルト様、お迎えに上がりました。」

突然の声に振り返ると、そこには黒塗りの高級車が止まっていた。車のドアを開けて立っているのは、昨日シェリアと共にいた女性だった。名前は聞いてなかったが、おそらく彼女もシェリアと同じ組織の一員なのだろう。

「どうも……ありがとうございます。」

「こちらへどうぞ。新しい住居までお送りいたします。」

俺は少し気まずい気持ちを抱えながらも、車に乗り込んだ。車内は静かで、外の音がほとんど聞こえないほどの高級感が漂っている。道中、女性は一切無駄口を叩かず、プロフェッショナルな態度を崩さなかった。

「シェリアさんは、どんな人なんですか？」

ふと、気になって聞いてみた。シェリアは昨日、俺に対して非常に落ち着いた態度で接してくれたが、その裏には何かしらの意図があるのではないかと思っていた。

「シェリア様は、この地域全体を統括している非常に有能な方です。男性の保護や支援にも力を入れており、特にあなたのように新たにこの世界に来られた方には、特別な配慮をされています。」

「そうか……」

俺の中で、シェリアに対する感謝の気持ちが少しだけ芽生えた。彼女はただ冷徹なビジネスウーマンというわけではなく、少ない男性を保護することに本当に心を砕いているのだろう。

車はやがて、住宅街の一角にある小さな一軒家の前で止まった。

「こちらが、ハルト様の新しいお住まいです。」

俺は車を降り、目の前の家を見上げた。外観はシンプルでモダンなデザインだが、どこか落ち着いた雰囲気が漂っている。正直、俺が住むには少し立派すぎる気がするが、この世界ではこれが「標準」なのかもしれない。

「本当に、俺がここに住んでいいんですか？」

「もちろんです。こちらの家はすべての設備が整っており、生活に不自由はないはずです。何かご不明な点や困ったことがあれば、いつでもお知らせください。」

「分かりました。ありがとうございます。」

女性が軽く頭を下げると、再び車に乗り込み、静かに去って行った。俺は一人、玄関の前に立ち尽くしながら、深い息をついた。

「……これから、本当にどうなるんだろうな」

自分に問いかけながら、ドアを開けると、家の中はさらに驚きだった。広々としたリビングルームに、最新の家電が揃っているキッチン、そして何よりも、その清潔感と高級感に圧倒される。

「ここ、本当に俺が住んでいい場所なのか？」

信じられないまま、俺は荷物を部屋の隅に置き、リビングのソファに腰を下ろした。何もかもがあまりにもスムーズに進みすぎている気がする。新しい世界、新しい生活、そして何よりも、この異常なまでの男性優遇のシステム……。

「ハルト様、失礼いたします。」

突然の声に振り返ると、玄関に立っていたのは若い女性だった。彼女はメイド服を着ており、手には書類の束を持っている。

「えっと、あなたは……？」

「本日からこちらでハルト様のお世話をさせていただく、リナと申します。何かお困りのことがあれば、いつでもお呼びください。」

「メイド……ってことか？」

「はい。こちらの家での生活が快適に過ごせるよう、私がサポートさせていただきます。」

リナはにこやかに微笑みながら答えた。その笑顔は非常に可愛らしく、少し無邪気さも感じられる。彼女もまた、この世界では特別な役割を担っているのだろうか。

「そうか……よろしく頼むよ、リナ。」

「はい！早速ですが、こちらの書類にサインをお願いいたします。今後の生活に関する詳細が記載されております。」

リナに促され、俺は書類を手に取った。内容は確かに、この家での生活に関するものや、支給される物資のリストだった。まるで夢のような待遇に、俺は再び戸惑いを覚える。

「これ、全部本当に俺がもらえるんだよな？」

「はい、すべてはハルト様のために用意されたものです。」

「そうか……なんか、まだ実感が湧かないな。」

リナは微笑みながら、俺の不安を察したのか、少し柔らかい声で続けた。

「大丈夫です。少しずつ慣れていけばいいんですよ。何も急ぐ必要はありませんから。」

彼女の言葉に少し安心した俺は、書類にサインをし、これからの生活を改めて受け入れることにした。

「じゃあ、これからよろしく頼むよ、リナ。」

「もちろんです！では、早速お昼ご飯の準備をいたしますね。」

リナは元気よくキッチンに向かい、何やら手際よく料理を始めた。俺はそんな彼女の姿を眺めながら、この新しい世界での生活がどう進んでいくのかを思い描いた。