第3話 憎しみ


 政策中枢の一員であるシモンは大鰐アリゲーター討伐に八代ヤシロを推薦し、実際に八代ヤシロを城へと招待していた。八代ヤシロは王に謁見を申し出たが、寸前、政策中枢首席のメアに止められた。


「メア、どけ。死人が出るぞ……」

「ならない。強行すれば死ぬのはお前だ」

「口が減らない女だ……」


 円卓の置かれた部屋にはシモンと八代ヤシロそしてメアが残り、言い争いを続けていた。

 メアは鞘から刀を抜くと


「死にたいか?」


 と八代ヤシロの喉元に刃を近づけ囁いた。

 八代ヤシロは微動だにせず、だが、不気味に笑った。上級剣士である八代ヤシロはメアの小さな迷いに気付いていた。


れるのか?……」


 この部屋で死人が出れば面倒なことになる。刃を向けるメアだが、メアには八代ヤシロる殺意はなかったのは事実。小さな迷いはメアに隙を生じさせていた。


「政策中枢幹部に何ができる?」

「ああ?」

「実戦にはほど遠いんだよ……」


 八代ヤシロとメアの挑発が続く。


 シモンが仲介に入った。今回の件は内密に、と八代ヤシロの推薦を取りやめた。


「けっ、権力は怖いねえ」


 唾を吐き捨てると八代ヤシロは部屋を出ていった。






 幻翠が大鰐アリゲーターを倒したのを八代ヤシロという男が見ていた。

 王国の依頼を受け損ねた八代ヤシロは、幻翠の大鰐アリゲーター討伐を快く思ってはいなかった。


 八代ヤシロは息の無い大鰐アリゲーターを背に去っていく幻翠に、気配を消しながら近付いていった。

 そして


「てめぇが幻翠かあ?」

「…………、誰だお前、……………………」

八代ヤシロってんだ、以後お見知りおきを」

「…………、…………」

「何黙ってんだよっ!」


 八代ヤシロは右拳を幻翠に放った。がしかし、幻翠は咄嗟に避けて八代ヤシロの左頬に強烈な右拳を叩きつけた。


 八代ヤシロはその体を後退させ、幻翠を睨む。


「て、てめぇっ!」

「…………、正当防衛だ、……………………」

「言うじゃねえかっ!」


 八代ヤシロは剣を構えると幻翠へと飛びかかった。


「所詮素手じゃ剣には勝てない」

「…………、バカだな、……………………」

「んだとっ!」


 幻翠は八代ヤシロの剣が振り切る前に魔術を展開した。

 皮膚硬化の術を唱え、右腕で八代ヤシロの剣を受けた。


 キィイイイイイイイイイイィンンッ!


 八代ヤシロつるぎは弾かれた。


「は、はあ!?」


 速度上昇の術を追唱し、驚き戸惑う八代ヤシロのみぞおちに見えぬ速さで右手を打ち込んだ。

 膝を付く八代ヤシロ、かろうじて息を繋ぐ。


「て、てめぇ……」

「…………、次は死ぬぞ、……………………」

「くそがっ…………!」


 倒れ込む八代ヤシロを横目で見遣ると、幻翠は踵を返し村へと帰っていった。



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