第2話 VS大鰐


 幻翠が貿易拠点の川にやって来るとすぐに大鰐アリゲーターを確認した。水面から顔を出しこちらを伺っているように見える。

 商船は全て大鰐アリゲーターに食われるのである。大商船『タイタン』さえも大鰐アリゲーターに食われるありさま。

 幻翠には期待そして裏には商人たちの思惑が見え隠れしていた。


「幻翠殿、お久しぶりです」

「………………、ご託宣はいい、…………………………、あいつをやればいいんだな、…………」

「そ、そうです」


 商人は怖がりながら一歩引いた。

 幻翠は一般人より少し背が高く、大柄の男。その商人は幻翠の体格とさらにはその目つきにひるんだようだ。


「…………さあ、…………やるぞ、…………」


 幻翠は船乗り場から小さな小舟を出し、のっそりのっそりと大鰐アリゲーターに近づいて行く。ギロッと大鰐アリゲーターの鋭い眼光が幻翠を貫くがのっそりと近づく幻翠をじっと睨む。

 瞬間、


 水面から大きな口が開かれた。幻翠は飲み込まれる寸前――


「…………速度上昇スピード、……………………、」


 小舟から姿を消した。

 上空に飛んだ幻翠。そして


「…………爆打、……」


 大鰐アリゲーターの上顎に叩き込む。頭から水中に沈む巨体に追撃を送る。


「……電撃付加、……摩擦低下、……倍速、……」


 魔術を重ねがけし肉体を強化していく。

 そして、電撃付加による拳を連続で叩きつけられた大鰐アリゲーターは身を一旦は引いたものの、水中から水球を幻翠に向かって飛ばす。

 速度上昇の付加魔法をかけた幻翠の体は、水球を視覚するとすぐに避けることができた。


 幻翠は水中に潜るとあまりの視界の悪さに大鰐アリゲーターの気配を察知するように魔術を自らの体にかける。


 大鰐アリゲーターは幻翠の背後に回り、隙を狙っていた。そして勢いよく口を開け突進した。

 幻翠は瞼を閉じたまま、大鰐アリゲーターの気配に集中する。接近する敵の感覚を感じ身を翻すと、大きく右に逸れた。

 大鰐アリゲーターは攻撃対象を見失うも、勢いあまり一直線に突進を続けた。


「…………、筋力倍加…………、」


 幻翠が水を蹴るように走り、大鰐アリゲーターに近づきその尻尾を掴むと思いっきり上方へと振り投げた。

 陸に打ち上げられた大鰐アリゲーター。いきなり姿を現した大型モンスターに見物客は叫び声を上げ一斉に逃げ出す。

 まだ状況を理解出来ていない大鰐アリゲーターはしばらく周囲を見回していた。

 しかし、


「…………、沈め…………、」


 幻翠は水中から飛び出し大鰐アリゲーターの上方に移動すると


「…………、重力倍加…………、」


 自らにかかる重力を倍増させ急速に大鰐アリゲーターに接近し、そしてその頭に蹴りをぶち込んだ。


 ギャガガガガガガガガガガガガッ!


 陸地は沈み大鰐アリゲーターの姿は見事に埋まっていた。

 息の根を止めた幻翠は商人を含む見物客に


「…………、終わりだ…………、」


 と、ぼそっと言うとそのまま王国の派遣に近寄り今回の報酬を受け取り、王国のエリート軍人や商人たちに背を向け右手を振りながらその場を去っていった。


 その後、王国の軍隊がこぞって大鰐アリゲーターを捕獲すると解体作業が進められた。


 商人は大鰐アリゲーターの肉を買い上げると、すぐに貿易船を出し、隣国へと向かうのであった。


 いつでも王は商人の操り人形だと幻翠は感じるのであった。



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