右ストレートでぶっ飛ばす…!

「……おはようございます」


目覚める。

今日は平日、つまりは学校がある日。


「腹減ったな…」


昨日は全くメシを食ってなかったので朝なのにとてもお腹が空いている。

しかし、俺は朝飯を大量に食べるとちょっと気持ち悪くなってしまうので…ここはやはり食パン一枚しか食べることが出来ない。


「…ふむ、今は六時…か」


二徹したとはいえ、昨日は昼間に一度眠り、夜も早めに寝た。そのおかげで気分はスッキリとしている。だからこんなに早く起きられたのだろう。


「…つまり昼飯を作る時間はタップリある…ふ、ふふ…! ならやってしまうか…! 悪魔的発想…!!」


昨日の俺は本当に偉い。眠くても米を予約炊飯してくれたのだから…。


それは禁忌的な弁当…。

本来弁当というのは米とおかずに分かるもの…その方が彩りやら栄養バランスがちゃんとあるからな。


しかし、今から俺がするのは茶色一色弁当なんて柔なもんじゃない。…俺がやるのは…。


「ククク…俺の弁当は二段弁当、…本来下の容器には米を、上の容器にはおかずを入れるが…今日はこの両方に米を入れるっ…!!」


どんどんと敷き詰めていき、合間に醤油を付けた海苔を乗せ、その上から更に米を乗せる。

それを何回か繰り返し、最終的には四合炊いてあった米が三合程下の弁当に詰め込まれていた。重い。


その上の段の弁当箱にはふりかけのワカメを掛ける。…ふふ、これこそが禁忌の弁当、ダブル米弁当だ…!!


我ながら恐ろしい発想…! いったいこの弁当にはどれ程の炭水化物パワーが詰め込まれているのなら…。計り知れないな。


「後はタッパーに適当なおかずを入れて…と、うし、弁当の準備はこれでいいかな」


あ、一応おかずは持って行くぞ? 米だけだと飽きるしね。


弁当をふろしきに包んでカバンに入れる。ずっしりとした重さがたまらない。今から昼休みが待ち遠しいくらいだ。


弁当はすぐに食べてもあんまり美味しくない。弁当が真価を発揮するのは時間が経ってから…。

少し冷えているけど、元々の料理の熱気が蓋の中に溜まり蒸らされている。…その蒸らすことこそ弁当が上手くなる所以。


時間が経っても美味しい…もしくは時間が経った方が美味しいのはそれが理由なのではないかと俺は考える。個人的に熱々よりも少し冷めたご飯の方が好きなのよね。

あ、でもカピカピした米は勘弁な、それを避ける為に蒸らしてるんだから…。


「……む? もうこんな時間か…」


弁当を作っているうちにいい時間になった。そろそろ学校へ向かう準備をしよう。


しかし一人暮らしというのは結構楽なんだな、洗濯物は週にまとめればいいし…前は毎日やってたからなぁ。

大変なこともあるが、それと同時に楽なこともある…このイイ塩梅をこれからも続けていきたいな。




「おはよ、名取」


「……あ?」


教室をガラリと開け、自分の席に向かっている途中、友人と話していたらしいいいんちょに捕まった。


こ、困るんだよなぁ…こうも教室で堂々と挨拶されては…これでも教室ではヤバい奴として通っているわけですし…。

なのでちょっとばかし心が痛むがここはガラの悪い態度を取らせてもらう。悪いな、いいんちょ。


「……あ、そうだったそうだった。名取は一応問題児だもんね。…まぁ私はクラス委員長だし別にいいでしょ」


「…うっせ」


うわー! 恥ずかしい! 改めて今の自分を見ると歯痒い…!

どう見ても厨二病ですご愁傷様でした。…誰に言ってるのかって? 自分に言ってるんだよ。


吐き出した言葉が元に戻ることはないで、取り敢えず自分の席に向かう。


と、そんな一悶着あったが、こっから先は特に問題なし、すぐに昼休みだ。


「あ、名取…ちょっと…」


「悪い、昼は用事があるからまた後で」


いいんちょが話しかけてきたが取り敢えず無視。すぐさま教室を出る。


「あ、ちょっ…」


バタンとドアを閉める。戸締りはしっかりね。


「………話したいことがあったんだけど」


その独り言を聞くものは既にこの場から去ってしまっている。だから、その言葉は誰にも届かなかった。




コンコン…と、俺にしては珍しくノックをする。


「失礼しても?」


「……あー、名取ね。…ちょっと待ってなさい」


保険医とは結構和解した。

いいんちょの件があっても、一応先輩のことは気に掛けないとなぁと思い昼休みに一回は保健室に顔を出すようにしていた。


そん時、雑談がてらと保険医と適当に話し、取り敢えずの信頼を勝ち得たといわけだ。アイムコミュ力パワーストロング!


んで、その時話した内容によると、今日は先輩が登校してくる日ということなので、なら一度声を掛けた方がいいかなと思い推参した。


しかし、…なんかちょっと緊張するな。…ここはそうだな──。


「…お待たせ、…一体どういうことやら…あれ程男性を恐れていた及川が名取の名前を出した瞬間に喜んじゃって…って、あんた何やってるの?」


「え?」


何って……。


「着ぐるみを被っているだけだが?」


「……私は、その頭だけの被り物を着ぐるみとは認めたくない。五光年前から出直して来て」


光年は距離の単位なのですが…。


俺が今被っているのは可愛らしい狐の被り物だ。この前ドンキで覆面を買うついでに買ってきた。


本当は馬の被り物しようと思っていたのだが…先輩はもっとファンシーなものの方がいいかなと思ってこちらにした。馬はプライベート用だ。


「どうっすか? これ。似合ってるでしょ」


「それを似合っていると言われて喜ぶ人間は相当の変人だと思うけど…まぁいいや、取り敢えずそれは没収、学校に関係ないものは持って来ない」


えー! これ結構高かったのに…。


強引に被り物を外されそうになる。…ぎゅっぎゅっと引っ張られて結構痛い。被り物がジャストフィットしているからだな。


と、そこでまたもや俺に悪魔的発想…! これは勝つる。


そのまま先生の力に体を委ね、いざ被り物が外れるその瞬間!

俺は首をすぽっと亀のように服の中に引っ込める。我ながら神業。


「はぁ全く…高校生なのに何をして……ぇ?」


先生の目に映るのは首が取れ、胴体だけになってしまった俺…ふふ、ここで一言。


「よ゛く゛も゛!! お゛れ゛の゛く゛ひ゛を゛と゛っ た゛な゛!!」


「きゃああぁぁ!!!」


映画女優顔負けの悲鳴どうも、いやぁ、そんだけリアクションがいいとこっちも気持ちが……。


「悪霊退散ッッ!!」


「ぐべッ…!」


こ、これが伝家の宝刀の右ストレート。俺は今、右ストレートでぶっ飛ばされてしまった。


保険医らしからぬ剛腕…ふっ、この拳は世界を狙える…っ!!


「きゃあぁぁ!!!」


ぱっと、首を元に戻した先に見えたのは、近くにあった消火器を上に抱えている保険医…。

あの、追撃にしては流石に殺意が…。


「死ねっ…!!」


「うわぁぁ!!!」


若干の涙目と泣きそうな声でいう台詞じゃねぇ!


慌てて体勢を整え、俺は保険医から逃げる。先生が正気に戻ったのは俺が消火器の攻撃を一度食らった時だった。

その後すげー怒られた。本当に反省してます。


恐怖耐性がない人を怖がらせるのはやめよう!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る