想いの対決での勝者は一人
当然、その前に説明しなければならないものがある。
本来の語り部はいいんちょ…しかし既にその言葉は流れ終わってしまっている。なので俺の方から改めて語らせてもらおう。
それは、とある少女の懺悔の過去。もう取り戻せない幼き日の過ち。
別に俺はそう思っちゃいねぇよ? ただ、当人がそう思っているのだからそう言うしかあるまい。
……始まりは三年前、つまりは中学一年の頃。
登場する人物は四人、その内の二人はいいんちょとキノコ頭…そして、最後の二人がキーパーソンとなる。
キノコ頭といいんちょは事前に言われた通り幼馴染である。キノコ頭は今より活発な性格であり、いいんちょは今よりももっとやんちゃな性格をしていたらしい。
やんちゃと言っても別に悪ガキとかそんなんじゃない。今みたいに髪を伸ばしたりせずに短い髪だったり、虫取り網を持って森に出かけたり…簡単に言えば男勝りの性格をしていたのだ。
いわゆるテンプレの女の子とは違い、人形遊びよりもドッヂボールとかをするのが好きだったらしい。
さて、そんな活発少女だった昔のいいんちょ…本人が言うにはその頃にはちょっとした欠点があったらしい。
それは結果を見据えず、自分の気持ちを素直に言ってしまうこと。…敢えて悪くいうのであれば、無責任な言葉をよく使うということでもある。
よく言えば自分の気持ちに正直…となるのだけどな。
例えば、私、実はなになに君のことが好きなんだ。と相談されれば、よし私がそれとなく聞いてあげよう! と思い、それを実行する。
逆にこの野菜嫌いだから食べてと言われれば。ちゃんと自分で食べなよ、それに私もその野菜嫌いだからやだ…と素直に言う。
簡単にいえば、自分の気持ち大事に素直に行動するのが昔のいいんちょだ。
やりたいことはやるし、やりたくないことはやらない…みたいな感じ。
今のいいんちょは人の頼み事を基本的には断らない。人道的にやってはいけないこと、それをしても相手の為にならないことを除き、めんどいことも自分で嫌だなと思うことも引き受ける。俺にはそう見える。
つまり、いいんちょはその自分を変えたのだ。
そんな俺にとっては欠点ではない欠点を何故いいんちょは克服しようとしたのか…それには残りのキーパーソンとキノコ頭が関わってくる。
その残りのキーパーソン…それは両者の姉と兄、いいんちょの姉と、キノコ頭の兄だ。
キノコ頭の兄はいいんちょより五つ上、そしていいんちょの姉が四つ上らしい。年齢が近いということもあってこの四人は比較的仲良く過ごしていたらしい。
そんなふうに過ごしていた四人だったが、とある日を堺にその絆に亀裂が走ることとなる。
さて、取り敢えずこの四人の関係性について軽く説明するとしよう。結構ドロドロだぜ?
まずいいんちょ、いいんちょはぶっちゃけ蚊帳の外の人だ。他の三人の関係性に食い込まない人物…物語でいうところのモブだ。
全員のことが好き(友愛的に)というだけの存在…だから、そこまで気に病む必要はないんだけどな。
…次にキノコ頭…こいつはいいんちょの姉が昔から好きだったらしい。
いいんちょによると大体幼稚園の頃から好きみたいだな。
その好き好き度は凄まじく、いいんちょの家に遊びに来ると必ず姉を探して、いたら遊んでもらうといった感じ。ベタ惚れってやつだ。
しかしいいんちょの姉の認識では隣の家の子供というだけであり、子供としては好きだが、どう足掻いても恋愛的な関係になることはないといった感じだったらしい。
さて、次にいいんちょの姉だが…その人はそのキノコ頭の兄が好きなのだ。
はい、もう結果が予想出来たと思うがもう少し待ってほしい。まだ話すべきことがあるから…。
……次にキノコ頭の兄だが、この人はほぼいいんちょと同じだ。
全員平等に好き。一番上ということもあって、全員を弟、妹のように扱っていたとのこと。ただしいいんちょ姉のことは少なからず想っていたらしい。
関係性を表すとなるとこうだな。
キノコ頭→いいんちょ姉が好き(偏愛)
いいんちょ姉→キノコ頭兄が好き。(ガチ恋)
キノコ頭兄→みんなが好き。(いいんちょ姉に対して好きがちょっと傾いている)
いいんちょ→みんなが好き(マジ蚊帳の外)
そんな三角関係っぽいものが構築されていたのだ。…うーん、いいんちょが蚊帳の外すぎで可哀想になってくるな。
いいんちょが小学校の頃には既にそんな関係が構築されていたらしく、四人で集まるとちょっとピリピリしてたそうだ。
キノコ頭はいいんちょ姉が自分の兄が好きであると察していたし、そんないいんちょ姉はキノコ頭が自分のことを好きだと察していた。
いいんちょはそれを側から見ていたのでなんとなく理解していたが、キノコ頭兄は鈍感らしくそのことに全く気付いていなかったらしい。
さて、その煮詰まった状況だったが、いいんちょ姉がその状況を抜け出すべく、先手を打ったのだ。
姉妹仲が良かったいいんちょ姉妹はとある日にこんな会話をする。
ねぇ、伊代。私…あの人に告白しようと思うの。
それは一歩先へ進む為の決意。それだけで済むのなら良し、単に決意表明を妹に伝えただけだからな。
しかし、話の展開的にそれだけでは終わらない。…いいんちょ姉は続けてこう言ったのだ。
…ねぇ、伊代の率直な感想を教えて…私が告白して…あの人は受け入れてくれるかな? 単なる妹としてしか見てくれないのかな…?
いいんちょ姉は不安な言葉をいいんちょに漏らす。
これまでキノコ頭兄はいいんちゃ姉のことを妹のように可愛がっていた。どれだけアピールしてもそのスタンスは変えなかったらしい。
もし、告白して、その答えが妹のようにしか見られないと言われたらどうしよう…と思ったのだ。
もしそんなことを言われるのだとしたら、告白しないでこのままの関係を保った方がいいのではないのか…そんな不安を妹であるいいんちょに漏らした。
それは単なる気持ちの吐露だったのだろう。なんのアドバイスも求めてはいない単なる弱音…しかし、いいんちょはその弱音にしっかりとした回答を出してしまった。
側から見ていたいいんちょだからわかっていたこと…キノコ頭兄はいいんちょ姉のアプローチに毎回深いため息を吐いていたことをいいんちょは知っていた。
そして、直接いいんちょはキノコ頭兄に聞いたのだ。…何故、毎回姉からのスキンシップに対してそんなため息を吐いていたのか? と。
その答えはこう、可愛い女の子からあんなことされれば誰でもドギマギする…ってな。
ドギマギするということは意識をしているということ…妹としてだけではなく、異性として意識しているといいんちょは知っていたのだ。
だからこそいいんちょは自分の姉の幸せを思ってこう言ったのだ。…それを言ったらもう一人の恋が終わることに目を塞いで。
『お姉ちゃんならきっと大丈夫。お兄ちゃんもお姉ちゃんのこと好きだって思ってるよ? お兄ちゃんとお姉ちゃん…お似合いな二人だと思うな、私』
とまぁ、こんな感じの言葉を言ったらしい。平凡的な応援の言葉ってやつだ。
いいんちょの立場でキノコ頭を応援出来るわけがない。これは相談という名の決意表明みたいなもんだしな…応援の言葉以外求められていないのだ。
その言葉を聞いたいいんちょ姉は元から決めていた覚悟を決め、キノコ頭兄に告白をする。
いいんちょの宣言通り、二人は正式に付き合うこととなった。
それが、二人が小学校六年の頃の話だ。
さて、晴れて恋人同士となった二人、二人はゆっくりとではあるが順当に親密になっていく。
二人が付き合ったことをキノコ頭は知らない。なぜ知らせなかったかはいいんちょにもわかっていないらしいが、二人が教えてないのなら自分が教えるわけにはいかないとだけ思ったらしい。
キノコ頭的にはまだ告白しても受け入れてもらえないだろうと思っていたらしい。もっと大人に…せめて高校生になってから告白する…ってな。
とんだすれ違いだ。
キノコ頭の想いは届かず、いいんちょ姉の想いは届いた…初めから叶わぬ恋だった。
それ自体は悪いことじゃない。悲しい話だが、両者に異なる思惑があるのなら自然と結末はそうなってしまう。
どちらかに勝者がいて、どちらかが敗者になる…これはそんな話だ。
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