どうでもいい奴のNTRビデオレターを貰っても正直何も感じない

「言っておくけど行為自体は本当に嫌なの。知らない人に肌を触らせたくなんてないし、出来れば最初は好きな人に捧げたいと思ってる」


「あら純情、最近の子らしくないな」


「今の普通がどうかなんて知らないけど、少なくとも私はそう思ってるんだよ。というか今のセクハラだよ? 訴える?」


「それは美人局という奴では…?」


「私一人で陥れたから美人局ではないね」


陥れたのは事実なのね…本当にイイ性格してるよなぁ。


いやまぁ、俺もこうなるかなと思って相槌を打ったので仕方ないとも言える。何円払えば許してくれるかな…。


「……じゃあなんであいつの提案を受け入れようとしてるんだ? 嫌なら断ればいいと思うんだが…」


財布の中身を思い出しつつ、そんな疑問をいいんちょにぶつけてみる。


「うーん…まぁ、そう出来たらいいんだけど。他ならぬ彼の頼みだから…なんというか、彼のお願い事は出来るだけ叶えたいって思うんだよね、私」


「ほーん…そんなにあいつのことが好きなんだな」


ひゅーひゅーと口を鳴らして揶揄ってやろうと思ったが、いいんちょの顔は未だに困ったまま。

普通好きな人間を思い浮かべたらそんな顔しないと思うんだが…。


「あはは…そこが話の肝でね。…正直、私が彼に対してどういう感情を抱いているのか…ちょっとわからないんだ」


「ん…?」


どういう感情を抱いているかわからない? どゆこと?


「彼のことは好きだと思う。それは確信をもって言える。けど、それが恋愛的なものなのか、それとも友愛的なものなのか…はたまた別のものなのか…それがわからなくなってきているんだ」


「それはこの前のことを言われてからか? それともずっと前から?」


「……多分、この前言われてから。…でも、正直に言うと…深層的な部分で言うとずっと前からそんな疑問が宿っていたんだと思う」


そう言ういいんちょの顔は苦痛に歪んでいた。まるで、そう思うことが悪であるとでも言うかのように。


それは何故? と疑問を問い掛けるのはまだ早い。

いいんちょは頭がいい、そして話の組み立ても上手い…なら、理由は自ずと語られるだろう。


「あのね、私と彼…幼馴染なの」


幼馴染…あ、ふーん。


幼馴染、俺にもいるぞうん。

あれよな、幼馴染って奴はその相手にどんだけ甘えたっていいって風潮がある気がする。


特に女性の幼馴染が甲斐甲斐しくお隣の男を世話するパティーン…(発音良く)あれ意味わからんよな。

なんたって単なる偶然で隣の家に生まれただけなのにあそこまで世話になれるよな。


もうちょっと…なんというか感謝をして欲しい…! お節介と言われたらそれまでだが、こっちはテメェの親に面倒見てくれって言われてんだよ。断りづら過ぎるわざけんな! それなのにそんな返答されたらこっちとしてはどうしようもないんだよ馬鹿タレ。


…何故ここまで俺がキレているのか…それには理由がある。

というのも、俺は隣の家の幼馴染を世話していた時期が中々ある。というか去年までずっと世話していた。


俺の場合はよくある関係とは逆で、俺が女の幼馴染(複数)を世話する…だったんだが、そいつらはまぁ家事が出来ない。


幼い頃から自分のことは自分でやっていた俺はそこそこ家事スキルがある。料理も出来るし洗濯、掃除なんでもござれ。

そんな俺の万能さが隣の家の親にバレ、頼みこまれる形で小学校六年から世話をすることとなった。丁度家から離れてぇなーと思ってたし、まぁ最初は役得だった。


そいつらは双子で俺の二歳年上…今だと高校三年になる。趣味はゲームとスポーツだった気がするな。


その二人は俗に言う天才という奴で、一人はスポーツで全国大会までいく強者、もう一人はプロゲーマー&ストリーマーをしていた。


そこら辺に才能をぶち込んだのか、そいつらは一切家事をしない。家中ゴミまみれ、脱ぎ散らかした服まみれ、机の上には前日食べた食器がそのまま…とか、もうやりたい放題だった。


表面上は感謝してもらっていたが、多分内心では俺のことを小間使いかなんかだと思っていたんだと思う。正直俺もそんな感じだなと思いつつ世話をしていた。

なんでそんな相手に世話をするの? と思うかもしれないが、一つの理由としてはお隣さんの親に配慮して、もう一つは金をもらっていたから。


お隣さんは両親共にバリバリ働く人で、出張やら何やらで基本的に家を空けている。だからあそこまで奔放に育ったのだろう。

バリバリ働くお陰かせいか、お隣さんは金払いはいいタイプで、一ヶ月隣の幼馴染を世話するだけで十万円も貰えた。


小学生、中学生にとって十万という金は大金も大金、小学生の頃から親元から離れてぇなぁと思っていた俺にとってその話は美味しすぎた。

だからこそ小間使いの様な扱いをされても我慢出来たというわけだ。旨みがなかったらあんな苦行してたまるか。


よく中学の同級生に、あんな美人な幼馴染がいるなんて羨まし過ぎる…!! とか言われていたが、あの二人の実情を知ればそんな気は失せる。


確かに見てくれは良い、むしろ最高峰とも呼べるかもしれないが、あいつらはズボラ過ぎる。


家の中では基本的に下着、俺のことなんて男とすら思っていない。

それでいて下着姿を見たら変態と罵られ、罰金をせびられる。マジでクソだと思ったね。


最終的には目隠しをして家事を出来るようになったのでそこ辺のリスクは打ち切れた。現実の幼馴染なんてこんなもん…や、俺の場合が特殊なのか? 俺もうわからないよ…。


とにかく、そんな感じでいろんな現実を知っているわけだ。美人の双子と持て囃されようとも中身がアレじゃあねぇ? 空想は空想のままにしておいた方がいい時もあるということだ。ずっと夢見ててぇなぁ。


本当に蛇足だが、そいつらは結局二人で一人の彼氏を作った。


何処で知り合ったか知らんがいつの間にか家に居座り、俺が家を掃除している側でその二人とイチャコラしてたな。見た目はスゲェイケメンだった。


倫理観終わってるぅと思ったが、俺には関係ないので仕事は続けたが、去年の夏にその男から家から出てけと言われた。


言われた内容はクソ長ったらしかったので要約するが、確かここにお前の場所はない。みっともない執着心で俺の女に縋るなや…とか、そんなだったか?


俺の方も受験勉強をしたかったのでその言い分は割とありがたかった。なので親御さんに連絡して幼馴染の世話を解約、俺は晴れて自由の身となった。

なんだかんだあのイケメンには感謝している。クソ怠い重荷を一身に背負ってくれたからな、いい人。


まぁ、俺に対してそいつらと乱交をした動画を送るのはどうかと思う。


愛人君見てるぅー? 今、君の幼馴染は二人とも俺の横で寝てまーすww。…とか言われても困るんだよなぁ。なんでハメ撮りを俺に送ったんだろう。送信ミスかな?(棒読み)


こいつらやっべ、デジタルタトゥーじゃーんww。とはちょっと思った。可哀想なのでその録画データは削除してあげたけど。


とまぁ、俺の幼馴染に関してはこんな感じだ。結構碌でもないだろ?


……ちょっと心残りがあるとするなら、その幼馴染には俺と同い年の妹が一人いることだ。

その子は双子の姉達とは違い家事を幾らか手伝ってくれた。


わからないところがあれば教えて欲しいと言われ、作った飯は美味いと言ってくれる。あの環境の中では天使と呼べる子だった。

まぁその子も家事は苦手だったんだが…でも苦手なりに頑張ろうとする姿勢は微笑ましく思える。だからどれだけ間違っていても許せた。それに少しずつでも修正出来てたしな。一度コツを掴めば大丈夫らしい。


その子はとても頭が良く、中二の時に海外へ留学してしまったが、偶に連絡を取るくらいには今でも仲が良い。

……元気かなぁ栞ちゃん。今年日本に帰ってくるとか言ってた気がするけど、どうだったかなぁ。


……とまぁ、幼馴染のそういった面も知っているので一概に幼馴染はクソ!! とは言えないんだよなぁ…。


で、いいんちょの幼馴染はいったいどんな感じの奴なのだろうか。

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