名残は名残のままで終わらせよう
帰り道、一人で暗い道を歩く。
そこで思い出すのは…及川先輩を背負った時の感触だ。…率直言おう、おっぱいのことである。
ぷよんとかそういう次元ではなく、ぽにょん…とかぱひゅん…とか、そんな次元の感触だった。
なんだあの爆乳、意味わからんくらいデカかったんだけど。マジで今まで見たことがない代物だった。
いやね? 流石にあの時は状況が状況だったんで死んでも口、顔、態度に出さなかったが、先輩がいない状況ということもあって先程の感触が段々と蘇ってくるわけなのだよ。
あどけない顔に不釣り合いな二つの至宝、他の部位もとても健康的な見た目をしていて目を離すことが不可能と思える程の魅力…いやこの際魔力と呼ぶべきものが先輩にはあった。
それでいて声は鈴のように可愛らしく、笑った仕草は心を確実に撃ち抜く…。あまり見た目に気遣っていないのか、少しばかり髪の毛が痛んでいたりしていたが、それすらもチャームポイントと言えよう。
気弱な仕草は男の嗜虐心を呼び、震える仕草で更に男の獣性を増長させていく。
俺を掴んでいた指も弱々しいので男は力で絶対に負けないだろう、声も小さいから何かをしようとしても誰にも邪魔されない。
強引に押し伏せることも容易。誰かが助けない限り先輩一人では助かることは出来ない。
例えこの先牢屋にぶち込まれることになろうとも構わない…そう思える程に欲望が掻き立てられる。先輩はそんな魔力を宿していた。
正に男の性欲の為に用意されたような女性…それが及川先輩だ。
うわぁ、アレはやべぇよ。確かにあの爆乳なら死ぬほど狙われるよ…。
男はみんな乳が好きだ。大きいのと小さいのと関係なく乳が好きだ。かく言う俺だって乳は大好きだ。
……しかし、同時に悲しくも思う。そんなことをあんまりだろうと嘆いてしまう。
だって、先輩はあんな爆乳を持っているからこそ怖い目に遭ってしまうのだから…。
別に爆乳を持っていなくてもそうなる確率はあるが、やはりあの別格のモノを持ってるとなると話は変わってくる。
自分の望まない身体特徴で襲われるのだから先輩の身からしたら絶望の一言しかないだろう。…ボディーガードを雇うべきでは?
だからといって襲われるのが当然…という考え方はダメだ論外。普通の人間は襲うことなんてするはずがないんだからな。
マジで下半身と脳が直結してる奴は死ねばいいと思う。だから女性による男性恐怖が発症するんだよアホンダラ。
「……ふぅー、深呼吸深呼吸…忘れろー、忘れろー…」
先程の感触を忘れるべく努力する。
先輩が爆乳という先入観を捨てるんだ。…もっとプレーンな状態で先輩と察するんだ。
これから先、もしかしたら先輩は俺を頼るのかもしれない。その時になって俺が変な目で見れば先輩の傷は余計に広がるだろう。
「……暫くは爆乳、巨乳ものでヤルのはやめておくか、貧乳でヌこう」
忘れる為の努力だ。ちょいとキツイが頑張ろう。
─
翌朝、朝の支度をする。
そして登校、展開が早いな。
「ふぁーあ」
がらーっと教室のドアを開く。
昨日は結局布団に入った後も感触を忘れることが出来なかった。未熟だな。
しかし一晩経てばそれも終わり、俺は先輩の感触を忘れていた。サンキュー俺の単細胞脳、マジ助かるわぁ。
だが、それでも少し寝不足感は否めなく、アホ面を晒しながら自分の席へと向かう。寝る前にちょっとした作業を行っていたというのも寝不足の理由だ。
一人暮らしで一番辛いのは何かと言われたら、それは起床だろう。
インターネットやらゲームとかで様々な娯楽が生まれた現代、暗闇に支配されていた時代よりも人間の活動時間は格別に増えた。
夜空という恐怖の象徴も消え去り、今ではすっかり光が世界を覆っている。故に夜更かしもしやすい状態となっている。
だから現代人は慢性的に寝不足となっているんだ。
楽しいことがいっぱいだからなー、そりゃ眠りたくないだろうよ。
しかし残念かな、人間という生物は睡眠を補給しないと生きていけない生き物…いつか人間は催眠を克服できるのだろうか、出来ればしないで欲しいというのが本音。
この眠気に負けそうになる感じも俺は嫌いじゃない。それを超越して頑張るぞって気持ちになるのも悪くない。
そんな当たり前がなくなるのはちょいと寂しく感じてしまうのだ。
「しっかし高校生になってもアレだな。なんにも世界は変わらんなぁ」
大人になればなんでも出来ると勘違いしていた子供のように、高校生になれば何かが変わると思っていた。
俺の方に変わる意思がないということもあるが、それでもなんらかの存在が引っ張って変わるもんだと思っていた。
例えばそう、授業の形とか、高校生の授業のイメージとしては楽しくキッチリ、真面目にやってるもんだと思っていたが、実際はそうではない。
授業中にも後ろの席の奴と喋るし、なんなら隠れてスマホの操作をしている奴もいる。これじゃあ中学生とか小学生とかと同じレベルだ。
結局図体ばかりデカくなって精神の成長はあまりしていないのだろう。無論、そうなっているのは一部の生徒だけだが。
その一部以外の生徒…その筆頭はやはりこの女だろう。
「………」
いいんちょ、こいつは真面目が似合う女だ。
授業中の私語は厳禁、周りのうるさい連中には死ぬほどおっかない目で睨んでいる。あの視線に晒されたら絶対ギョッとするぞ。
「ふぁーあ…」
欠伸をしながらぼーっといいんちょの方を見てみる。すると、突然いいんちょが俺の方を向いてくる。
「おっと…」
慌てて視線を逸らすがもう無駄だ。いいんちょの口撃のターゲティングは既に終わっている。
「あら名取、そんなよそ見してていいの?」
「あー? 別に問題ねぇよ。授業はちゃんと聞いてるしな」
「そ、まぁ知ってたけど。貴方って不真面目な態度に反して授業態度はちゃんとしているわよね。ほんとに不良? 不良の風上にも置けないんだけど」
「別にちゃんと聞いてるんだからいいだろうがよ…それに不良の風上ってなんだ? 俺は別に不良をやってるつもりはねぇよ」
「……確かにそう言われてみると妙ね。髪は染めてないし禁止されているピアスも付けてない。制服は着崩しているけどまぁ許容範囲、授業をサボるのかと思えばちゃんと聞いてる…あれ? 要素だけ集めてみると全然不良じゃないわ」
「だから言ってるだろうが、俺は別に不良じゃねぇって…」
うーんと可愛らしく悩みながらそう言われると何故だか俺が悪い気がしてくる。美人にそうされるとそう思うのは何故なのだろう? 七不思議?
「あ、そうよね。名取は不良じゃなくてイキリ一匹狼か…。…知ってる? 一匹狼って様々な媒体でカッコいいって持て囃されているけど、実際の一匹狼って群れから溢れた負け犬なんだって、つまり弱者の象徴らしいわよ?」
「知ってるよんなこと。それに俺は一匹狼気取ってるわけじゃねぇよ。めんどいから他人と関わってねぇだけだ。誰がそんな寒い二つ名を騙るかよ」
「えー? 入学初日からあんなこと言ってる癖にそんなこと言う? 自分の発言を見返した方がいいんじゃない?」
ほんとこの女は…マジで口が悪いな。
だけど何故だろう。全然気分が悪くならない。美人に罵倒されてイイと思う気持ちがわかるかもしれない。
その理由としては…やはりいいんちょは俺に対してマイナスの感情を用いずに言葉を発しているからだろう。これが気持ち悪い! とか、死ねばいいのに…とか、そんな感じのニュアンスで言われてたら流石にキレていたかもしれん。
「うっせーわ。てかこんなに私語を発していいんか? ちゃんと授業聞けや」
「あら屈辱、まさか名取にそんなこと言われるなんて…」
ちなみにだが俺といいんちょの席は隣だ。誰も俺の隣に座りたがらなかった結果、いいんちょが生贄となったのだ。
だからこうして気安くお喋りしているわけだが…。
「どうしたいいんちょ、急に席を近付けて…教科書忘れたか?」
「それは大丈夫、けどちょっと書き流しちゃったことがあってね。名取は授業ちゃんと聞いてるだろうし、よかったら見せてくれない?」
おや珍しい。いいんちょがそんな初歩的なミスをするとは。
「別にいいが、ノートを貸すくらいなら別に席をくっつける必要はねぇだろ。俺のこと好きなの?」
「は? そんなわけないでしょ。私にノートを貸して貴方の作業を中断させられるわけないじゃない。だからくっつけているの、それに私には彼氏いるし」
「ほぉ!」
なんと、いいんちょは彼氏持ちだったか、ちょっと気になる。
「あら、興味があるの? 他人に興味がないとか言ってた名取が?」
「そりゃ気になるさ、お堅いいいんちょに彼氏がいるなんてとんだ珍事だし」
「珍事って…割と酷いこと言うね名取。…というか名取ってこんなに話しやすかったっけ?」
「お?」
「昨日まではもっと…なんというか触れるもの全て傷付けるみたいなイキった雰囲気してたのに、今日の名取は相当マイルドになってる。何かあった?」
「あー……」
その原因はやはり及川先輩だろう。
あの時及川先輩を安心されるべく、なるべく優しい態度を取り続けたからな、それが今もぶり返してるんだろ。
「…あれだ、高校生デビューでキャラを作ってたんだよ。これが俺の素だ」
「へー、やっぱりイキってたんだ。恥ずかし」
別に恥ずかしくないが? 今でもそのキャラに戻ってもいいんだが?
しかしなぁ、可能性は低いだろうが、学校で先輩と出会った時にそんな態度をしていたら怖がらせてしまうだろう。だからやっぱりダメだ。
「うっせ、うっせ。あのキャラはやるのが疲れるからなぁ、暫くはこっちでやっていくとするよ。無論、基本的なスタンスは変えないし無駄に話しかけたりはしないだろうが」
殆どの奴は俺がヤバいやつって思ってるからな、無駄に関わろうとする奴はいないだろ。なんでもうあのキャラは閉業することにする。
「えー勿体無い、名取結構話しやすいし面白いのに…あ、ノートありがとね」
「ん」
寄せたノートをいいんちょは素早く返してくれる。これ、後でノートだけ貸せばよかったのでは?
まぁとにかく、いいんちょの意外な事実を知る一コマだった。
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