背徳感は興奮のスパイス? ふざけるな周りのことを考えろ
あの後追ってくるいいんちょの魔の手から逃れつつ、適当に時間を潰せる場所を探す。
こういう時オーソドックスな場所は保健室、サボりの代名詞の場所だ。
しかし、保健室とはマジで辛い人も通っている場所…それほど疲労がない俺がお邪魔してもその人の迷惑になるだろう。なのでそこは却下。
あんまり廊下をウロウロするわけにもいかないし、どっか適当な場所がないかなぁーと探すこと数分、俺は丁度いい場所を見つけた。
それは屋上、昨今の学校では危険なので立ち入り禁止となっている場合が多いが、この学校では珍しく解放されている。
この学校の屋上には分厚いフェンスがあるし、頭頂部には返しもあるので万が一にも落ちる奴はいないだろうとのことだ。実際に飛び降りた人間はこれまで一人もいないらしいしな。素晴らしい。
しかし俺もかなりイケイケだな。授業をサボって屋上に行くなんて…ふふ、ちょっとワルかもな。
気分を上々させ、屋上の扉を開くと、そこには──。
「ぁんっ! あぁ…! そこっ…! ぃイっ!」
「せ、先輩…不味いですよ! 今ここに誰かが来たら…」
がしゃん! …と、わざと大きめな音を出して扉を閉める。
「……はぁーぁ…」
なんですか? なんなんですか? なんで俺は他人の情事を目にしなきゃならんのですか?
ふぁっくふぁっくファーック! もうええて、そういうのは家で見慣れてるんだって。
なんで人間って野外やら人がいる場所でセックスしたがるのだろうか、羞恥心とかないのだろうか。
いや、逆か、そういう羞恥心やら人にバレるかもしれないという瀬戸際に性的興奮を覚えるのだろう。
でもそういうのは見せられる側からしたら堪ったもんじゃない。いやマジで。
そっちは性的興奮を覚えるのだろうが、こっちは気持ち悪いという感情しか湧かないのだ。勘弁して。
こっちは母親がキッツイメイド服着ながら元友人のシモを口で奉仕している姿すら見たことあるんだぞ、マジでキツイ。
もうね、そいつらのせいで俺は母親もののAVが見れなくなりましたよ。生物はマジでキツい。それが波及して三次元も二次会も無理無理。なんなら一次元でも無理だぁ…。
何やら扉の奥で慌てるような声が一瞬聞こえたがその後はまた嬌声が聞こえてきたのでもう知らん。慈悲として先生にはチクらないでやろう。マジで俺に感謝した方がいい。
さて、そんなわけで屋上が使えなくなってしまったわけだが…次にどこで暇を潰そうか。
いっそのこと今から授業に復帰し方がいいのでは? やっぱり学生は勉学に励まなければな。
そうと決まれば善は急げ…さっさと教室に戻るとする。
教室に戻ると当たり前だがそこには授業風景が広がっている。
「……遅れた理由は」
「ションベンっす」
「…ならいい、さっさと席に触れ」
「うっす」
こんなふうに簡潔に要件を済ます先生の名前は長谷川流ながれ。世界史の先生だ。
目元には隈が深く刻まれており、見るからに不健康そうな顔をしている。しかしその状態でも美人だとわかる顔立ちをしている。
背中ほどに伸びた黒髪は顔と対比して艶やかであり、着古した黒スーツは所々のほつれがあるが、それが気にならないくらいにそれを着こなしている。
しかし、なんでこんなに不健康そうな見た目をしているのだろう。それぐらい教師というのは激務なのだろうか。
これ以上先生に過労を与えるわけにはいかない。なので俺は素早く自分の席に戻ることにする。
「…授業に戻るぞ、…で、ナイル川ではエジプト文明、ティグリス川•ユーフラテス川ではメソポタミア文明、黄河•長江では中国文明、インダス川ではインダス文明が生まれ、その四つの文明を纏めて四大文明と……」
ノートを取り出し授業の内容を書き写す。
ノートを取るときに必要なことは教師の発言もしっかりと書き写すこと。教師という生き物は板書に書かれたこと以外もテストに出したがるものだ。
さてさて…その川の周りでは灌漑農業というものが発展した…と。へー、増水による被害もあるが、それを加味しても川の近くに住むというのには利点があったんだなー。
ふんふんと興味をそそられながら授業を聞き続ける俺なのであった。
─
キンコンカンコン、授業終わりの鐘がなる。
「…今日はここまで、次の授業ではメソポタミア文明について詳しく話す。予習はしなくていいが、復習はちゃんとするように」
そうして先生は重そうな荷物を持ちながら教室を出ていく。
長谷川先生はちょっとした小物を扱いつつ授業を進める。だから持ってくる荷物が多いのだろう。
長谷川先生が具合が悪そうだったということもあり、なんとなく気になってその後を追ってみることにした。
決していいんちょから逃げる口実が欲しかったとかそういうのじゃないぞ。
長谷川先生の足取りは重い。見るからに辛そうな顔をしている。
授業中は凛々しい顔をしていたのに教室の外に出ると途端にしょぼんとした顔をしている。
「せんせ、大丈夫っすか?」
「…ん、あぁ…? えーと、今日の授業に遅刻した…名取だっけ?」
あまりにも辛そうだったので思わず声を掛けたが…どうやら悪い感じで覚えられていたな。
「うっす。その件は申し訳ありませんでした」
「いーよ。時には遅れることもあるよな。それに名取は割と真面目に授業を受けてたし、平常点は情けで下げないでやるよ」
なんと慈悲深い。平常点を下げられるのはちいと厳しいから本当に助かる。
「あざっす。…ところで死にそうな顔してますけど大丈夫っすか?」
「んー…日々の激務でちょっとねー…あ、そうだ。平常点やるからこの荷物持ってくれよ。最近肩が痛くて重いもの持つと頭痛がするんだよ」
「お安い御用っす。どこ運べばいいっすか?」
元々手伝おうと思っていたのでそっちの方から言ってくれて助かる。
ひょいっと、先生の持つ荷物をひったくり、どこに持っていくか聞いてみるが…。
先生は何故だかキョトンとした顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「え、あーいや。そんな素直に引き受けてくれてびっくりしてる。君って不良って噂じゃなかったっけ?」
「その評価は間違ってないっすけど…まぁ人助けはやっとけってばあちゃんの遺言があるんで、それに平常点も美味しいっすからね」
やはり教師陣の中でも俺の噂は広がっていたか…まぁしゃーなし、気にしないでいこう。
「……ふーん。なんかごめんな、君のことを穿った見方をしてたよ。やはりダメだな、個人のことは自分の目でちゃんと判別しないと…周りの噂に振り回されるなんて愚か過ぎる」
「別に間違ってないから大丈夫ですよ。俺がガラ悪いってのは本当のことなんで」
律儀に先生は俺に対して申し訳なさそうな顔をしながら謝ってくる。そんな顔しなくていいのに…やはりいい先生だ。
「…ん、まぁ君がいいならいいか、…それじゃあ着いて来てくれるかい? 今から向かうのは三階なんだけど大丈夫?」
「余裕っす」
「頼もしいねぇ」
その後、遅れた時の授業内容の質問をしつつ俺は先生の荷物を運ぶのであった。
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